第18話ゴンザレス王、ぶっちゃける⑦

「実際、グローリー丞相を止めた時もアッサリでしたからねぇ……」

 イリスが遠い目で言う。


「個人の武ってのは、世界ランクの化け物だろうと限りがあるわけよ。

 それが人ならな。

 つまりまあ、世界最強だとか何とかはその程度のもんってことだ」


「それを言い切れてしまうのがアレス様だからこそですねぇ……」


 カレンとソーニャちゃんとツバメちゃんは顔を見合わせる。


「だから、貴方がその世界最強でしょ?」


 ソーニャちゃん!?

 話聞いてた?


「大体、貴方がというか、世界最強No.0がやった話のどこまでが本当なのよ?」

「どこまでも何も無いぞ?

 どれもが嘘っぱちだ」


 疑わしげな目のソーニャちゃん。

 むむむ! 疑うなら、ベットの中で疑いを晴らすぞ!!


 ソーニャちゃんが一つ一つ尋ねてきたので、俺は丁寧に言い返すことにした。




「イリスとカストロ公爵領を手に入れたのは?」

 とある貴族が詐欺に掛かっただけだ。


 ……うん、まあ、詐欺に掛けて土地を手に入れたのは確かだから、結果だけ見れば事実ではある。




「コルランを追い返したのは?」

 いつか来るのが分かってたから、誘導して罠に嵌めた。


 ……うん、まあ、それが原因でコルランは撤退したから、追い返したと言えば追い返した。

 結果だけ見れば事実ではある。




「ツバメを助けたでしょ?」

 助けたね。

 あんな獣に貴重な美女を食わせてたまるか!

 俺が頂く。


 ……うん、まあ、頂くためには助けないといけなかったから、結果だけ見れば事実ではある。




「世界ランクナンバーズの半数を助けたのはなんで?」

 魔王を倒して貰わないといけなかったしね?

 あとソーニャちゃんたち美女だから。

「ありがと」


 ……でも、まあ、必要に駆られてそうした訳だけど、結果だけ見れば事実ではある。




「帝国救ったわよね?」

 メリッサに頼まれたからな。


「頼まれて出来る辺りおかしいと思わなかった?」


 おかしいか?

 毒の沼に誘い込んで森を燃やしただけだ。

 それしか無いと思ったから、そうするしかねぇだろ?


「それが実行出来るのが……えーっと次」


 ……でも、まあ、S級美女のメリッサが頼んだから仕方ない、仕方ないったら仕方ない。

 結果? 事実だよ!




「商業連合国をどうやったら、たった一回の会談で滅ぼせるのよ?」


 アレは、あの独裁者のベルファレス代表が間抜けだっただけだ。

 俺の噂に限らず、帝国の状況や土地の位置関係、それだけでも最低限抑えて会談すべきだったんだ。


 的確な情報もないのに、重要案件、まあ、ベルファレス代表はそう思っていなかったのだろが、それを決めたアイツが悪い。


 よりによって、魔獣が蔓延はびこる地域を貰って、帝国に喉元までの道を譲り渡したんだ。

 俺でなくても、あの土地を交換させれば勝手に滅びたさ。


「繰り返すけど、貴方、チンケな詐欺師って何よ?

 なんでチンケな詐欺師が国家クラスの秘匿情報が手に入るのよ……。

 いえ、まあ、森を燃やした張本人だから、そうでしょうけど、それ以外についても……えーっと、次!」


 それがたまたま俺だっただけで、ええい!

 起きた現実は全て事実である!

 詐欺が絡んでいるだけで。


 ソーニャちゃん、なんで涙目なの?




「エール共和国を魔獣の大群から救ったのは?」


 あれはキョウちゃんとエール共和国国民全員が頑張っただけだ。

 魔獣の大群に俺が襲われたのは、魔獣を呼び寄せる薬のビンが割れてしまったからだし、土砂崩れに魔獣が巻き込まれたのも、まあ必然だな。


 俺はイリスに助けられなかったら危なかったし。

「間に合って良かったです」

 イリスが丁寧に頭を下げる。


「……やったことは事実なんだ」

 事実だよ!!!


 ……あれ? ソーニャちゃん、泣いてない?




「いいから次!

 帝国海軍提督ベリレットを見出したの、貴方って話だけどどうやって見極めたの!

 彼、元々、頼りない水夫手伝いでしょ!?」


 帝国提督ベリレットって誰?


「アレス様、あの魔王討伐軍の艦隊司令官ですよ?」


 あー、あのなよっちい兄ちゃん!

 あれって、別に俺が見出したとか……え?

 俺が見出したことになるの?

 海の上のことが分からなかったから、たまたま居た兄ちゃんがアイツだっただけだぞ?


「その運命もまた、アレス様の威光の賜物かと」


 あー、はいはい、イリスからしたら、そうだよな。

 そういうことで、たまたまです。


「なんで、たまたまでそんな傑物にぶつかるのよ……」


 俺が聞きたい。

 なんで居るのって。


 でもまあ、大体分かる。

 俺が人より人を視る目があることは、大した差ではない。

 決定的なのは、有能な者ですら再度『浮上』出来る社会構造になっていないのだ。


「どういうこと?」

 ソーニャちゃんが涙目のまま小首を傾げる。

 可愛いな、おい。


「カストロ公爵領のヤツら有能だろ?

 アイツら大半が元奴隷だぞ。

 だから、『たまたま』ではない。

 転がってる有能なヤツを拾っただけだ」


 頭を抱え、混乱してますという表情のソーニャちゃん。


 おい! 公爵令嬢! 大丈夫か?

 教育受けて来たんじゃないのか!?


 それにはカレンが苦笑いを浮かべ俺に賛同する。


「確かに、帝国に限らず殆どの国で中枢は貴族のみ。

 平民の立身出世などありません。


 その貴族ですらも没落や権力争いで弾かれれば、再度、表舞台に浮き上がってくることはないですね」


 俺は肩をすくめて見せる。


「出世は貴族間の紹介もしくは女神教の繋がり。

 ま、そんなところだろ?


 小国が滅ぼされることはあっても、世界全体で見れば、『個人の幸せ』というものを見なければ、平和で停滞している世界ではあるんだよ」


 ちなみに基本的には『平和』だからこそ、殆どのヤツらは戦争慣れしていなかった。

 ……俺も慣れてないよ?

 ……慣れてないよね?

 ……慣れて、ないんじゃないかな?


「えっと、とりあえず次!」

 ソーニャちゃんは切り替えるように次を促す。

 俺はうんざりしながら聞き返す。


「え? まだ次あるの?」

 ベッドの中でなら、有る事無い事いくらでも話すよ?


「貴方はまだ色々やったでしょ!?」

 やったっけ?

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