第24話ゴンザレスとソーニャ②

「あー、もう! ソーニャちゃんを迎えに行くぞ!」

 俺はまだごちゃごちゃやっている皇太子殿下のところにイリスを伴い歩き出す。


 ここで話していると話がどこまで行くかさっぱりだ!

 次元の彼方まで支配してるとか言われそうだ!


 いくらなんでも言わないよね?

 フリじゃないからね?


 もうね、前までは俺の知らないところでいつの間に〜か話がデカくなっていたけど、今では俺の目の前で盛大な誤解が発生している。


 しかも大概、規模がデカい!

 世界最強ってなんですの!?


 俺が世界最強No.0を騙ったせいか!

 これが詐欺というものか!


 いやいや、なんでやねん。


「ワシも同行しよう」

 おうふ、皇帝陛下を引き連れて行くのですのね、わたくし。


 わたくしは一体何者かしら?

 ねえ? 幸せの青い小鳥さん教えてくれるかしら?


 この会場に鳥なんていねぇけどよ。






 私は好き勝手に興奮しながら叫く皇太子を何処か遠い世界の人を見るように眺める。


 あ〜あ〜、ついにこうなちゃったか。


 思えば私は公爵令嬢としてだけじゃなくて、世界ランクナンバーズとして忙しく帝国のために働いていた。


 それが貴き血の宿命だと教え込まれたから。

 小さな頃からお転婆で周りの人からも心配をかけながらも、義務に対して怠ったことはない……つもりだ。


 それが崩れ出したのはいつからか。

 考えるまでもない。

 チンケな詐欺師のあのクズ男に出会ってからだ。


 最初に出会った時はびっくりした。


 娼館に潜入捜査をした時もあの男は真っ直ぐ私に声を掛けてきた。

 娼館での潜入捜査は初めてで、着飾った私を何かがおかしかったのか誰も声を掛けてこなかった。


 部下たちに言わせれば、美しすぎて誰も声を掛けられなかったと言っていたが、部下たちはいつもそう言うからアテにはならない。


 そんな中、あの男は迷いなく真っ直ぐに私に声を掛け褒め称えた。

 胡散臭すぎて即、部下たちが縛りあげたが。


 ……ただ、今にして思えばあの男はその時から異常だった。


 なんとその場でプロの密偵であるはずの部下たちの心を掴んだのだ。

 正直、何が起こったのか分からなかった。


 あの男は捕まった姿のまま、全力で私を褒め称えただけだったから。

 正直……引いた。


 そんな異常性についても後で思い返してようやくそう思い至ったのであって、一緒に居た部下たちも誰一人として、その場では気付かなかった。


 何処からどう見てもただのクズだったから。

 おそらく実態はただのクズに違いない。


 命乞いが部下たちの心に響き、あの男は始末されることなく、その時行われていた任務に数合わせに投入された。


 邪教集団の内偵調査。

 帝国内での大規模なテロを計画していることは掴んだが、幹部への接触は困難を極めた。


 辛うじて何人かの潜入班が幹部候補に近付けたが、それこそが罠であった。


 入隊が厳しいはずの精鋭第3諜報部隊に逆にスパイが入り込んでおり、私たちは誘い出され罠に嵌められ壊滅。


 私も謎の杖により身体の自由を封じられ捕らえられてしまった。


 身体さえ自由になれば負けない自信はあった。

 まさか、世界ランクナンバーズすらも拘束出来る手段があるとは思わなかった。


 そして幹部の集まる集会で生贄にされるところだった。

 その集会にあの男が『何故か』居た。


 ……なんで居るの?


 私は一瞬、目が点になった。

 スパイだった?

 ううん、邪教の教祖に敵認定されてるから違うみたい。


 途中まではあの男の動向は部下から報告はあがってきていた。


 居合わせた主婦を邪教徒に引きづり込み、邪教徒内で色んな人に邪教の教え……教えそのものは元が女神教の分派だからまともなものだけど、その教えを広めて信頼を得ている。


 幹部内でも幹部に推薦する動きがあるとか。


 当然、第3諜報部隊の正式な協力者でもないので、こちらの事情を全て話して協力してもらっているわけではない。


 潜入捜査に放り込んだのも、こちらの潜入メンバーが動きやすくするためだけの囮。


 あいつはもう放っておこう。

 それが私たちの結論だった。


 私たちはとんでもないものを邪教集団に放り込んでしまったのだと、ずっと後になって知ることになる。


 結論で言うと……邪教集団は壊滅した。


 どんな魔法を用いたのか分からないが、邪教の教祖はあの男にのされ、気付いたら私の封印は解かれていた。


 拘束を解かれた私は暴れ、幹部連中『全員』を制圧した。


 繰り返す。

 幹部連中『全員』を制圧したのだ。

 逃げる奴も向かってくる奴も。


 その中に、『何故か』あの男だけは居なかったのだ。

 ゾッとした。


 私が眉唾物の世界最強No.0の存在を意識したのはその時が初めてだった。


 次の再会は呆気なく訪れた。

 帝都内で第3諜報部隊が拠点にしている酒場に突然ふらっと……本当に何の前触れもなくふらっと現れたのだ。


 第3諜報部隊の本当の隊長であるメリッサと話し合い、その正体を探ることにした。

 なのに、あの男はメリッサばかりに声を掛けて……。

 以前、散々私を褒め称えたのはなんだったのかしら?

 ……まあ、ただのクズ男なのだろう。


 とにかく、アレやこれやの成り行きでエストリア国まで、あの男と2人旅をすることになった。


 事あるごとにアプローチを掛けてくるあの男!

 気持ち悪かった!!


 正体を突き止めるまで、(何をかは敢えて言わないが)のは我慢した。


 結局、判定としては限りなく黒に近いシロとしたが、本当のところは世界最強No.0かどうか判断する材料がないという結論だ。


 そのすぐ後だ。

 魔王が出現し世界が騒然となったのは。


 世界最高クラスの強者であるナンバーズが次々と殺された。

 No.7から始まり、ついにNo.3まで殺された。


 ……私も、殺される。


 本当はとても怖かった。

 思えば純粋な力による恐怖を生まれて初めて感じた。


 邪教に捕らえられた時も危なかったが、拘束さえ解かれれば片腕一本でも窮地を抜け出せる自信があった。


 なのに、今度は……。


 外では気丈に振る舞った。

 私は公爵令嬢であり、帝国を代表する世界ランクナンバーズだ。

 私の姿は常に人から見られているし、実際そうだった。


 生き残る可能性があるとすれば世界ランクNo.2のカレン様と共に戦えば、あるいは……。


 でも、お互いに立場がある。

 常に一緒に居るという訳にはいかない。


 帝国内部では皇太子の婚約者である私を追い落とそうと、手ぐすね引いて待ち構えている輩が沢山居るのだからそんな弱みを見せる訳にはいかない。


 でも、この時ばかりは怖くて部屋で1人で泣いた。


 だって世界ランクNo.3もどうしようもなかったのだ。

 世界ランクNo.10の私ではそれこそどうしようもない。


 護衛がいくら居ようと関係がない。


 私は嫌な想像を考えないように、仕事に走り回った。

 そうしないと怖くて仕方がなかったから。


 魔王は世界全体の問題だ。

 だから国を越えて対策会議も行われた。

 そこでイリスに会った。

 彼女も世界ランクナンバーズの中では下位だ。


 なのに彼女には一切の焦りや恐怖はなかった。

 彼女は余裕たっぷりに……ただこう言った。


『問題ないわ。あるじ様が導いて下さるもの』

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