第15話ゴンザレス王、ぶっちゃける④

「アレスさん。結局のところ、私を救い出して頂いた時、何があったのですか?」

「メリッサから聞いてない?」

「ええ、詳しくは。

 ただホイホイされるから気を付けるようにと」

 カレンはふふふ、と楽しそうに自身のお腹を撫でる。

 メリッサ、真っ先に忠告したの、それなのね?

 ホイホイしちゃったねぇー。


「そうだねぇ……。

 まず帝国は帝都周辺、特にダレム大森林から魔獣を排除しようと作戦を決行した。

 カレンを筆頭に、というより囮にして。

 これは合ってるよね?

 まず、これが最悪に近いぐらいの悪手な訳よ」


「ええ、そうですね」

 カレンが同意する中、ツバメちゃんが首を傾げる。

「そうなのですか?

 帝国主力を動員して罠を張った大作戦じゃなかったのですか?」


「帝都のそばで魔獣が溢れる大森林を放置しておくのは、あまりに危険という考えもあっただろうな。

 だったら、最初から迷わず燃やしておくべきだったんだ」


 それにはソーニャちゃんが食って掛かる。


「そんな決断簡単に出来る訳ないでしょ!?

 あの森は女神教の聖地の一つよ!

 あの森で生計を立てていた人も沢山居たし……」


「それに大森林は有力貴族の利権も重なり合っていた、と。

 その結果、帝国は滅びかけた。

 あの場でカレンが死ねば帝国は間違いなく、その後の魔獣の圧力に耐えられずそうなっていた」


 ソーニャちゃんの言葉を遮り、俺がそう告げるとソーニャちゃんは悔しそうに口を閉じた。


 ソーニャちゃんもあの戦場に居たのだから実感しているだろうな、あのままなら自分も間違いなく死んでいたことを。


 森を燃やせなかった1番の理由は利権争いだろうよ。

 俺のようなただの庶民からしたら下らない限りだがな。


 そもそも魔獣は魔力の変異により生まれる。

 その魔力を大森林の中で溜めながら作戦など、俺からしたら自殺行為にしか見えなかったよ。


 そう付け加える。


「貴方は……何で帝国を救ってくれたのよ?」

 あれ? ソーニャちゃんは知らないのか?


「メリッサが俺のものになるって言ったから?」

「あ、貴方!!

 帝国を人質にとってメリッサを脅したの!?

 なんてクズな!!」


 ソーニャちゃんが座っていた椅子から立ち上がり、ゴゴゴっとオーラが見える気がする。


 帝国を人質にとれる詐欺師ってなんやねん、と思わないではなかったが、とにかくソーニャちゃんを宥めないと成敗されそうだ!


「ちょ、まっ! 俺から言ったんじゃないぞ!

 メリッサからそう言ったから!

 だって、S級美女のご褒美だぞ!?

 是非、頂くだろ!?」


 ひー!!

 殺気を放ちながら詰め寄らないでー!!


 そのソーニャちゃんの殺気を上回るような圧力が俺の背後からたち登る。

 なんだ、このパワーは!


 世界ランクNo.1並の圧力だ。

 はい、イリスです。

 そのイリスが俺を擁護する。


「アレス様は最初から帝国を救ってあげる義理なんてありませんよ」

「そうです。

 ソーニャ、落ち着きなさい。

 帝国を救ってもらえるなら私でも迷わずそうしましたよ?」


 イリスとカレンがソーニャちゃんを止める。

 ソーニャちゃんはトーンダウンして、自分の椅子に戻る。


「……悪かったわ。貴方は悪くない。

 いいえ、改めて帝国を救ってくれてありがとう」


 悪いと思ったらとても素直に頭を下げられる、それがソーニャちゃんの魅力である。

 でも殺気はぶつけないで?

 ゴンザレス、漏らしちゃうわよ?


「むしろ、俺からしたら何であの時、メリッサに土下座までされて帝国を救うように頼まれたのか分かんないんだけど?

