第3話ゴンザレス王、やっぱり逃げる②

「結局、何の用?」

「迎えに来たついでに情報が欲しくてね」


 ローラは呆れながら、ため息を吐く。

 あれ? 迎えに来たの信じてない?


 ……そりゃそうか。

 本当なんだけどな。

 元詐欺師を簡単に信じる方がどうかとは思うが。


 とりあえず俺は聞きたいことを口にする。


「ここ最近のエストリア内の宗教ってどんな感じ?」

「相変わらず変なこと聞くわね?

 知っての通りよ、ほとんど女神教のままよ?

 敢えて言うなら、新しい考えの宗派が広まっていて、反対にそれ以前の宗派が押されてるという感じね」


 そうだよな。

 国として苛烈に取り締まるのは、国教としている帝国ぐらいだが、エストリア、コルラン、ゲシュタルト連邦もほとんどが女神教だ。


 ゲシュタルト連邦は今はエストリア国の一部だけどね!

 元々がゲシュタルト連邦は各部族の集合体だ。

 だからエストリア国のアレス王をその代表とするという形らしいのよ。


 土地柄やら考え方とか色々あるから大変よねぇ〜。

 でも今は両方の代表たちが積極的にまとまろうとしているから、なんとかやれているらしい。


 その取りまとめをするのは、エストリア国の代表!! グローリー丞相頑張れ!


 まあ、つまりね。

 多少の亜種はあれど、ほぼ世界は女神教により『支配』されているってことよね。


 んで、この女神教の起こりは1000年前。

 つまり、世界が滅びかけた『聖魔大戦』の時から。


「オーケー、ありがとう。

 あ、そうそう。

 世界最強No.0の話を一つ。

 奴は女神教分派の教祖らしいよ。

 分派って言っても以前は異教認定されたらしいけど、最近は変化してきて正式な女神教の一派と認められたみたい」


 突然の情報提供にローラは戸惑う。


「その情報をどうしろと?」

 俺は手をフリフリ。


「情報自体はお好きに。

 対価は嫁に来てくれればそれで良いよ」


 ローラはため息を一つ。

「分かったわ。

 無事に帰って来るのよ?

 やっと念願叶った玉の輿なんだから」


 明らかに信じてはいない様子だ。

 俺はそれを聞き……笑みを浮かべるに留めた。


 高級娼婦時代、彼女を身請けしようとしたのはエストリアの王族のボンボンだった訳だが、それを嫌がったのは他ならぬ彼女だった。


 この時からローラとこんな軽い感じの約束をした。

 思えば彼女は王になって迎えに来るというのを、ただのリップサービスと捉えていたのだろう。


 これまた、そりゃそうだ。


 誰がチンケな詐欺師が王になって迎えに来るなんて、戯言ざれごとを信じるよ?


 だけど悪いね、本当なのよ?

 このまま嫁に来てもらうから。


 そんな本音はおくびにも出さず、場所を変えローラにツバメちゃんの変装のための化粧の仕方を伝授してもらう。


「ローラさん、今後もよろしくね〜?」

 ツバメちゃんは分かってるのか分かってないのか、気楽にローラにご挨拶。

 逆にローラの方が戸惑っている。


 そして……ようやくといった様子で俺の方をぎこちなく見てローラは言う。


「ねえ? この娘、世界ランクNo.6のツバメと姿形が同じに見えるんだけど、まさか本人じゃないわよね?

 帝国の近衛って聞いたけど?

 なんで貴方の女なの?

 ねえ? 貴方の噂って何処から何処まで本当なの?

 まさか、全部本当とか言わないわよね?

 いくらなんでも……それはないわね?

 え……ないよね?

 ねえ、ちょっと、なんで黙ってるのよ?

 ちょっとなんか言ってよ?

 怖いんだけど。

 魔王を指一本で倒したとか、帝国を救ったとか、国を滅ぼしたとか、世界最強だとか、不確かな情報はいくらでもあるんだけど、いくらなんでも全部信じる人なんて居ないわよ?

 え? 結局、カストロ公爵は本当なの?

 やっぱりやんごとない生まれ?

 あ、それははっきり違う?

 そう……。

 あれ? でもカストロ公爵なの?

 元?

 元公爵ってどういうこと?

 え? カストロ公爵はこの国の王様になったらしいけど……?

 ねえ、何処まで?

 ちゃ、ちょっと、怖いんだけど!?

 そういえば、さっき王宮とか言わなかった?

 護衛が来るの?

 そう、誰の?

 私!?

 なんで!?

 なんで私に護衛が付くの!?

 そのお金何処から出てるの?

 貴方そんなに金持ちだった?

 本物の王様になったとかないよね!?

 ねえ、ないよね!?

 貴方、自分がスラムの生まれって言ってなかった?

 本当に公爵の血筋だったり……しないよね。

 ……そう、しないのね。

 あれ? じゃあ、なんで?

 貴族とか王様って血筋関係なくなれるものなの?

 ねえ? 笑ってないでなんとか言ってよ?

 私、誰のお嫁さんになるの!?

 まさか世界最強で伝説のNo.0で超大国の王様になった人とかじゃないよね!?

 違うよね?

 違うと言ってぇぇえええええ!!!」


 最後にはローラは涙目で俺をガクガクと揺らす。

 やめてやめて、小さなゴンザレスが出てくるから。


「ちょっと、待って!!!

 否定してよぉぉおおおお!!!!」


 そうだよな。

 普通、そんなの嘘だと思うよな……。

 ごめん、詐欺じゃないんだ……。


 そして俺に1人嫁が加わり、俺とツバメちゃんはエストリア王都を出た。





 この日、大国の王に1人の妃が加わった。

 それはまたしても、かつて滅びた国の王族に連なる娘。

 名をローラと呼ぶ。

 情報に精通し、新王アレスのエストリア王都攻略の際にも多大なる貢献をした。

 また、彼女は不幸にも娼館に堕ちる娘たちのために尽力し、それは女性の権利向上の大きなうねりとなり世界に広まることになる。


 もちろん、とある元詐欺師はそんなことを知る由もない。

 今は、まだ。


 こうして、世界最強No.0の伝説がまた一つ。

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