第28話ゴンザレスとソーニャ⑥

 無事に謎の夜会(?)から抜け出して、それから……。

 現在、帝国の秘宝ことソーニャ・タイロンと2人旅。

 ゲシュタルト連邦王国に向かう船になんとか乗り込めました。


 あれ? なんでこうなったっけ?


 そうそう、ツバメちゃんはカレンの護衛に残り、イリスはエストリア内で頼みたいことがあったからナリアちゃんと一緒に帰ってもらった。


 そのナリアちゃん!


 カレンの言ったように、医術師に診てもらった結果!!!

 なんと! なんとぉぉおおおお!!!

 ナリアちゃんは女の子だったので、そのまま俺の嫁の仲間入りとなった。


 分かってたよ……、とか言うなよ!

 ビバ! S級男の娘改め、女の娘ナリア!


 嫁仲間が増えることについて、嫁さんたち全員慣れたもので全く反対はなかった。


 イリスだけには、エストリア国に先に戻ることを渋っていたけどベッドで説得した。

 それで良いのか、S級美女?

 嫁だから良いのか……。


 そんでもって余った(?)のがソーニャちゃんだ。

 そんな俺たちだが、どうにか乗った船の上で少々揉めている。


「ちょっと? 貴方、なんでお金持ってないのよ!

 王様なんじゃないの!?」

「いやぁ〜、それがどうやったらお金を貰えるのかさっぱりで……」


 カストロ公爵の時もそうだったけど、超大金持ちだったらしいが、俺自身金を持っているわけではない。


 どこにあるのかしら?

 海の向こうの理想郷ニライカナイ


 現在、ソーニャちゃんはあの縦髪ロールをばっさり切って、肩口までの髪の長さだ。

 切り取られた見事な金髪を束にして売ろうと思ったら、冷たい目で海に撒き散らして捨てられた……。


 帝国の秘宝ソーニャ・タイロンの金髪ロール、絶対高値で売れただろうに……。


 お金がー! お金が無いのです!!

 お金を下さい!!!


 この船も公爵令嬢の名を使って格安で、かつ後払いで乗り込んでおります。


 ほんと、王様のお給料ってどうやって貰ったら良いの?

 王様って1番上だからお給料をくれる上司も雇い主も居ないのよ?

 誰か王様代わって?


「どうやったらって……誰かに言って持って来させたら良いんじゃないの?」


 流石、由緒正しき公爵令嬢ソーニャちゃん!

 よく分かってる!

 これが由緒正しきお金持ちか。

 自分が金を持っていなくても払わせてしまえば良いのですわね!


「あれ? でも誰に言えば良いのかな?」

「誰って……貴方、なんで1人で行動してるのよ?」


 今更ながら、ソーニャちゃんはキョロキョロと辺りを見回す。

 いやぁねぇ〜、コッソリ隠れている密偵しかいないわよ〜?


 あの人たちってお供と言えばお供なのかしら?

 でも一生懸命隠れているようだからバラしたらダメよねぇ?


「1人って……ソーニャちゃんと一緒に居るじゃん?」


 ソーニャちゃんはバンバンと船室に備え付けのテーブルを叩く。

「私しかついて来ていないじゃない!」


 王様と公爵令嬢の2人旅って確かにおかしいよねぇ〜。

「密偵が付いて来てるし」


「……それはそうでしょう。本当の意味で王様を1人にするわけ無いでしょうし」

「うーん、でもさあ〜。

 それだと行動がバレバレだよね?」


 ソーニャちゃんはキョトンとした顔をする。

「バレバレって……誰に対して?」


 俺はそれには答えずニヤッと笑う。


 目立たないことは大事だよ?

