第6話ゴンザレス王、悪徳領主を成敗?①

 話を聞くとこうだ。


 極悪組はこの街の領主と繋がっており、ウンヌンカンヌン。


 え!? 俺らがなんとかするの?

「でもこの国、アレスさんの国ですよ?」

 ツバメちゃんがこそっと耳打ち。

 あふん、耳がくすぐったいわ。


 今すぐ宿に戻ってベッドでもう一戦しましょう。

 ツバメちゃんの肩を抱いて、宿に戻ろうとするが住人たちに囲まれて、逃がしてもらえそうにありません。


「王都へ連絡して首のすげ替えで良くない?

 面倒だし」

「ですけど、訴えと違う場合もありますし……」

 ツバメちゃんがおずおずとそう言う。


 あー、それは大いにあり得る。

 土地柄によって、住民が無駄に偉そうだったりすることもあるもんなぁ。

 本当に住民が正しいのかは調査が必要なのだ。

 面倒だから関わらない一択かな。


「ついでにツバメちゃん、この辺りの領主のこと知ってる?」

「はぁ……すみません、私、武力担当なので」


 そうだよねぇ〜、しかもツバメちゃんは元帝国の村娘。

 そんなこと知ってる訳ないよね。


 現在の俺たちの構成。

 世界ランクNo.6の村娘、森林の隠れた部族の男の娘、元チンケな詐欺師の王様。


 うん、世界各地を渡り歩いて、本の中ですら一度も見たことのない旅構成だ。


 色々と常識が死んでる気がする。

 あ、とっくにそんなもん死んでた。


 ハハハ(゚∀゚)


 ……とりあえず、この街の住人に囲まれているけどどうしよう?


 うん、まあ、逃げよう。

 王都に連絡だけしておいたら、グローリーたちがなんとかしてくれるでしょ。


「悪いが俺たちは、伝説の書物『女神の性癖』という禁書を探す旅の途中なのだ。

 役人には連絡しておく故、暫し耐えられよ」

 ツバメちゃんが、えっと俺を見る。


 ツバメちゃん、その反応やめて!?

 口から出まかせがバレる!

 ただの村娘に腹芸なんて無理だったんだ。

 そりゃそうだ。


「はぁ、『女神の性癖』ですか。

 そういえば、ここの領主は非常に敬虔な女神教の信徒ですので、殊更に『書物』を集めておりますな。

 このような文化に触れて、庶民が女神教の教えから外れることはまかりならんとかで。

 我らから金を徴収しその金で書物を集めては燃やして、反対する者は極悪組に脅させて、そのせいで我らの暮らしは、ううう……」


 おっさんどもに泣かれようがどうでも良いが、書物を燃やすなど言語道断、なんたる極悪非道!

 S級美女を痛ぶるが如く悪の所業である!


 女神教の信徒と言ってもやり過ぎだろう。


 女神教には聖書がない。

 口伝でその教えを引き継いでいくのが大事だとかなんとか。


 それを曲解して、書物自体を悪だと説く極悪人どもが現れた。

 それが正統女神教派と呼ばれる。


 ちなみに俺が教祖にされた元邪教と呼ばれた女神教分派は、現在ではブックマーク派と呼ばれ正当な女神教と認められつつある。


 教祖代行を務めるグレック・ノート顎髭男爵、超有能。

 また、対比するように聖書を認めない古い体質の者たちをノーブック派と言う。

 ノーブック派の中に更に、書物を悪とする正統女神教派とそれ以外の奴らがいる。


 うん、よく分からなくなってきた。


 つまり俺たち本を広めたいブックマーク派と、本など使わず古い慣習としがらみを重視するノーブック派が対立しているってわけだ。


 女神教の信徒は農村部とか田舎の住人が多く、一言で言えば、そもそも本なんてろくに見たことがない奴らが大半だ。


 だから今まではノーブック派の一強だったわけだ。


 ふ〜む、と俺は腕組み。

「あ、珍しい。

 積極的に助けるんですか?」

 ツバメちゃん、純真だからなんでも口に出して良い訳じゃないからね?


 お口チャックよ!

 後でベッドでお仕置きね!


 ここで選択肢だ。

 今すぐツバメちゃんの力で武力で制圧。

 可能だが、書物を購入出来る流れやら、そもそも、なんでこの領主は今まで処分されなかったのか、勢力背景を確認が必要だ。


 エストリア王(俺)に協力的でも書物をないがしろにする奴は許さないけれど。


 後は王都に連絡して然るべき処置をとる。

 これが1番妥当だが、ヤケになったり、王都側が体制に必要だからとこの領主を残す判断をされても困る。

 この土地の領主を俺は許せぬ。


 もしくは王都と連携して対処。

 俺の居所がバレるから却下。


 それか逃げるのを選ぶか。

 だが、今も助けを呼ぶ書物の声が聞こえる……(幻聴)


 よし! 方針は決まった。

 俺はツバメちゃんの方を向く。

「ツバメちゃん。

 とりあえずベッドに戻ろうか」


 ツバメちゃんの肩を抱き、宿屋に戻ろうとする。

「えっ? えっ!?」


 戸惑うツバメちゃん。

 住人たちも一緒に戸惑う。

 そこで俺は振り返り住人に一言。


「ちょっとだけ話を聞いても良いけど、宿代は出してね?」

 そう言うと分かりましたと素直な住民たち。


 この騒ぎですぐに領主にはバレるだろうなぁ。

 あ、ほら、あの人、逃げようとしてる。


 ツバメちゃんに言えば、捕まえられるがそうなるともうなし崩しだな。

 一気に制圧した方がマシな状況になってしまう。

 そんなわけで気付いていないふりで放置。


 しかしまあ、現状は情報不足だ。

 今後の国がどうとか考えると、今回の領主の一件はしっかりとした内偵が必要だ。


 今までなら極悪組がガッツリ領主と繋がっているので、危うきに近寄らずで即座に逃げるのが正解だ。

 チンケな詐欺師なら間違いなく、そうした。


 書物を確保したくとも、ただのチンケな詐欺師ならそんな力はないのだから。

 しかしながら、今はそうではない。


 色々厄介だなぁ……。


 とにかくその日は住人の金で豪遊し、ツバメちゃんにベッドでお仕置きして。


 色々と頭がスッキリした俺はついに決断した!

 よし! やっぱり逃げよう!!


 そして抜き足差し足、まだ寝ているツバメちゃんを置いて街を抜け出すのであった。


 後で王都に領主をなんとかするように、お手紙送ってあげるから安心してね〜!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る