第30話ゴンザレス王とグリノア②

「何をおっしゃられますか!!

 我らのご主人様はこの世でただ1人……むぐぐっ!?」


 妙齢お姉様に変なことを口走ろうとする密偵ちゃんの口を手でふさぐ。


 ダメダメ、余計なこと言っちゃダメよ!


『相手が敵か味方かも分からない内に余計なこと言わない、いいね?』


 密偵ちゃんは納得したらしくコクンと頷く。


 それはそうと密偵ちゃんの可愛いお口に手を当てているから、くすぐったさと共にとても良い感触が……。

 ゴンザレスうずうずしちゃう!!


 密偵ちゃんを口説いてベッドに引きづり込もうとか不埒なことを考えたのだけど……やめておこう。


 どうしてって?

 口に出した瞬間、あら不思議。


 わたくしが密偵ちゃんのベッドに引きづり込まれる予感がするわ?


 あり得ないはずのことが起こりそうで、ゴンザレス想像だけで怖くて震えて来てしまうわ!


 いけないわ、ゴンザレス!

 それは罠よ!

 そうなったら最後、夜な夜なベッドの上でケツ毛抜かれることになるわよ!!!


 想像してみるとえげつないので、俺はそれ以上考えるのをやめた。


 おっと、とにかくせっかく相手が勘違いしてくれているのだ。

 ここは今後の安全のために話に乗っかっておこう。


「やや! これはこれは、かたじけのう御座います!

 ささ! ソーニャお嬢様! ご厚意甘えましょう!」

「何言って……」

 ソーニャちゃんが何かを言おうとする前に、俺は畳み掛けるように妙齢お姉様に話しかける。


「こちらはタイロン公爵家のお嬢様に御座いまして、まあ、船でゲシュタルト連邦に渡る際に海に飛び込む事態となりまして……いえ、一言で言いますと不運にも魔獣に会いましたが、運良く巨大な魔獣は気付くことなく我らを引っ掛けたまま、ここまで流れ着いたということなのです」


 ソーニャちゃんはボソリと。

「……凄いわね。何一つ嘘がないわ」

 そうでしょう、そうでしょうと俺は頷きながら、妙齢お姉様に下から頼み込むようにお願いをする。


「今は着のみ、着のままに御座いますが、必ず御礼をいたします故、何卒、どうかお助け頂けませぬか?」


 妙齢お姉様はジロジロと俺を見て、ずぶ濡れでありながら気品漂うソーニャちゃんを見て、侍女服の密偵ちゃんを見る。


 そして、再度俺をジロジロ。

 ……何故かしら?


 あんたがこの人たちの主人で王様でしょ?

 反応見ようとしてそう言っただけよ?

 何、誤魔化そうとしてんのよ?

 バレてんのよ?


 そう目で訴えかけられているような気がするのは!!!


 気のせいよ!

 ゴンザレス!!

 それは気のせいなのよー!!!!


 俺の額にタラリと汗が滲み出して来た頃。


「……まあ良いわ。

 ついて来なさい」

 ジト目のまま、俺にそう言い放ち妙齢お姉様はお尻フリフリしながら先にスタスタと歩いて行く。


 色っぺぇぇえええ!

 良い感じに油が乗ったお姉様も良いねぇ〜。

 ゴンザレス、ああいうお姉様も好みなのよ。


 白髭執事はそんな俺を見てニコリ。

 それからこれぞ執事というべき一礼をして、妙齢お姉様の後を音も立てずついて行く。


 俺は頭をボリボリ。

 ありゃあ〜、完全に気付かれてんなぁ〜。


 おかしいなぁ〜、海からあり得ない感じに入り込んだのにどこで手口がバレたかなぁ?

 ……きっとどこかで俺の顔を見られてたんだろうな。


 これだから王になると目立つから嫌なんだよなぁ〜、詐欺出来ないじゃん。


 ま、仕方ない仕方ない。


「どうすんのよ?」

 ソーニャちゃんが睨みつけるように聞いてくる。


「とりあえず風呂借りて、飯食って寝よう」

「……大丈夫なの?」

「詐欺には致命的だ」

「詐欺のことじゃないわよ!!

 あんた王様なんだから詐欺ろうとするんじゃないわよ!!!」


 おうふ、なんと小気味良いツッコミだ。

 エルフ女のようなツッコミマスターになれるぞ?


「……ツッコミマスターって何?」

「さあ?」


 もちろん、思いつきだ。


 でもまぁ〜、いざとなったら連れて逃げて?


「行き当たりバッタリね」

「いざという時はこの命に変えても逃げ道を確保致します」

 静々と侍女オーラを放ちながら密偵ちゃんがそう言う。


 そういうのダメよ〜?

 いざという時は皆で逃げて、皆でベッドインするのよ〜?


 ソーニャちゃんがボソリと。

「病院送り……?」


 ゴンザレスのゴンザレスが震え上がってしまった。



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