 どんな強者だって罠を仕掛けられれば生き残ることだって難しい。


 考えてみるといい。

 そもそも詐欺に遭うのは、自らの情報を詐欺師に握られてしまった者だ。

 自身の欲望が素で詐欺師の前に、自らの個人情報を曝け出すのだ。


 楽して金儲けしたい、楽して自分だけ楽しく生きたいなんて奴は、詐欺師にとってこれ以上ないぐらいの極上の餌なのだ。


「うわっ! 気持ちの悪い笑い方!」

「ひどい!!」


 ひどいわ! ソーニャちゃん!

 わたくしをまるでエルフ女がそうするのと同じ扱いわね!


 まあ、ソーニャちゃんは特に俺を主人として慕っているわけではないので、そんなものかもしれない。


「まーまー、それはともかく飯も食べたし、そろそろ行こうか。

 これ、身体に振りかけて」

 俺は青い液体の入った瓶をテーブルに出す。


「何これ?」

「う〜ん、魔物避け? 魔物に懐かれる?

 そんな感じ」


 さらに俺は持ってたデカ目のヤスリみたいな道具で、船室の壁をガリガリ削る。

 結構硬いなぁ〜。


 ガリガリ。

 ガリガリ。

 ガリガリ。


「……何やってんの?」

「見ての通り……あ、ソーニャちゃん泳げる?」


 瓶を手に持ったまま何故か挙動不審なソーニャちゃん。

「そ、それは……人並みには泳げるけど〜……」

「それは何より。

 さあさあ、それ、身体に振りかけて」

 俺はソーニャちゃんから瓶をひったくり、自分とソーニャちゃんに中身を全て振りかける。

「え? えっ!? 何!? 何なの!?」


 俺はガリガリやった船室の壁をガンッと蹴り穴を開ける。

 何とか人が通れる穴。

 もっと楽に開けるはずだったんだが、思った以上に頑丈な壁だ。


「穴なんて空けていいの?」

「大丈夫、大丈夫。

 責任取らされないように逃げるから」

「へ?」


 どうせ、後払いの船代も払えるアテなんかないんだし。


「さあ、行こうか」

 ちょんと押し出すようにソーニャちゃんを蹴り出す。

「へ? えぇぇえええええーーーー!?」


 落ちていくソーニャちゃんの後に続き俺は海に飛び込む。


 飛び込んですぐに……。

「がぼぼび!? がびごゔゔぉ!」


 ソーニャちゃん溺れてない!?

 うわっ!? 暴れながらしがみ付くな!!

 一緒に溺れる!


 ソーニャちゃん!!

 人並みに泳げるって……は、謀ったなぁぁあああああああ!?


 がゔぼぼぼお!?


 その直後、船から小さな影が海に飛び込んで来たが、残念ながら俺は暴れるソーニャちゃんとの戦いで最大の危機を迎えていたので、それが何者か気付いてはいなかった。


 溺れる者はワラをも掴む!!

 とりあえず誰か助けてぇええ!!!


 この日、とある王ととある公爵令嬢が海の藻屑と消えようとしていた。


 ……それはともかく、ソーニャ・タイロンと皇太子殿下との婚約が『解消』され、急遽、ソーニャ・タイロンがエストリア王の元に嫁ぐこととなった。


 そのため、いくつもの憶測が流れたが、一番有力な説は帝国の権力抗争の結果という話。

 別の憶測の一つにこの日、世界最強No.0が『突然』現れソーニャ・タイロンを皇太子殿下から奪ったという憶測だ。


 ただ……世界最強No.0は神出鬼没。

 まさかと笑いながらも、誰もが心の中で、『まさか』と思わずにはいられない。


 いずれにせよ、確かに言えるのは、帝国の秘宝は帝国皇太子からエストリア王の元に。


 そして帝国皇太子が自ら帝国の秘宝と婚約解消しておきながら、エストリア王に更なる対抗意識を燃やしてしまっていること。


 もちろん、とある元詐欺師は成り行き任せで、そんなことになっているとは気付きもしなかった。

 今は……、まだ?


 こうして、エストリア王であると噂される世界最強No.0の伝説がまた一つ。


 ……なお、この日で伝説が終わらないことを祈るのみである。

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