 俺が世界最強No.0って本気で信じたりしてないだろ?

 やっぱりメリッサ疲れ過ぎてたせいか?」


 どう見てもチンケな詐欺師にしか見えない俺を、どう見たら帝国を救う手段を知っているなんて思うものか。


 それについてソーニャちゃんは思い当たることがあったらしく、あー、っと言って自分の頭を揉む。


「私のせいかも……いえ、間違いなく私のせいね。

 作戦への増援で出発する前に私が殺されてないのは、貴方が……世界最強No.0が何かしたからかもって言ったから、それを信じてメリッサも賭けに出たんだと思う……」


 おぉう……、こんなところで風評被害に遭っていた俺。

 結果オーライで帝国を救えたから良かったけど、何も考えてなければ終わっていた。


 うん、割といつも通りだ。


 結果的にS級美女が嫁になったので良かったのだろうか、でも王にされちゃったぞ?

 プラスマイナスゼロかな?


 王ってのは極大のマイナスだと俺は思っている、異論は認めない。


 でもまあ、そんな怪しい世界最強に頼らざるを得ないぐらい、帝国もメリッサもソーニャちゃんも追い詰められていたということだ。


「結果的にあの時、貴方が森を燃やさなかったら私も魔獣に殺されていたでしょうね。

 でも、どうやったの?」


 帝国でもある程度は検証済んでるんじゃないの?

 俺は首を傾げつつ答える。


「あの森には火をつけると、大爆発を起こす特別な黒い毒沼が存在していた。

 そこにグレーターデーモンが入ったから火をつけて吹き飛ばした。

 森が燃えたのはオマケだ」


 そこで思案顔のカレンが尋ねる。


「ですが、私がそのポイントに居たのは偶然ですよ?

 そのポイントが遠ければ……」


「その時は諦めるしかないだろうな……と言っても、だ。

 毒の沼はダレム大森林に点在していたし、少しぐらいならグレーターデーモンを誘導することも可能だと思ったからな」


「誘導ってどうやってよ?」

 ソーニャちゃんが聞くが、俺は少し躊躇う。

「聞きたい?」

「ダメ?」


 ソーニャちゃんは可愛く小首を傾げる。

 純粋に興味本位だったのだろう、素の表情を見せる。


 ぐっ、流石はS級美女のおねだり!

 あらがえん!!


 ジトーっと、イリスとカレンから呆れた目で見られている気がするが……気のせいだ!!


 俺は2つの小ビンをふところから出す。


「なにこれ?」

 ソーニャちゃんの問い。

「魔獣を呼び寄せる薬と魔獣を遠ざける薬」


 俺の答えにソーニャちゃんは分かりやすく目を点にする。


 この娘、表情がクルクル変わるね?

 流石は帝国の秘宝、ファンクラブ(非公式)が出来るのも当然だ!


 ソーニャちゃんは俺を指差し……カレンに顔を向け一言。


「ねえ、この人。何言ってんの?」


 失礼だな、おい。


 カレンは苦笑い。

 若干、汗かいてない?

 この部屋、暑い?


「つまり、アレンさんは魔獣を操れるということですよ、ね……」


 カレンは苦笑いのまま俺に聞く。


 え? 違っ。


「はぁぁああああ!!??

 貴方なんなの!?

 私に初めて会った時、貴方、自分を詐欺師と名乗ってなかった!?」


 ソーニャちゃんはその場でまた立ち上がる。

 立ったり座ったり忙しい娘ねぇ?


「詐欺師だよ?」

 今も心は詐欺ですわよ?


「そんな詐欺師居るかぁぁあああ!!!」


「失礼な! ここに居るだろ!?」

「貴方は詐欺師じゃない!

 どう聞いても詐欺師じゃない!!

 世界の詐欺師に謝れぇぇええええ!!!」


 詐欺師に謝ったら人として負けだぞ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る