第20話ゴンザレス、教祖として①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからね?と。




 どうも、アレスです。

 ゴンザレスでも良いよ?


 元詐欺師の大国の王です。

 何それ、って感じですね。


 でも今は……。


「教祖様、何卒なにとぞ我らをお導き下さい」

「うむ」


 ……教祖やってます。


 教祖らしき法衣に身を包み、意味があるのかないのか分からない錫杖を持って、居並ぶ信徒の前に立ってます。


 イリスが俺の隣に控えながら、珍しく遠い目。


「流石はアレス様……。

 聖剣を取りに行った時も、何故か王族の先生になってたりしてましたが……。


 まさかまさか!

 今、世界に広まりつつある女神教ブックマーク派の教祖がアレス様だなんて……。


 ふふふ……、イリス、愚かね。


 アレス様が私の想像の範囲に収まる方じゃなくてよ?


 何処の誰が逃亡王女という特大の爆弾をあっさり救ってしまわれたと思っているの?

 アレス様よ?

 あのアレス様なのよ?

 むしろ、当然と思うべきね!!!」


 イリスはぶつぶつと自分への説得を行っていたが、何かを吹っ切れたようだ。


 良かった良かった。

 ……良かったかなぁー?


 イリスは俺の隣で何事もなかったかのように、シャキッと真っ直ぐ誇らしげに慈愛の笑みを浮かべる。


 容姿が良いので、法衣服がマッチして聖女のようである。

 世界ランクNo.1の世界最強の聖女様だ。


 それと『あの』アレス様とやらは凄いお方なのね?

 わたくしのようにチンケな元詐欺師とは違いますわね?


 ……俺も自分も誤魔化せなくなってきた。


 あっさり救った訳ではなくてよ!?

 わたくし、詐欺をしたら何故かそうなっただけでしてよ!


 具体的に言えば、10の詐欺をしたら1000になって返ってきた感じよ!

 桁が2桁も違うやんけ!!!


 それはそれとして!

 俺は帝都郊外にある礼拝堂に詰めかけた人々を見回す。

 かなり広いんだけどね?

 入りきらないの。

 扉の向こうや窓から信徒が覗いているの。

 なんでこんな怪しい宗派がこんなに人気なの?


「ねえ、貴方。

 詐欺師……じゃなくてエストリア国の王様じゃなかったかしら?

 いつから教祖になってたの?


 しかも、ブックマーク派ってあの時の集団よね?

 ……なんで?


 貴方、中から乗っ取ったの?

 いつの間に?

 どうやって?

 帝国乗っ取ってないよね? ねぇ?

 なんとか言ってよ?

 やっぱり凄く怖いんだけど?」


 帝国の監査役の代表としてソーニャちゃんがわきの方で、涙目で何か言ってるが無視だ無視。


 俺もなんでこうなったか、いつも通り分からん!


 帝国を乗っ取ったり出来るか!

 皇帝を脅しただけです、はい。


 あれだね、ソーニャちゃんは弱気なエルフ女だな、ツッコミ体質。


 ツッコミは任せた!


 それと俺が教祖になったの元々ソーニャちゃんが原因じゃね?

 邪教潜入のせいで回り回ってこうなったけど?


 ちなみに怪しい信徒集団の1番前の真正面で俺を熱い眼差しで見つめる男、その名はノート男爵!


 オエッ、見つめるんじゃねぇよ。


 ……だが、あえて俺はその男に頷き返す。


 ノート男爵はこのブックマーク派の事実上の指導者だからね。

 俺の代わりにいっぱい働いてくれるの。

 ゴンザレスはただ適当なことを言って扇動すれば良いの。

 王と一緒。


 うむ、立派な詐欺師の道を進んでる気がして、充実してる気がする。

 つまりダメ人間まっしぐら。


 いやいや、我が威光なり!

 詐欺師としての。


 気を取り直し、俺は両手をバッと広げ高らかと宣言する。


「皆の者、今日も元気に女神教の歌を歌おうぞ!!」


 皆が俺を熱い眼差しで見つめる。


 ヤメテ!!


 それでも俺は勇気を振り絞り手を大きく振り、合図を出す。

 すると皆が一斉に歌い出した。


 あいすべきー女神様〜

 いとしきー女神様〜

 うつしきー女神様〜

 みを浮かべた女神様〜

 おーおー、偉大なる我が女神様〜


「何!? なんなのこの歌!?

 ねえ! なんでみんな空中に何か文字を書いてるの!?

 なんの儀式!

 怖いんだけど!?

 ねえ!?

 あとこの歌、なんか聞いたことあるんだけど!?」


 ソーニャちゃん、お静かに!

 女神様を讃える歌の最中ですぞ!


 俺考案。

 女神を讃えつつ皆で文字を覚えようの歌だ。


 これで農村部であろうと礼拝のついでに文字が覚えられて、やがて小さな村から本が生まれるのだ。


 最近は帝都の子供達も歌っているからな!

 楽しく身体を動かしつつ、言葉を覚える万全の布陣よ!


 そう、これは俺の壮大なる計画なのである!!


 皆の者! 本だ!

 俺が読むための本を作るのだ!


 合唱する信徒一同、感動に打ち震えてるイリス、怯えて涙目のソーニャちゃん、そして指揮者の俺!


 ……うん、カオス。

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