第10話ゴンザレス王、世直し珍道中?①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからね、と。




 ども、アレスです。

 元詐欺師です。

 ゴンザレスでもどっちでも良いです。

 現在、俺たちはある宿場に来ていた。


「なんでこんな事になってるのかなぁ?」

「なんででしょうね?」

 山積みとなったならず者たちを前に俺とツバメちゃんはぼけっとしながらそう言った。


「アレス兄様。私たち世界最強王様の世直し旅と噂されてるみたいですよ?」


 超目立ってるじゃないの!?

 ならず者を蹴りながら、ツバメちゃんがそれに答える。


「私たちの行き先とか動きとかバレてることはなさそうですよ?

 あくまでも噂が流れてるだけで」


「元ネタはレリアートの街の世直し王様のお芝居みたいですね。

 あれが今、エストリア国中で大人気になり出しているので。

 もう国外でも公演してるかも知れませんね?

 流石はアレス兄様です」


 何が流石なんだろう?


 レリアートの街とは、あの例の領主の居た街だ。

 あの後、そのレリアートの街が混乱しているという話は聞こえて来ないので、まあ、上手いことやっているのだろう。


 そんな俺たちの前に純朴そうな宿場の住人たちが飛び込むように集まり、全員が滑り込みながら土下座する。


「ありがとうございます!

 これで……これでこの宿場は救われます!」


 俺は住人たちに素早く一冊の本を渡す。

「ふむ?

 お礼はこれを複写し広めてくれると良い」

 それは例の芝居を元にした講談本。


 文字を広め本を広めよ!

 さながら気分は『世界最教』の教祖である。

 すでに女神教の分派(元邪教、現女神教最大勢力)の教祖だけど。


 幾ばくかの金も包んで貰い、俺は高笑いしながら宿場を後にする。


「はっはっは、ではツバメちゃん、ナリアちゃん行きますよ!」

「は〜い、アレスさん!」

「はい、アレスお兄様!」


 高笑いをあげながら、俺はしみじみとこう思う。

 ……ほんと、なんでこうなったっけ?





 レリアートの街を出て、いきなり山賊に絡まれたりした訳ではなかったが、反乱の余波というか元からエストリア王国の治安が良くないのか、盗賊の噂はちらほら聞こえる。


 旅の安全にはこういった盗賊に対する取り締まりは徹底せねばならない。

 ゴンザレス、その辺りのさじ加減はよく分かっているつもり。


 なので早速、王都へお手紙。

 最近は、密偵が追い付いてきてたので、影から情報収集を手伝ってくれる。

 すっごく楽。


 ゴンザレス、本当に王様になっちゃったんだなぁと実感。

 王様は普通、こんな風に旅しないけど。


 街から街へ、村から村へ、旅してるだけだけど、出るわ出るわ悪人たちがゾロゾロ。

 如何にエストリア国が長い間、政情不安だったことがよく分かる。


 全ての悪人を成敗している訳ではなく、人を食い物にしたり麻薬とか売ったり、そんなことをせず仁義ってヤツを分かっているヤツらにはちょっと美味しい情報なんか渡したりする。


 そういうのは、持ちつ持たれつなのよ?


 だから当初は協力的ではなかった土地の人も今では積極的に助けてくれたり、商人が噂を聞いて、ご飯をくれたりしている。


 ……やっぱり色々目立ってる?


「密偵を動かしておりますので、アレス様当人であることも、正確な居所も分からないように噂は流しております」


 そう言って本物の世界最強の小娘が俺に畏まる。


 密偵に見つかるということは当然、王都にも見つかっているということで。

 イリスにはあっさり捕まり、宿で『わたくしを』お仕置き済みですわよ?


 お仕置きと言っても、ご褒美なんだけど。

 今更だけど、それで良いの? イリスさん。


 世界最強の貴女がその身を捧げているのは、ご存知のようにただのチンケな元詐欺師よ?


「最初から私を連れて行ってくれても良かったでしょうに」

 俺を捕まえて宿に連れ込んだ夜。

 亜麻色髪の元王女の小娘は、ベッドの上で可愛く膨れっ面をした。

 おう、可愛いな、おい。


「え? だってイリス連れて行ったら目立つでしょ?」

 世界ランクNo.1で超美人で、更にカストロ公爵の妻で、そのまま王の妻って世間に認知されてるのよ?


「アレス様自身が既に目立つ存在ですが?」

 それは困る。

 襲われたら一発でおしまいだ。


「いやいや、オーラとしてはチンケな詐欺師のままだから」

「それはまあ……」


 そこは否定しないのね!?


「そうは言いましても今更、アレス様が王宮でジッとしているとは思いませんでしたが。

 今度は何処に行かれるおつもりですか?」


「ちょっと帝国に」

「カレン姫様のところですか?

 それなら正式に訪問すれば良いでしょう?」


 何故か俺にご執心の美女たち。

 その中でもカレン姫だけは、妊婦の状態で動かすのも不味いだろうと帝国に居るままだ。


 他はシュナ第3王女がゲシュタルト連邦王宮に、残念妖艶娘ミランダが星見の里に残っている。

 後、ルカちゃんはまだ手を出していないが嫁になる予定でエストリア王宮に。

 他もエストリア王宮に置いてきた。


 ナニコレ、なんでこんな沢山美女がご執心なの?

 ゴンザレスまだ脳味噌が何処かにお留守なの。


 常識さん! 待って!

 置いて行かないで!?


 常識さんの足にしがみ付いても止めるのよ、ゴンザレス!


 現実逃避していた俺に何かを悟ったか、イリスは理解した風に言う。

「何かお考えがあるのですね?」


 くっくっく、バレては仕方ない。


 どうにも以前、帝都に忍び込んだ際に色々バラしたもんだから、小娘も俺について勘が鋭くなったもんだ。


 俺は肩をすくめて見せる。


「だって王宮に居たら暗殺されるかも知れないだろ!?

 王侯貴族社会なんて血塗られた暗殺の歴史だぞ!

 怖くてじっとしてられるか!」


 俺は弱いんだ!

 居所なんてバレたらいつ暗殺者が襲って来るか!

 知ってるんだぞ!

 本でいっぱい読んだからな!!


 後、毒味された冷めた飯は不味いんだぞ!

 冷たくても美味しい料理作れよ!

 何、エストリア王宮の伝統だからって?

 ゴンザレス庶民だから!!


 ナンバーズやエルフ女みたいな化け物でお偉いさんじゃないんだぞ!

 現在進行形で王様だということは今は横に置いておいて?


 その反応を見て、イリスはわざとらしくため息を吐く。


「とりあえず、私も同行しますから」


 目立つって言ってんだろぉぉおおお!!

 暗殺者は怖ぇぇんだぞ!!

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