第12話ゴンザレス王、ぶっちゃける①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからねと。




 どうもアレスです。

 これは失礼、気の利いた挨拶も出来ませんで。

 過去の名をゴンザレス。

 過去の職業詐欺師、今、王様。


 現在、帝国に居ます。

 その帝国のさらにカレン姫のお部屋にカレン姫を含め、6人で話をしている。


「触ってみて下さい。アレスさん」

 カレン姫は穏やかな笑みで俺にそう言う。

 俺は彼女の膨らんだお腹に慎重に触れる。


 おお……動いた。


「ふふふ」

 カレン姫が慈愛の満ちた顔で笑う。

 おうふ、良いなぁ〜、美女の微笑み。

 これが俺に向けられているのでケツの穴がムズムズする。

 もちろん嫌じゃないよ?


「あ、その目ですよ?

 私たちがやられたのは。

 私たち以外にはあまりしないで下さいね?」

 イリスが横合いからポツリと呟く。


 ど、どんな目かなぁ〜?

 詐欺師の目?


「カレン姫様!

 聴いてくださいよ!

 アレスさんてば、エストリア王都でもローラさんっていう美人を引っ掛かけていたんですよ!」

 ツバメちゃんの話にカレン姫は怒るでもなく、あらあらと笑う。

 母性というやつかな。


「メリッサやエルフィーナさんたちの方は大丈夫ですか?」


 カレン姫は妊婦仲間の2人のことを尋ねる。

 手紙でのやり取りはしているだろう。

 それでも細部は手紙では分からないものだ。


「ああ、出発前はカレンほどは大きくなってはなかったが……。

 エルフ女には王都から抜け出すことには気付かれてたな。

 生まれる前に戻って来いと釘を刺された」


「……また行かれるのですね」

 カレン姫は少し寂しそうに笑う。


 それに対し俺はニヒルに笑う。

「大国の王など俺には向いていない」

「あるじ様、どうせ執務しないじゃないですか」

 ボソッとイリスが突っ込む。

 そこ! だまらっしゃい!


 カレン姫はコロコロ笑う。

「そうですよ。居てくれるだけで良いのですよ」

 俺は頭をぼりぼりと掻く。


 こんな美女たちに囲まれて、そんなことを言われるとどうにもむず痒い。

 少し前までこんな現状を想像すら出来なかった。

 今も現状を理解出来ているか怪しいが。


「……それでも、貴方は行くのでしょ?

 ですので、どうかご無事に」

 怖くて逃げ回ってるだけだってば!


 イリスもそうだったが、カレン姫もまた分かってますよ、と笑った。


「あと、そちらの娘は違うのですか?」

「ナリアちゃんは男の娘だ。

 TS薬を探してる」

 TS薬と言った時点で、そうだと言ってるようなものだけど。


 カレン姫はナリアちゃんをジーッと見てから真面目な顔で思案する。

「TS薬ですか……。

 伝説の万能薬並みに手に入らない品ですね。

 正直、望みは薄いかと……」


 だよね、分かってた。

 ナリアちゃんが絶望的な顔をする。

 さりとて諦めるというのも俺の性に合わない訳だが。


 カレン姫はさらにナリアちゃんを見ながら呟く。

「その方、そのお身体のことで医術師にかかられたことは?」

 その言葉に俺はナリアちゃんと顔を見合わせる。


 ナリアちゃんは首を横に振る。

 森の中の部族だもんね、呪術師的な人は居ても医術師は居ないかもね。


「でしたら医術師を手配しますので、一度掛かられてみては如何でしょう?」

「何か思い当たることでも?」


「ええ、帝室の古い記録の中に」

 俺は目を細める。

「……よく記録が残ってたな?」


 1000年前のとある出来事から、多くの書物が失伝した。

 全ては女神の……。


 カレン姫は苦笑い。


「口伝ですわ。

 王族だけに引き継がれる王族だけの歴史です。

 もっとも、所詮は口伝、全てが残っているわけではありませんが」


 帝国皇女様がこう言ってるのだ。

 悪いことではないだろうと、ナリアちゃんは医術師に掛かることになった。


 それから子供の名をレイナとするように伝えて、ナリアちゃんとツバメちゃんを残し、カレン姫の部屋を出てから俺は呟く。


「本当はカレン姫もエストリア王宮に移動してもらいたいんだがな」


 それに驚きつつイリスは声を潜ませる。


「帝国がきな臭い、と?」

「……そういえば帝国でもカストロ公爵就任の時は、イリスは一緒じゃなかったな。

 あの時、カレン姫以外の王族も見たが、俺と同じようなチンケな詐欺師の匂いがした。

 その雰囲気が帝都に漂ってる」


 イリスは深く深くため息を吐く。

 ほんとにメリッサに反応似てきたね?

 実は姉妹?


「ですから、ツバメをカレン姫の護衛にするために連れて来たのですか」

 俺は言葉で返事はせず、肩を竦める。


「ナリアも?」

 あの男の娘は付いて来られただけだ。


「あのね?

 私が居るのにそんな重要そうなこと言っていいの?」

 ソーニャちゃんが横合いから呆れたように言う。


「あ!? ソーニャちゃん! 居たの!?」

 いつもの縦髪ドリルが見事ね?

 そのドリル無い方が、ゴンザレス好みだけど。


「最初っからカレン様の部屋に一緒に居たでしょうが!!!」


 そうだったねぇ〜。

 俺とイリスとカレン姫とツバメちゃんとナリアちゃんとソーニャちゃんの6人で。

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