第9話ゴンザレス王、悪領主を成敗?④

 どーしよ、これ。


 がくりと膝を落とす悪徳(らしい)領主。

 書物やら財宝やらかっぱらって逃げたいのが本音。


「どうします? アレスさん」


 こんな状況に良いアイデアなんかあるか!

 ……と言いたいが、どうすれば良いのか実は分かっている。


 王都から人を呼び寄せて、政治的な手続きで領主を更迭こうてつしてすげ替えてしまうのだ。


 お忍びだろうとなんだろうと王を拉致監禁したのだ。

 物は言いようでなんとかなる、はず!


 でも捕まるからヤダなぁ。


 そもそもここの領主って、前からそんな悪辣あくらつだっけ?

 通り過ぎたことしかないからだけだったからよく分かんないけど。

 このルートあんまり通らないし。


 落とし所を探す、か?

 だが、それは非常に危険な事だ。

 言葉は最良の武器であり、恐るべき兵器でもある。

 詐欺師ゴンザレス、よく分かる。


 このままでも解決しようがないし、最悪、逃げるとして……。

 俺は領主に問い掛ける。

「何故、このような真似を?」


「……新王アレス様には分かりますまい。

 この国の苦悩を。

 長年仕えていた王族は軒並のきなみ消え、国は事実上崩壊。

 ワシは先の反乱に中立の立場こそ取ったが、本心は大きく揺れていた。

 軟弱な王族に命を捨て従うか、叛逆者グローリー宰相の下で新たな国造りを行うか。

 いずれにせよ、今までは通りでは居られなかった」


 あ、長くなりそう。

 どうしよう。


「結果、心に迷いを持ったワシは、更に女神教の教えにのめり込んでいった。

 それ故に書物を集め燃やそうとしたが、勿体無くて売ったら金になって、贅沢三昧が楽しすぎてこの有り様よ」


 話はすぐに終わった。


 どっちつかずで悩んでたら、国が新しくなって、どうしていいか分からず宗教にのめり込んで、金が手に入ったから豪遊したら楽しかった、と。


 俺は、色々諦めた。


「あ、ツバメちゃん。コイツ縛って?

 ウザそうだから猿ぐつわもね?」


 こうして、悪徳領主を俺たちは成敗した。


「本は世界の宝だから、大事にしてね?

 もっと写本とか作って皆で文字を覚えて本を広めてね?」


 悪徳領主をグルグル巻きにして転がしながら、住民の代表にいくつか指示をする。


 王都から人が来るまでに後始末いるかなぁと思いつつ、ツバメちゃんを振り返る。


「ツバメちゃん残って後始末とか……」

「え? やですよ?

 その間にアレスさん1人で何処か行くじゃないですか」


 ゴンザレス、前科あり。

 信用、無し。

 王様だけど。


 王様ならそもそも逃げないよね。


 領主一族の分家とかで、まともな人が居ないかなぁ〜と住民に尋ねると居るらしく、現在、領主邸の別の屋敷に軟禁状態らしい。


 はよ言え。


 早速、案内され分家のハロルド氏を解放。

 彼はグルグル巻きになった元領主を見て、唖然。

 王様の証明に王宮で盗んだ印章の付いた指輪。


 この指輪、なんでもオーダーメイドらしく、王様しか持ってないんだって。

 へー。


「なんで王様のアレスさんが知らないんですか?」

「いやだって、俺……」

 詐欺師だし、の言葉は流石に飲み込んだ。

 住人たちの前で言うと、シャレにならない気がする。


 とにかく正式な手続きが済むまで、領主邸に滞在。

 街は急速に活気を取り戻している。


 領主邸の豪華な部屋のソファーでツバメちゃんとゴロゴロ、男の娘が添い寝しに来て色んな意味でドキドキ、気になる書物をパラパラと優雅に過ごし……と言いたいが、ひっきりなしに人が尋ねて来る。


 今もハロルド氏と今後の領地の相談を受ける。


 俺もその辺りはよく分からないとしか言えないので、カストロ公爵領のスラハリにアドバイス貰ったらいいと言って、一筆書いておいた。

 泣いて喜ばれた。


 貴族間って派閥やらなんやら色々あり過ぎて、派閥外からのアドバイスをもらうのも難しければ、帝王学というのは各家とも秘匿し一子相伝だったりする。

 封建制度と呼ばれる制度は、中央集権と違ってそんな問題もある。

 代わりに独裁者個人が好き勝手し辛いとかあるけど。


 ゴンザレス庶民だから、そういうまどろっこしいのは勘弁。

 横の垣根は無くして、本をもっと世界に広めて欲しい。


 そういうお手紙を王都に送りつつ。


 王都からの使者が訪れた日。

 当然の如く、領主邸に俺の姿はない。






 王都からの亜麻色の髪の若き美しい使者はいつものことだ、とため息を一つ。

 すぐに切り替え、忙しく領地の対応を差配するのであった。


 この日から、世界最強No.0が世直しの行脚を行なっているという噂が世界に広がる。


 それと同時に、その噂となった街の住人が、No.0に感謝して芝居を作成し、それと同時に紙芝居や講談本などが生まれ世界に広がることとなる。


 そのうねりはやがて世界へと広がっていく。

 もちろん、とある元詐欺師はそんなことを知る由もない。

 今は、まだ。


 こうして、世界最強No.0の伝説がまた一つ。

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