第13話ゴンザレス王、ぶっちゃける②

「もうなんなのよ、あんた。

 一体、何がしたいのよ!」


 何って?

 俺は首を傾げる。

 ソーニャちゃんは相変わらずのS級美女ね、是非ともベッドでお相手願いたい。


「ベッドイン?」

 ソーニャちゃんはズザザと離れる。

 そして怯えるように自分の身体を涙目で抱き締めながら俺に訴える。


「や、やめてよ〜。

 やろうと思えば、いくらでもそんなこと出来るんでしょ!?

 もうそっとしといてよー!」


 圧倒的な強者のはずのソーニャちゃんの涙目がそそるなぁ〜。


 それはともかく、ランクが落ちたとはいえ化け物である世界ランクNo.8のソーニャちゃんに何ができようと?


「出来ないけど?」

 何言ってんの、この娘。


「嘘おっしゃい!

 その気になれば今すぐ、ここに居る全員皆殺しに出来るくせに!

 怖いのよ、あんた!

 ほんと私を……帝国をどうしたいのよ!

 滅ぼす気ならとっくに滅ぼしてたでしょ!?

 なんで今更来るのよ!」


 ここはカレン姫の部屋の外。

 当然、メイドや衛兵も居る。

 その廊下に居るメイドや衛兵がソーニャちゃんの嘆きの言葉を真に受けて、一斉に怯えた表情をする。


 え!? なんで!?


 ソーニャちゃんの暴走は止まらない。


「なんなのよー!

 そうかと思えばやたらと優しい目で見てくるし、気遣いしてくれるし、どうしたいのよ〜……」


 ついにソーニャちゃんは泣き出してしまった!

 なんてこった!!


「あーあー、アレス様。

 泣かしちゃいましたね?」


 イリスがジト目をして周りに居るメイドや衛兵が殺気立つ。

 勝てなくてもやったるでー、という雰囲気をかもし出す。


「え!? 俺のせい!?

 絶対違うよ!」

 一生懸命周りに訴える。


 だが、効果なし!!

 むしろ、ソーニャちゃんはマジ泣きし、さらに殺気が強くなる!

 一触即発!!


 何にもしてないのに、大ピンチのゴンザレス!!


 生き残る術はただ一つ!!

 泣き止むんだ! ソーニャちゃん!

 公爵令嬢ソーニャ様!!


「だ、大丈夫、俺がソーニャちゃんを傷つけたりすることはないから、

 安心してくれ」


 クスンクスンと泣きながらソーニャちゃんはさらにポツリ。

「ゲフタルの時にボコボコにされた」


 さらにさらに殺気が強くなる皆様。

 ヒエー!!!! お助け〜!!!

 ソーニャちゃん、わざとだろ!?


 何か言いくるめるのだ、アイデアよ!

 出でよー!!!


 ……。


 出るかぁぁあああああ!!!

 泣いた娘には勝てねぇんだよ、俺は!!


 苦悩する俺をイリスがジト目で見て呟く。

「アレス様は泣いてる娘に弱いですからねぇ。

 私の時もそうでしたし」


 お前泣いてなかったじゃん!

 泣いてないけど、泣きそうな顔してたけどさぁ!


「ソーニャ、大丈夫ですよ?

 アレス様は美女と子供にとても弱いですからね」

 いや、そうだけど、他に言い方ない?


 ソーニャちゃんは涙目のまま俺をジーッと眺め。


「……じゃあ、私たちをボコボコにした時のこととか教えてくれる?」

「教える教える」


 一緒にベッドに入ってくれたら幾らでも教えるよ?

 あ、いや、待って、イリスまで殺気を飛ばさないで?

 死んじゃうからゴンザレス、その殺気だけで死んじゃうぐらい怖いから。


「じゃあ! カレン様も一緒に聞いて貰いましょ。興味あるだろうし」


 泣いていたはずのソーニャちゃんはすでに涙を引っ込めそう言って、カレン姫の部屋の扉をノックする。


 騙された!?

 男はいつも女の涙に騙されるのよ!


「私も聞きたいですね」

 イリスまでぇ〜……。


「お帰り〜。

 どうしたの?」

 カレン姫が苦笑いで出迎えてくれる。


 へぇ、どうもでやんす。

 戻ってきやした。

 なんで戻ってくることになったのか、俺もよく分かってません。

 美女ソーニャちゃんの涙に翻弄された哀れな男がここに居るだけです。


「この人が以前、私たちをボコボコにした時の話とかしてくれるって」


 ソーニャちゃんが俺を指差す。

 人を指差しちゃいけません!

 失礼でしょ!


 さっきまで泣いていた貴女はどこにいったのかしら?

 わたくし、またしても女の涙に詐欺られました?


 ツバメちゃんが手を挙げて賛同する。

「聞いたーい!

 アレスさん、あれってどうやったのか、すっごく気になってたの!」


「じゃあ、お茶でも飲みながら聞かせて貰いましょう」


 カレン姫がそう言うと、今し方、ごく自然に俺たちと一緒に部屋に入ってきたメイドがお茶を用意してくれる。


 人数分入れてくれて、まずカレン姫がティーカップに口をつける。

 優雅ですね。


 カレン姫はすぐにメイドを下がらせる。

 まあ、広められたら不味い話もあるからねぇ。


 ソーニャちゃんが手ぐすね引いてとばかりに口を開く。


「さあ、早速、何から聞こうかしら?

 そうね……、最初のグレーターデーモンの襲撃。

 No.3まで殺された襲撃。

 それをどうやってツバメ、イリス含めも、私たちを標的から外したのよ?」


 仕方ない。

 話してやろう。


「あれはそう月夜の明るい夜だった。


 俺はコルランの警邏隊けいらたいの時間を見込んで、ターゲットへの接近を試みた。

 許された時間は約1時間。


 その僅かな時間に世界の叡……ターゲットに機動紋を描き、発動したら条件キーから順番に指定条件を入力、そこから想定パターンと演算による式を描いて、指定配分からの魔導パターンでもって、条件設定と仮定条件、発動プログラムに公式設定、エラー時の配分条件の指定これが考えられるエラー例が遺失してるからまた大変だった。


 それら条件設定を終えたら、目的の指定項目を指示して各個別設定、と。

 認識しているナンバーズの認識パターンを描いていく。


 無論、最初にターゲットから外させてもらったのはソーニャちゃん、君だ!」


 俺はフッと笑い、指をパチンとしながらソーニャちゃんにウィンク。


 ……フッ、決まった。


 ソーニャちゃんは目を可愛くパチクリしてから、他の人を見回して一言。

「ねえ? この人何言ってんの?」


 ……はい?


「色々と突っ込みどころ満載なんだけど、コルランの世界の叡智の塔に接近とか。

 何やってんの?

 魔力パターンって……何?

 初めて聞くけど?

 極め付けは世界の叡智の塔の操作って……何?

 認識外しって何?

 ツッコミどころいっぱいなんだけど!?」


 ソーニャちゃんは一気に俺に詰め寄り、俺の襟首を掴みガクガク揺らす。


 俺は揺らされながらもフッと笑う。


 ソーニャちゃん、世界の叡智の塔のことを何にも知らなかったのか!?

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