第21話ゴンザレス、教祖として②

「ねえ?」

「なんだい、ソーニャちゃん」

「なんで貴方ここに居るの?

 お忍びじゃないの?」


「おやおや?

 どなたかとお間違えでは?

 わたくしめは女神教のブックマーク派の教祖をしておりますゴンザーレスと申します」


「ゴンザーレスって誰よ!?」

 とあるチンケな詐欺師の名ですわ。


 帝室主催の夜会にて俺は綺麗な法衣服でご参加。

 隣にはドレス姿のイリス。

 流石は元王女、非常にドレス姿が似合う。


 そういえば、イリスのまともな令嬢姿見るの初めてだったりする。


 そんな俺たちに食ってかかったのは、いつもの縦ロールがご立派な公爵令嬢にして世界ランクNo.10ソーニャ・タイロン嬢。

 綺麗に着飾ったドレス姿で大変お美しい。

 ハハハ(゚∀゚)


 ……俺もどうしてここに居るのか分かんねぇよ。


 ノート男爵に綺麗な法衣着させられて、イリスが完全なS級令嬢姿で出迎えてきたので、腕組んで一緒にお出かけにウヒウヒして気付いたらここに居たの。


 ブックマーク派の代表としてだって。

 わたくし、教祖様ですものね?


 ……教祖様って初めて自覚したよ。

 本読んで歌って合唱の指揮者したぐらいしか記憶にないですわよ?


 今ではもう勘違いとか、知らないフリも出来ないの。

 わたくし、もう認めるしか出来ないのです。


 チンケな詐欺師がいつの間にか超大国の王になって、超S級美女を嫁にして、女神教の万を超えるブックマーク派の教祖様ですわよ!?


 何処の本のタイトルですの?

 絶対、売れないわね。


「怖いよぉ〜、世界最強No.0って一体何なのよ〜……」


 涙目のソーニャちゃんがボヤいているが、その世界最強No.0は俺じゃない!

 絶対に認めん!

 死守してみせる!


 遠い目をしていたので落ち着いた法王の風格でも出ていたのか、貴族の面々がご挨拶に来る。

 教祖様におかれましてはとか、女神教のお導きをとか。


 俺、いつから貴族どもにも教祖として認識されたのかなぁ〜?

 ノート男爵が広報を頑張ったそうで。


 余計なことをしやがって!!


 でも保身のために皆を詐欺ってみせます。

 ここでチンケな詐欺師な王様の正体がバレたら袋叩きにあうかもしれないので。


「女神様はいつも見守ってくれております」

 俺は穏やかに微笑む。


「誰よ、こいつ。

 もはや、誰なのよ〜」

 ソーニャちゃんがずっとボヤいてるけど、なんで俺のそばにずっと居るの?

 他に挨拶行かなくて良いの?


 そう思っていると皇太子の姿が見えたところでソーニャちゃん。

 一応、俺にも令嬢らしくしっかりと挨拶してから皇太子の方に向かった。


 まあ、ソーニャちゃんは皇太子の婚約者だそうで。

 次期皇妃という訳だ。

 お偉いさんだよね。


 ……前に調子に乗ってエストリア王宮でキスしちゃったけど、処刑モノの大惨事だよね?


 バラさないでいてくれたお陰で、今も俺は生きてます!!!


 ありがとう、ソーニャちゃん。

 縦巻きロールのキツそうな見た目してる割に、超良い子なのよ。


 こりゃファンクラブ(非公式)も出来るわ。

 なお、俺もファンクラブ(非公式)の人にお願いしてメンバーに入れて貰った。


 皇太子と一緒に来ていたのだろう。

 人が道を開け、奥から皇帝陛下がやって来る。

 皇族がまとまってフロアにやって来たんだな。

 カレンは身重なので、そもそも今日は欠席だ。

 夜会って大変だしね。


 俺、皇帝陛下とはどういう立場で会えば良いの?

 誰か教えて?


 脅したあの日から、皇帝陛下と満をしての再会である。


 向こうもこちらに気づいたらしく、一瞬だけピタリと足を止めたが、すぐに笑顔を浮かべたまま近づいて来る。

 額に汗が薄っすら見える。

 よく見ると、張り付いた笑顔も口の端がヒクヒクさせてるわ。


 でもきっと俺も汗をかいてる。

 冷たい汗だろうけど。

 こんな形で、会いたくはなかったよ……。


 ああ、まるで運命の再会。


 いや、いらないから、そんな運命。


 皇帝陛下は皇妃らしき年増の美女を伴い、俺の目の前までわざわざ足を運んだ。

 カレンとは似てない皇妃なので、母親ではないのだろう。


 それはともかく、お願いだから来ないで?


「何故、貴様……お主がここに……」

 半ば呆然としながら俺を見る。


 へっ!?

 なんで皇帝陛下が俺が来てるのを知らないの!?


 パッとイリスの方を振り向く。

 その俺に対して静かに小さな声でイリスはささやいた。

(第3諜報部隊以下、帝国の諜報部は掌握済みです)


 なんで帝国の諜報部掌握してんの!?

 メリッサ第3諜報部隊の元隊長のはずだけど、もしかしてまだ隊長なの!?

 ソーニャちゃんの立場大丈夫!?


 ゴンザレス、もう訳わかんない!!


 あ……いつものだ。


 皇帝陛下は俺をマジマジと眺め、何かを悟ったように言葉を吐く。

「その格好……。

 そうか、お主が最近女神教で主流派となりつつあるブックマーク派の教祖だったのか。

 そうか、女神は堕ちていたな……。


 フッ、いつから……などという言葉はお主には野暮やぼというものか。

 ならば、帝国はとうの昔に終わっていたのだな」


 またキタコレ!!!


 終わらせないで!!

 勝手に終わらせないで!!

 諦めちゃダメよぉぉおおお!!


 せめて、ゴンザレスの知らないところで終わらせるなら終わらせれて、わたくしを巻き込まないで!!


 わたくし何もしてないからね!!

 あと、さらりと重要キーワードっぽい『女神』とか呟かないでぇぇえええええ!!

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