第27話ゴンザレスとソーニャ⑤
イリスを見ると、皇太子殿下へ絶対零度の眼差し。
ああ……、ああ!!
あの目はかつて俺を刺し殺そうとした冷酷な目ではないか!
つまり皇太子殿下、始末しちゃおうかなぁ〜って考えている目だ!!
皇帝陛下からブロックサイン!
『どうにかしてくれ!』
俺からのブロックサインでのお返事!
『無理! どうやって!?
お宅の息子さん何してくれちゃってんの!?』
俺と皇帝陛下はブロックサインの応酬。
『そこを何とか!』
『むしろ俺が解決策知りたい!』
解決策なし!!!!
ふと腕の中(いつの間に?)のソーニャちゃんが身じろぎして俺を見上げている。
綺麗なお顔ねぇ〜?
このままキッスでも奪ってしまおうかしら?
は!? 殺気!!
顔を殺気の方に向けると、イリスが絶対零度の眼差しを俺に向けている。
『アレス様〜?
何、私を放ったらかしにして、別の女構ってるのかしら?
ああぁ〜ん?』
ヒィイイイイイ!?
そんな風に聞こえる気がする!!
皇太子殿下を人質に取るなんて、なんて女だ!!
……まあ、俺からしたら別にいいかな、と思わなくもない。
皇帝陛下がさらに激しく首を横に振る。
皇太子殿下は自信あり気に仁王立ち。
俺も事情を知らなければ、王者の風格と思ったかもしれない。
実際、自信があるのだろう。
一時は魔王にあわや滅亡と追い込まれつつも驚異的な復興を遂げ、魔王の時も邪神騒動の時も、世界救済の行動を率先したのは帝国だ。
コルラン国は日和見、エストリア王国は内部で権力争い、ゲシュタルト連邦王国は魔王にぼろぼろにされ……結果的には、4大国の中で一番勢いと世界の支持を受けていたと言って良い。
その帝国の次期皇帝だ。
しかもこの場には自らの派閥のみ。
そりゃあ、婚約破棄も美しい女を手に入れることもよりどりみどりだ。
俺はおおよそ聖職者らしくなく……聖職者ではなく詐欺師だから当然だが、ぼりぼりと頭を掻く。
近くにいた貴族が俺を訝しげな顔で俺を見る。
俺は一歩進み出る。
腕の中にソーニャちゃん抱えたままだけど。
ソーニャちゃんは何故か大人しい。
何故だ!?
……可愛いので、ゴンザレス気にしない。
「あー、皇太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう?」
周りから一斉に怪訝な顔をされた。
しょうがねぇだろ!
スラム上がりが急に王になったから、上流階級の言葉遣いが出来る訳じゃねぇ。
「なんだ貴様は?」
「いやいや、それはごもっともなお言葉。
わたくしめは、女神教のブックマーク派の教祖をさせて頂いております。
……えーっと、アレスで良いのかな?」
皇太子殿下も当然、
「なんだ貴様は」
皇太子殿下はもう一度繰り返す。
ちょっと〜、わたくしのように落ち着きなさいよ〜、今、言いくるめるアイデア考えてるんだから。
こういう時、毎回ほんと何も良い考えが浮かばない。
「いえいえ、そちらのイリスはわたくしめの連れでしてね?
如何に皇太子殿下と言えど、御容赦のほどを頂きたく……」
「イリス・カストロで御座います」
俺の言葉を受けて優雅に礼をするイリス。
……そうよね、貴女、もうアレス・カストロの奥方ですものね。
あらやだ?
名乗っちゃったら、バレバレじゃないの!?
どうしましょう!
……本当にどうしよう?
「……なるほど。
貴様が『英雄王』とか呼ばれて、調子に乗っているカストロ『公爵』の妻の1人か」
調子に乗ってません。
『英雄王』なんて呼ばれたくありません、是非やめて頂きたい。
それと非公式だからと言って、奥方の前でその旦那である他国の王に対して『公爵』呼ばわりはいけません!
外部の者に聞かれたらどうするんですか!!
……どうしよう!?
イリスが誰もが見惚れる絶世の笑みを浮かべてる。
分かる。
アレって、今すぐにでもこの場に居る全員を虐殺しようかと考えてる笑みだ。
思わず、皇帝陛下を見ると上を見上げて、顔に手を当ててる。
お手上げですか、そうですよね。
そこで俺の腕の中にいたソーニャちゃんがするりと抜け出し、皇太子殿下の前に。
先程の態度はなかったかのように優雅に振る舞う。
「殿下。
お酒の上での戯言とは言え、アレス王の奥方様の前で少々言葉が過ぎるかと」
ソーニャちゃんはこちらを振り返り、深く頭を下げる。
「我が国の者が無作法をして申し訳ありません。
このような騒ぎになった
どうぞ、責めは私めにお願い致します。」
ソーニャちゃんのその挨拶で完全に遅まきながら、俺がそのアレス王本人であることに気付いた貴族連中が騒ぎ出す。
あー、な〜んかややこしいなぁ。
俺は所詮、スラムの生まれ。
そういう国のアレコレなんて実に性に合わん。
イリスはチラリと俺を見る。
どうしますか?と。
俺は仕方なく口を開き、芝居掛かった口調でソーニャちゃんに尋ねる。
「ソーニャ嬢。
貴女様は今、皇太子殿下と婚約は解消なされた。
それは間違いないですか?」
ソーニャちゃんは目線を下のまま返事はしない。
「
皇帝陛下が代わりに返事をする。
俺は皇帝陛下と目が合うと互いに頷き合う。
俺たちの心は今一つになった!
『とりあえずこの場をなんとかしよう』と。
「では、ソーニャ嬢。
貴女には帝国と王国との更なる架け橋となって頂きたいと思います。
よろしいですね?」
具体的にどんな架け橋かはこの場では明言しないけど、意味は一つ!
ユー! 嫁に来ちゃいなよ!
「……はい」
うむ、と俺は頷き、イリスに目線で促す。
イリスは皇帝陛下のみに一礼しい俺の後に続く。
突然の俺たちの茶番劇に、何が起きたか分からず呆然とする皇太子殿下以下貴族連中の間を、ソーニャちゃんの手を取りゆったりとその場を後にした。
残された皇太子殿下以下、貴族たちには何がなんだか分からないことだろう。
大丈夫!
俺もよく分からない!
大事なことはただ一つ!!
ソーニャちゃんをゲット出来た、それだけだ!
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