第29話ゴンザレス王とグリノア①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからね?




 どうも、アレスです。

 ゴンザレスでも良いよ?


 元詐欺師の大国の王です。

 あ、ちなみに今は公爵令嬢と一緒に波打ち際で倒れてます。

 何それ、って感じですね。


 ……ほんと、なんで?


「ご無事で何よりです」

 ムクっと起き上がると、目の前にずぶ濡れ侍女服の密偵ちゃんが控えていた。


 濡れた侍女服が張り付いて女性の魅力がたっぷりよ?

 ゴンザレス、モジモジしちゃう。


 あら? 貴女ついてきちゃったの?

 一緒に海に飛び込んで、溺れるソーニャちゃんを抱えて泳いでくれたわね。


 その後は魔獣を呼び寄せて運んでもらったから、事なきを得たけど1歩間違えればかなり危なかったわ。


 まさか、ソーニャちゃんが泳げるなんて詐欺を仕掛けるなんて。

 恐ろしい娘!


 飛び込んで来てくれて助かったけれど、部屋に入った時にはわたくしたちが何処に行ったか分からなかったでしょうに。


 ……よく海に飛び込んだと分かったわね?


 うん?

 最悪を想定して海に飛び込みました?

 ……うん?


 ……貴女、わたくしたちが海に飛び込んでなければどうしたおつもり?

 船が引き返して助けになんて来ないわよ?


 その場合、お館様方は海には落ちていないということで、他の者がお館様のお力になったかと?


 うん、貴女のことよ?

 そう、密偵ちゃん貴女よ?

 何故、首を傾げるのかしら?

 ゴンザレス、その反応が怖いのですけど?


「え? お館様が無事ならそれで良いのでは?」

「……って、良くねぇよ!」


 何故、また首を傾げる!

 もうちょっと自分を大事になさいよ!

 言っちゃあなんだが俺は自分が第一だぞ!?

 誰が犠牲になっても俺は生きるぞ!


「お館様がご無事であることが私どものただ1つの願いです」


 いやいや! 生きろよ!

 まず生きてこそだぞ!?


 お前、アレだな!

 カストロ公爵領の人間だろ!

 あの難民集団の中か、娼館か、もしくは各国から集めてきた解放奴隷か……!?

 それとも……、えーっと、えーっと。


 ちっくしょぉぉおおおおおお!!!!

 候補が多すぎる!!!!


 チンケな詐欺師に何故そんな絶対の忠誠を誓ってやがる!

 訳わかんねぇよ!?


「私どもにとってお館様がチンケな詐欺師であられたことは、ただの一度も御座いませぬが?


 認識はどうあれ、お館様に一族郎党救われた身に御座います。

 お館様のためならばこの命何一つ惜しくはありません。

 イリス様を筆頭にカストロ公爵領の者は皆、同じ思いに御座います」


 いや、惜しめよ!!!


 美人があっさり散ろうとするなよ!

 まず惜しんだついでに助けろよ!


 ……何故泣く!?


「私めのような者にまで、そのような……もったいのう御座います……うう、グスッ」


 カストロ公爵領の奴等からしたら俺って詐欺師ではなかったのね!


 そういえば一度も詐欺ってない!?

 むしろ俺が詐欺に掛けられてた気分だった!!


「ねえ、ソーニャちゃん。

 これなんとかならないかなぁ?」


「……その絶対の忠誠を誓われる貴方にもビックリだけど、まず私たちを運んだ魔獣。

 アレ、何?」


 何って、今言った通り魔獣だけど?


「なんで魔獣が私たちを運ぶの!?」


 なんでって……、飛び込む前に薬振りかけたでしょ?

 アレで群れの仲間と思われたはずだからね。


 あ、あと! ソーニャちゃん泳げるなんて嘘ダメよ!

 嘘吐きは詐欺師の始まりよ!

 メッ!


「そ、れ、よ、り、も!!


 貴方、あの魔王討伐の時!

 船から落ちた訳じゃなくて自分から逃げたのね!!」


 あ〜、たまたま魔獣に船室の壁壊されたしラッキーと思って。


 普通、船は逃げ場が無いから海に落ちたら死んだと思ってもらえるんだが。

 イリスやメリッサ、エルフ女もカケラも俺の生存を疑わねぇんだもん、参った参った。


「普通、ラッキーってならないから!!!


 普通でもなんでもなく、魔獣が山ほどいる海に落ちたら、間違いなく死ぬから!

 なんで生きてるのよ!!」


「なんでって……、死にたく無いし」

「そりゃそうだけど!!」

 ソーニャちゃんは砂浜で地団駄を踏む。


 元気だねぇ、体力失うぞ〜。


「我々はお館様のためなら命は惜しみません。

 この命、ご随意にお使いください」


 何度も言わなくていいから。

 とりあえず美人なんだから簡単に死のうとしないようにね?

 密偵ちゃんは生きて俺と一緒にベッドインしてくれるだけで良いから。


「勿体のう御座います。

 うう……」


 何故喜ぶ!?

 チンケな詐欺師感覚の俺はセクハラして喜ばれる身の上に慣れてないんだけど!?


「大丈夫〜?

 貴方の主人起きた〜?」

 執事らしい白髭おじさんを連れた、艶やかな黒髪の妙齢のお姉様がこちらにやって来る。


 俺はシャキッと立ち上がり、妙齢のお姉様に丁寧に一礼する。


「これはこれはお美しいお姉様。

 ご心配をおかけしました」

「あー、良いから良いから、それより貴方の主人はご無事?」


 お姉様は『このメンバーの主人である』ソーニャちゃんに目線を送る。

 間髪入れずにソーニャちゃんに白髭執事がタオルを渡す。


 あー、そうだよねぇ〜……。


 ゴンザレスにご主人様オーラなんてないものね。

 俺は自分の立場を忘れないように改めて身を引き締めた。


 えっ、王様?

 詐欺ですよ?

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