第4話ゴンザレス王、絡まれる①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も真実を知らない。

 それが、世界最強ランクNo.0


 ……それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからねと。 



 アレスです。

 またの名をゴンザレス、元詐欺師の王様です。

 すげぇ胡散臭いよね。


 エストリア王都から大きな街を2つほど越えた先の、程々の大きさの街の酒場でツバメちゃんとゆっくり酒を飲む。


 良いねぇ〜、美女と酒を酌み交わすのは実に良いものだ。

 今は化粧でそばかすを付けた田舎娘風のツバメちゃん。

 元々が田舎娘だから、ツバメちゃん自身の雰囲気とマッチして実に癒される。


 ほら、何処からどう見ても、チンケな詐欺師とそれに引っ掛かった田舎娘。

 ……やっぱりダメじゃね?


「そういえば、アレスさんと2人旅って初めてですね〜」

 そういえば、そうだったなぁ。


 そこであることに俺は気付く。


 金が無い!

 カストロ公爵時代もそうだったが、自分の金をどうやって引き出したら良いかまるで分からない!!


 なんてこった!?


 お帰り、詐欺師生活!!

 王様? 儚い夢だったのさ。


「……ツバメちゃん、お金持ってる?」

 ツバメちゃんはキョトンとする。


 もしかするとこの直後、般若顔になって、わりゃあ、金が無いならケツ毛ムシって、金払えと言ってくるかもしれません。


 はい、ケツ毛は売れません。


 ツバメちゃんは自身の胸を叩き、大きく満面の笑みで笑う。

「はい! お任せ下さい!

 お金はしっかり貯めてましたので、アレスさんはご安心下さい!」


 うんうん、良い娘ね?

 でも、その貯めてたお金、詐欺師に使っちゃダメよ?


 ……はい、俺、ヒモ決定。


 後ね?

 お金があるアピールをこんな場末の酒場で堂々と言ってはダメよ?


 襲われるから。


 店を出て少し暗い通りに差し掛かったところで、当然の如く人に襲われる。

 はい、人は見かけではございません。

 この方、こんなに可愛いのに世界ランクNo.6の化け物で御座います。


 人を襲う奴は襲われる覚悟がうんちゃらかんちゃら。


 とりあえず、イリス様の鉄拳制裁を受けて倒れた奴から順番に、ふところ探らせて頂きやす。

 ほっほっほ、豊作豊作。


 場末の酒場で若い娘がお金持ってるアピールしたから、襲われるのも当然なんだけどさ。


 こういうのって、無くしたりできる日が来るのかね?

 古い文献に『倫理観』という不思議な思想があった。


 平和で暇になれば、そういうこと考える人も増えるんだろうな、って。

 そうして出来た本は面白いだろうなぁー。


 俺はそれが読んでみたい。

 幻想小説や読本よみほんなんて言葉も古い書物の中だけだ。


 騎士やお姫様の絵物語、1000年前の勇者のことを書いた本のこと。

 そういう本は今の時代ほとんど残っていない。

 俺はそれを読みたくて旅を続けていた。


 有名どころの図書館には、『何故か』なかった。

 星見の里、帝国の元教祖の部屋や一部の地域に隠されるようにそれは存在していた。


 魔王のことや1000年前のことはそうやって知った。

 そうすると辿たどれちゃうわけよ、色々。


「て、てめらぁああ……、俺らを極悪組のもんと分かって、こんなマネを……」


 ああああああ!!!!

 このバカチンがぁぁああああ!!!


 黙っとけば良いのに!!

 ちょっと犬に噛まれたと思って、我慢しとけば良かったのに!


「ツバメちゃん、成敗!」

「は〜い!」

 元気な返事でさっくりと。


 こういうのはね、証拠を残しちゃダメなのよ?

 この街はその極道組とやらの支配下なのね。


 くわばらくわばら。


 かつてクワンバラという男が雷を自在に操り、俺の怒りのイカズチじゃーと叫び、雷雲広がる嵐の日に指を空に突き立て、そこに神の怒りが落ちて見事なアフロ髪となったという。


 以来、神の怒りでアフロにされる被害を防ぐため、くわばら(クワンバラじゃない)と唱えるらしい。


 どうでも良いな。


 何故、そんなことを考えているかといえば、(ツバメちゃんが)襲ってきた奴らを返り討ちにしたら、援軍に来た強面のアフロ髪の集団、その数100人以上(!)に囲まれてしまったからだ!


「よう、兄ちゃん。

 俺の可愛い部下どもをよくもやってくれたなぁ?」

「へへへ、あにいはかつてエストリア10剣候補にもなった男だぜ?

 おい! 女ぁああ! よく見れば田舎娘のくせしてイケてるじゃねぇか、良い値で……ヘブシッ!?」


 言い終わる前にツバメちゃんがアフロBを蹴り飛ばす。

「アレスさん〜?

 もうヤっちゃっていい〜?」

 もうヤっちゃってるじゃないの。


「ツバメちゃん、ヤっちゃって」

「は〜い!」


 チャーチャチャチャラララー♪

 そんな音楽が軽快に聞こえそうなほど、圧倒的で御座います。


 アア……圧倒的じゃないか。


 そりゃそうだ。

 可愛くても同じ数の魔獣さえも、ものともしないNo.6だもの。


 きゃー! ツバメちゃんステキー!!


 そうやって、のされた男の懐からお財布を頂戴する。

 チッ、このあにいとかいう奴しけてやがる。

 銅貨3枚しか持ってない。


 しかし、懐を探ることで一生懸命になっていた俺は油断していたのだ!

 なんとあにいは意識を失っておらず、俺を拘束し刃物を突き付けた。


「おい! コルァア、このアマァァアア。

 この男がどうなっても良いのか!」


 キャー! 

 わたくし、囚われてしまったわ!  

 お助けー!!!!!!

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