第14話ゴンザレス王、ぶっちゃける③

 カレン姫は小さく手を挙げる。

 はい、そこのカレン姫さん!

 わたくし、質問をお許ししましてよ!


「あの……アレスさん。

 アレスさんは、世界の叡智の塔を操作出来る……のですか?」


 あれ?


「誰も知らなかった、のかな……?」

 イリスを除く全員が頷く。

「アレス様なら当然です」

 イリスは皇帝陛下を脅した時、一緒だったもんね。


 男の娘がおずおずと手を挙げる。

 はい、次ナリアちゃん。

 あと、話す時に手を挙げなくても良いのよ?


「世界の叡智の塔を操作出来るとどうなるんですか?」

 そうだよね、一般の人は知らないよね。

 ツバメちゃんも何度も頷いている。


 君も知らなかったのね?

 邪神事件のこと、なんだと思ってたの?


 それとソーニャちゃん、そろそろガクガクやめて?

 小さなゴンザレスが口から出ちゃうの。


 ガクガク揺らされ、何も言えない俺の代わりにイリスが答えてくれる。


「世界を騒がせた邪神事件の際に世界の叡智の塔の暴走を停止させたのは、グローリー元宰相との戦いの後、アレス様が塔を操作したからです。

 だから、エストリア王都にある世界の叡智の塔を壊す必要がなかったのです」


 そもそもあの事件を起こした人が『誰か』までは言わずに。


「そうだね。

 あとグローリーは今度、国の丞相に出世したから。

 何か頼み事あったらいくらでも言って良いよ。

 俺からも頼んでおくし」


「敵の親玉を許しただけでなく、なんで自分の国の執政のトップにしてんのよぉぉおおおお!!!」


 ソーニャちゃんは再度、俺をガクガク揺らす。


「ソ、ソーニャちゃん!

 も、もう出る!

 ちっちゃなゴンザレス、口から出ちゃうの〜!」


 ソーニャちゃんのガクガクは激しさを増し、ちょっともう限界……というところでイリスはソーニャちゃんを止める。


「ソーニャ。

 アレス様は非常に寛大で偉大で素晴らしいお方です。

 今ではグローリー丞相も、『ワシは生涯のあるじを初めて得た』とアレス様に心酔しておられます。

 何も問題はありません」


 へ!? そうなの? 何で!?

 責任押し付けて逃げたから、絶対大激怒してると思ったのに。

 あの爺さんマゾか!?

 イリスの俺への心服度も大概だが。


 俺は心の底から問いかける。

「マジで?」


「何で貴方が疑問系なのよ?

 選んだの貴方でしょ!」

 俺の首元の服を掴んだままのソーニャちゃんの言葉をイリスは流し話を続ける。


「グローリー丞相も若い内は没落しかけの家を立て直すために、大変ご苦労をされたようです。

 宰相となり国のため民のため、様々な策を打ち出そうとしてことごとくをエストリア王家と利権にしがみ付く貴族に阻まれたそうです。


 ナンバーズについてもそうです。

 人は『英雄』なる一部の能力者にしがみ付いていてはダメになると。

 勇者召喚についても彼だけは反対していたようですが、押し通されたそうです。


 あの者はアレス様同様、貴族社会にあって革新的過ぎたのです。

 アレス様が世界に名を広める前までは、世界はそのような革新的な考えに対応出来るほど柔軟ではなかったのです。


 如何に怪物宰相と呼ばれようと成せることなどほとんどないと、孫娘のエルミナにそうこぼしていたと。


 全てはアレス様の慧眼によるもの」


 情報源エルミナちゃんね。

 あの爺さんも大概、孫娘に弱いな。


 ここまで話をして皆、喉が渇いていたらしく思い思いにお茶を飲む。

 ソーニャちゃんもようやく俺を離してくれる。


 ……危なく口から小さなゴンザレスが出るところだった。

 ゴンザレス殺人事件、死因、美人公爵令嬢に揺らされて。

 うむ、大往生だいおうじょうかもしれない。


 イリスが一口飲んだお茶を俺に渡してくれる。


「どうぞ」

「サンキュー」


 イリスが毒味したそれを俺は飲む。

 毒は怖いからね。


 その行動にカレン姫は少し寂しそうに笑う。

 カレン姫には自国でも、結局のところ、この国は俺にとって油断出来ない国なのよ。


「落ち着いたら迎えに来るよ」

 俺は敢えてそう言った。


「お待ちしております」

 カレン姫はそう答えた。


「何? 何が?」

 ソーニャちゃんは意味が分からず、俺とカレン姫を見る。


 この娘大丈夫?

 公爵令嬢だよね?

 貴族の後ろ暗さとか、ちゃんと理解してる?


「ソーニャはこういう娘なので、帝国の秘宝なのです」


 真っ直ぐで裏がなく、誰にでも慕われる。

 そういえば部屋の外のメイドやら兵たちにも慕われてたもんなぁ。


「成る程。じゃあ、『カレン』のこと任せられそうだな」


 ふふっと優しく笑うカレン。

 可愛いなぁ、おい。


「何がよ?」

 ソーニャちゃんは、ぶすっと分かりやすくむくれる。


「帝国はその気になれば帝国皇女すらも捨て駒に使うってことだよ。

 前のグレーターデーモン討伐の時みたいにな」


 帝国がいざ俺を毒殺しようと思った時は、カレン姫が一緒に毒を飲むことになっても構わないと考えるだろうということだ。


「へっ?」

 ソーニャちゃんの目が点になる。


「やはりあの時の大森林での作戦のこと、お気付きでしたか」

 カレンはふふふと笑う。

 俺はそれに肩を竦めて見せる。


「まあな。あまりに無謀な作戦だ。

 恐らく帝国としては、最悪、世界ランクNo.2の帝国皇女を失うのもやむなしと言ったところだったのだろうよ。

 まあ、想定外だったのは、魔獣の勢いが強すぎて帝国そのものが滅びかけたということだ。

 その点は間抜けの一言だがな」


「へ? えっ!? でもカレン姫様が亡くなったらそれこそ世界が……帝国も!」

 動揺するソーニャちゃん可愛いな。

 帝国の秘宝、よく分かるぞ!!!


 おい! ソーニャちゃんファンクラブ!(非公式)

 俺に会員証をくれ!!

 ナンバーは何でも良い!!


 俺もソーニャちゃんファンクラブ(非公式)に身を投じるぞ!

 エストリアの最大勢力のクラブにするぞ!


 すべての者はソーニャちゃんをあがめる(非公式)のだ!!!!

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