第19話ゴンザレス王、ぶっちゃける⑧

「ゲシュタルト王都、どうやって守ったのよ?」


 どうやって……?


 努力と根性で……ソーニャちゃん、分かった、説明するから涙目で殺気を飛ばさないで?


「魔獣を敵だと思うからいけない。

 狩りだと思えばいいんだ。

 要するに、狩った。

 狩った素材も買い取ると言えば、その勢いはとどまるところを知らない。

 逆に勢いを止める方が大変だったなぁ」


 細かいところはともかく、まとめるとそういうこと。

 後はそれを機能的に、組織で行うこと。

 責任者を決めて、やるべきことを明確にして、行動部隊に明確に伝える。


 人は自らの欲のためには頭も働かすし、身体も動かす。

 狩った魔獣の素材を売れるとなればそれはもう士気も上がった。


 詐欺は儲かるから行われる。

 詐欺したヤツが儲からなければ詐欺にならん。


 ……あれ? 俺、儲かってたっけ?


 と、とにかく!

 基本ではあるが、古い騎士文化に染まったゲシュタルトはそんなことも出来ていなかった。

 戦争ですら儀礼的なものになっていたほどだ。

 反対に海賊文化は根強く、荒々しい海での活動のため個々の戦士は有能だ。

 そして海に出ると強固な意志で一致団結するのも彼らの特徴だ。


 だから、王都の住人も含め一致団結すれば、あれほどの魔獣すら押し返せたのだ。


「ねえ? 貴方気付いてる?

 その国の貴族でも何でもない貴方が、突然、司令官になってその荒れくれ者たちをまとめたことが異常だってこと。

 貴方何処の生まれながらの王なのよ?」


 俺は生まれながらのスラム出のクズだ。

 王な訳がない、何を言っている?


 それとイリス、何度も頷いているが、俺がカストロ公爵家と何一つ関係がないのはお前が1番よく知ってるだろ?


 カリスマか何かで人を動かしたとか勘違いしてるだろ?

 そんなもん口車に乗せただけに決まってるだろ?

 俺、詐欺師よ?

 口だけには自信あんのよ。


「えーい! とにかく次!

 チェイミーはどうやって助けたの?」


 とにかくってなんだ!?


 チェイミー?

 川からどんぶらこっこと流れて来た……ってツバメちゃん!殺気を放ちながら俺の背後に立たないで?

 本当だから!

 これはこれ以上ないぐらいの真実だから!!


「それに関して言えば、あー、それに限らずだが、偶然だ」


 いや! マジだって!

 何で全員で俺を疑いの目で見るんだ!

 日頃の行い?

 詐欺のこと?


 ……はい、納得しました。


「とにかく俺はあのカバに連れられて、川の中に居ただけだ」

「結局、あのカバ何なの?」


 知らん!

 始原の実を大量に食って理性を取り戻した魔獣か何かじゃないか?

 もう一つ言えば、あの木の実が伝説の始源の実かどうかも知らん。


 世界は誰かが全てを知れるほど、狭くはない。

 それが大きいのであれ、小さいものであれ、必ず謎に満ち溢れている、それは確かな真実だ。


 ……まあ、そこにつけ込んで詐欺するんだけど。


「……アレス様ですらご存知ないことがあるのですか?」

 イリスは驚きの表情でこちらを見る。


 あら? イリスさん。

 わたくし全知全能ではなくてよ?

 本に載っていないことは知らなくてよ?


「……何でも知っていると思ってた」

 カレンが呆然と呟く。

 ツバメも目を丸くして、うんうん、と頷く。


 君らの中で俺ってなんなの?

 神? 神なの?


「……どうだか。

 どうせまた、いつもの詐欺じゃないの?」

 ソーニャちゃんがジト目。


「よし、分かった。

 今からベッドに行こう、ソーニャちゃんも。

 全員まとめて俺が知っていることを、ベッドで教えてやろう!」


 俺が立ち上がると、ソーニャちゃんは椅子ごと後ろにダッシュ!

 今のどうやったの!?


 さらに椅子から立ち上がったと思えば、小さな椅子の後ろに回り隠れるようにして俺に訴える。


「やめてよ〜!

 貴方本気になったら、何でも出来るじゃないのー!

 怖いのよ!

 私、まだ初めてなのに!」


 ヤベっ、ソーニャちゃんいじめるのクセになりそう。


 いつでも俺をずんばらりん出来る強者を、いじめる快感に目覚めそう。

 目覚める前に、切られて目覚めなくなりそうだが。


「大丈夫だから帰っておいで〜」

 小動物を呼ぶように呼びかける。

 もちろん、俺はそんなマネをしたことはないが。


 ソーニャちゃんが涙目で怯えながら近寄る。

 金髪ロールの名が泣くぞ?

 ファンは増えそうだが。


「じゃあ、もうこの際聞くけど!

 貴方、邪神を何処にやったのよ!?


 魔王倒したと思ったら、突然、邪神が世界の叡智の塔を操って、貴方は貴方で、私ら含めた帝国だけじゃなくて、大国全ての軍を動員してエストリアの内乱収める立場になって……今では!!!!」


 ソーニャちゃんはビシッと俺を指差し。


「何で大国の王になってカレン様娶めとってるのよ!


 何があったの!?

 何やったの!?

 どうしたらそうなるのよ!


 怖いのよ!

 何を! どうやったら!

 大国の姫3人をホイホイ嫁に出来るっていうのよぉぉぉおおおおおおお!!!!!!


 怖いよー!!!!!!!!!」


 ソーニャちゃんはついにマジ泣き。

 カレンとツバメちゃんは苦笑い、イリスは腕組みして訳知り顔で何度も頷く。


 俺は改めて思う。


 あ、やっぱりこの娘が1番まともだわ。





 この日、非公式ながら大国の王にして世界最強No.0が帝国にて妻のカレンに会いに来たという。

 その際に世界ランクナンバーズのイリス、ツバメ、ソーニャが同席したという。

 そこで話された内容が何かは伝わってはいない。

 ただ、この日を境に世界最強の王の妻として、新たにメンバーが加わったことだけは広まることとなる。


 チンケな元詐欺師は狙ってそうしたのかどうか、全ては謎である。

 それもまた、彼という男を表しているとも言えよう。


 こうして、世界最強No.0の伝説がまた一つ。

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