第5話ゴンザレス王、絡まれる②

 動きを止めるツバメちゃん。


 あら? そういう時は動きを止めず、瞬殺するのがオススメよ?

 捕まったわたくしが言うことではなくてよ?


 きらめく刃物。

 タ、タスケテー……。


「その手を離せ……」

 ツバメちゃんが俺を人質にしたアフロあにいを睨む。


 おうふ、凄い殺気ですわね?

 アフロあにい、手が震えてますわよ?

 まあ、耐えてるだけ凄いと言えよう。


 さて、膠着状態こうちゃくじょうたいになったので、口で丸め込もうと口を開いた瞬間!


 後ろから誰かに体当たりをされた!

 突き飛ばされ転がる俺!


 覚えある!

 なんかこの後ろからのアタック、覚えあるの!!


 俺の心が全開に警戒音を鳴らす!

 このアタックで刺されてゴンザレス最大の危機を迎えたの!!!


 ゴロンゴロンと3回転、倒れて顔だけ起こしてみた先には。


 ツバメちゃんに吹き飛ばされるアフロあにいと……。

 天下御免の男の娘、ナリアちゃん!!!


 ヒィヤァァアアアアアアアアア!!!!


 俺はそこでパタリと意識を失った。

 転がった時に頭を打ってたみたい……。






 遠くで声が聞こえる。

「え? やっぱりアレスさんって男もイケる口?」

「口?

 ええ、確かに僕はアレス兄様に『初めて』を奪われました」


「ひゃー! やっぱりぃ?

 アレスさん懐広いわぁー!

 信じてたわぁ!

 じゃあ、早速起きたら、うふふ……」


 お、起きたら、喰われる!?

 ど、どうする俺?

 どうなる俺ー!?


 浮かばね〜!!!


 なので、のそりと動く。

 諦めたわけじゃなくて、口で言いくるめた方が早いと判断したためだ。


 ナリアちゃんは長い茶色の髪に、鳥の羽飾りを髪にさした年の頃なら10代後半頃。

 さらに可愛らしさと綺麗さに磨きをかけている。

 大人の女性になったと言うことだ。

 男の娘だけど。


 本格的にTS薬探そうかなぁという気になる。

 俺は身体を起こし、憂いを帯びた顔で首を横に振る。


「……ダメなんだツバメちゃん。

 ナリアちゃんはいつか女の子になるために、不姦の誓いを立ててるんだ。

 その誓いを破ると、ナリアちゃんは女の子になれなくなってしまうんだ」


 嘘だけど。


「そ、そんな……」

 ツバメちゃんはよろめいて後退あとずさり。

 そもそも、なんでツバメちゃんはショック受けているのかな?


「愛する人の子を産むため、今を耐える。

 2人の真実の愛が今、試されるというのね!」

「僕はどっちでも良いんですけどね〜」


 黙っとれ! この男の娘がぁぁあああ!!

 おんどれは黙って女の娘になって、わいに食べられればいいんじゃぁぁああああ!!!


 アア、食べられない危険な果実(ナリア)の、なんと美味しそうなことか。

 ジュルリ。


 そんなケモノの目でナリアちゃんを見てしまうと、ツバメちゃんもジュルリと言わんばかりに期待の目で見てくる。


 ……食べないよ?

 ゴンザレス、男はダメなの。

 元男は平気だけど、男の娘はダメなの。


 とにかくその話は置いておいて。


「ナリアちゃん、なんでここに居るの?」

「ローラ姉様に逢いに来たでしょ?

 僕、それを聞いて急いで追いかけて来たんだ」


 偽装しながら移動してたはずだけど、よく追いつけたね?


「僕、昔からその手の勘は強いのです。

 僕の部族は長女が代々巫女の力を引き継ぐとかどうとかで」


 君は男の娘だよね?

 実は女でした、とかならゴンザレス的に解決。

 男の娘だとゴンザレス確かめたね。

 どうやってかは多くは言うまい。


 巫女って男の娘もなれるんだね?

 たまたま長女が引き継いでただけで、長男でも引き継がれるってことかしら?


 あら、ゴンザレス混乱してきたわ!


「へ〜、巫女家系なんだ。

 私も〜」

 そういや、ツバメちゃん元巫女だったね。

 すっかり忘れてた。


「それでね、それでね、アレスさんに助けてもらって〜」

「良いですねぇ、僕も村を助けてもらって僕をアレス兄様の物にしてくれるって、父様と約束してくれたんですよ〜?」


「きゃー! アレスさん! すでに自分のものにしちゃってるじゃないですか!

 あれですか? 私、お邪魔?

 部屋出ましょうか?」


 ツバメちゃん、君は俺をどうしたいの?

 男同士の真実の愛をって言わなくていいから。

 聞きたくない聞きたくない。

 ゴンザレス聞かざる。

 ツバメちゃんは後で絶対、ベッドでお仕置きするとして。


 あと、そこの男の娘!!

 恋する乙女のように切なそうな顔しない!

 お兄さんモヤモヤするでしょ!?

 TS薬は何処じゃぁぁああああ!!!


 そんなこんなで旅の友が1人増えた。





 次の日、宿から出ると街の住人が数十人以上に宿の前で土下座された。

 突然のことで、俺も流石に動揺。


 な、何が起きたんだ!?

 こええよ!

 俺が何をした!?


 ツバメちゃんがポツリ。

「あー、アレスさん『また』何かしました?」


 俺じゃねぇぇええええ!!!

 絶対に俺じゃねぇぇえええ!!!!

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