第26話ゴンザレスとソーニャ④
「バルトよ。婚約破棄とは言い方を間違えておるぞ?
婚約解消であろう?」
皇帝陛下はチラリとこちらを見てそう言った。
破棄と解消。
それは似て非なるものだそうで。
破棄は一方的に相手の都合も名誉も関係なく終わらせるもの。
解消は互いの合意を持って互いに納得し握手をして終わらせるもの。
「父上……いえ、陛下。
婚約破棄で御座います!」
ああ! せっかくの皇帝陛下の心遣いを皇太子殿下が台無しに!!!
皇帝の苦悩が滲んだ表情に気付いてあげて!
それに気付くことなく皇太子殿下は演者のように両手を広げ朗々と語る。
あれ? どこかに台本ない?
え!? 天然!?
なんて才能の塊なんだ……、あんた……世界最高の役者になれる、いや、やっぱ無理だな。
ソーニャファンクラブを敵に回したし。
「この女は不貞を働いたのです!
これは正しく婚約破棄すべきことです。
王家としては、このような侮辱行為を見逃す訳にはいかないと愚行致します!」
尊大な感じで皇太子は堂々と宣言する。
次期皇帝だから偉いんだけどね?
……とは言え、この場合はまさに愚行だね。
折角、皇帝陛下が適当なところでお茶を
しかしそれは空気が読めてないというより、逆に空気を読んだからだろう。
周りへの自身の立場を強固にするため、ここで弱腰に見える態度は出来ないという判断だ。
実際、ホームであるこの会場で……、自分に反対したり意見したりする者が居ない中での婚約破棄を狙ったのだろう。
それは今後の帝国内政治からタイロン公爵家を完全に弾こうとする意図があり、まあこれは要するに帝国内の権力争いである。
……どーでも良いですけどねぇ〜。
ソーニャちゃん、いじめんなよ?
万を越えるソーニャファンクラブ敵に回すよ?
なんで万を越えるかって?
エストリア王がファンクラブ会員だからだよ?
ファンクラブNo.0番。
欠番になってた番号もらったよ。
……な、なんでわざわざNo.0をくれたのかしら?
わたくし、理解出来なくてよ?(声震え)
会長は第3諜報部隊で邪教潜入の際に居た1人。
ソーニャちゃんの部下の人。
生きてたのねー。
「……待て。
やめろ、落ち着け。
話はちゃんとつける」
何故か皇帝陛下が俺の様子を見て、視線だけ向けて小さく呟く。
額には何故か汗。
……落ち着いてるけど?
俺が暴れ出すとでも?
暴れ出しても皇帝陛下が片手で制圧出来ると思いますが、いかが?
ふと振り返る。
イリスと目が合うと美しい笑みでにっこり。
イツデモイケマスヨ?
そう聞こえた気がするのは気のせいだ。
どうしてかしら?
誤解だ! 勘違いだ!
そう叫びたいのにイリスを見た瞬間、『あ、出来るわ』と思ってしまうこの現実をわたくし、受け入れられないわ?
ギギギと音がしそうなほど、無理矢理に顔を皇帝陛下の方に戻して告げる。
「委細お願い申す」
お願いだからもう適当に解散しよ?
そして皇太子殿下?
皇帝陛下のすぐそば(俺の隣)に居る危険人物に早く気付いて?
超有名人よ?
帝国に祖国を滅ぼされているから、帝国を滅ぼすのに
そして、何故かわたくしの言うことをよく聞くの、不思議だわぁ〜。
ゴホンとわざとらしく咳込み皇帝陛下は再度促す。
「なあ、バルト。
タイロン公爵は我が国の忠臣だ。
ソーニャ嬢にも落ち度はあったかもしれんが、上に立つ者としてそこを受け入れる度量は必要だ。
何もこのまま婚約を続けろと言うのではない。
婚約解消とし互いに遺恨のない形に持っていくべきだと言っておるのだ」
「ははっ! これは偉大なる皇帝陛下のお言葉とは思えませぬな!
世界に覇をとなえ、世界の皇帝足らんとした父上に私は深い憧れを抱いておりましたが。
それも今となっては、ですな!」
気付けよー!?
気付いてくれよぉぉおおおお!!
見ろよ! 周りを!
何人か驚愕の表情で俺らの方を見てるだろ!?
気付いた奴もいるんだよ!
まず誰よりもお前が気付けよ!
お前のパパンがなんで必死に止めてるのか気付けよ!!
動揺し過ぎて俺は思わず遠い目をしてしまう。
……別に帝国内のことだから、俺にはどうでもいいしなぁ。
もうこのまま肩を抱き寄せたままのソーニャちゃんを連れ出して、後は好きにしてもらおうかな。
「待て、早まるな」
俺が遠い目をしたことで、皇帝陛下は『またしても』何故か勘違いをしたのだろう。
何故か今度は俺をハッキリ見て焦り出した。
「父上。一体誰を見て……」
そこで皇太子はようやく俺たちに気付いたようだ。
おせぇよ!
……いや、まだ俺には気付いてないっぽい。
目線がイリスに釘付けだ。
皇太子殿下はポツリ。
「美しい……」
うん、もうカオス。
無論、いつものことだった。
後、ペリーネ嬢がエゲツない顔で睨んでるんだけど?
皇太子殿下、それにも気付いて?
ゴンザレスからの心からの、お、ね、が、い。
うんうん、そうだね、イリスは超美人だよ?
だから?
皇太子殿下は内心だけで動揺しまくる俺たちを無視してイリスのそばに近寄る。
「貴様、我が嫁になれ」
俺は咄嗟に皇帝陛下の方を見る。
驚愕の表情で顔を横に振る皇帝陛下。
ででで、殿下ぁぁああああああああ!!
なんばいいよっとね!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます