第2話ゴンザレス王、やっぱり逃げる①

「自由だー!!」

「自由ですねぇー」


 わたくし、ゴンザレス。

 窮屈な王宮を飛び出し、自由の大地へ飛び出したの。

 何処へ行こうかしら?


「何処へ行きますー?」

 わたくし、ゴンザレス。

 今回は世界ランクナンバーズの凄い方、ツバメさんがご一緒ですのよ?

 この方のご協力がなければ、王宮から抜け出すのは無理よ?

 わたくし、前と違って本物の王様ですもの。


 それにこの方、強いだけでなく可愛いのですのよ?

 ナンバーズの女性陣全員そうですけど。


「アレスさん〜? 何処でも良いですよ〜?

 ふふ、チェイミーに羨ましがられちゃうなぁ〜」


 チンケな詐欺師のお供でどうして、そんなに嬉しそうなんでしょ?

 あら? もうわたくしチンケな詐欺師ではなかったのですわ?


 王よ! キングダムのキングでございますわよ!


 おーほっほっほ!

 ……現実逃避も程々にしよ。


「帝国……の前に、ちょっと王都で人に会っておかないといけなくてね」

「は〜い」


 一切、止めるでもなく俺に付き合って歩くツバメちゃん。

 俺、王様よ?

 王様が脱走したのに捕まえなくて良いの?


「私は王国に仕えてるのではなく、アレスさんに仕えてるのでどちらでも良いんです!」


 自由ね? ツバメちゃん?

 貴女、最初からそんなに自由だった?


 ……自由だったかも。

 姫巫女なのに冒険者になって、『初めて』を初めて会った詐欺師に捧げるぐらい自由だったわね。


 美しい女は強く! 自由に生きるのね!



 はい、俺も王宮を抜け出せてテンション上がっております。

 俺、王様らしいけどつくづく思うことが一つだけあります。


 俺……要る?


「王都から出たら何処かで馬車を手配したいですね〜。

 ところでアレスさん?

 なんで逃げたんです?

 もう別に王様なんですし、お気に入りのソファーで本を読んでたら良かったんじゃないんですか?」


 ツバメちゃんは何気なく聞いた風を装うが。

 まあ、分かるわけだ。


 これはなんの気の迷いか、チンケの詐欺師に引っ掛かってしまったS級美女全員からの質問と考えて良いのだろう。


 実はこの答え口にするにはあまりに

 恐らく、ツバメちゃんは『大丈夫』とは思うが。


 さてさて何処まで教えたものか?

 そこでフッと笑う。

 エルフ女なら、『気持ち悪っ!』と即座に言い切る笑い方で。


「ま、おいおいね」

「絶対ですよ!」


 絶対、絶対。

 性根は詐欺師だからいつでも騙すけどね。


 特に警戒する風でもなく通りを堂々と歩く。

 こういうのはね、変にビクビクしちゃダメなのよ?


 ほら、俺たち2人を見てみなよ。

 どう見ても、チンケな詐欺師とそれに引っ掛かった純真美女娘。


 ……ダメじゃん。


「ツバメちゃん、ちょっと変装しよか?

 君、ちょっと美人過ぎ」

 エルフ女の指導を受けて、メキメキ腕と美女度を上げているツバメ。


「いやだぁ、もう、アレスさんたら!

 美人だなんて〜」

 そう言いながら、ツバメちゃんは街のおばちゃんが照れるように俺をどつく。


 吹き飛ぶ俺。


 オケツを高く上げピクピクとする俺。

 そうだったね、君たち化け物だったね。

 だって彼女は世界ランクNo.6!

 世界を代表する化け物だもの。


「……突然、姿を見せたと思ったら何してるのよ?」

「よお、ローラ」

 青くも見える黒の縮れ髪が色っぽく前にかかり、口元のホクロがセクシー。

 だが、付けボクロだ。


 普段は妖艶な大人の女の雰囲気だが化粧でそう見せているだけで、今日は若く綺麗系だ。

 美女なのは変わりがない。

 今日は露出が少ない。

 まあ、普通の格好で街娘風、普通に可愛い美女だ。


「迎えに来た」

「その格好で?」

 ケツ上げスタイル。


 これは単純にどつき飛ばされただけだ。

 何事もなかったように服の埃を払い、もう一度。

「王になったから迎えに来たぞ」


 ローラは目を丸くして……三角になった。

 あれ? 怒った? なんで?


「へぇー、女連れで?」

 ツバメちゃんを振り返る。

 訳が分からないらしく小首を傾げられた。


 し、しまったぁぁあああああ!!!!


 流れでツバメちゃんを連れて来たままだった!!


「こ、ここ、これは、その、まあ、あれだ」

 おい、俺の脳みそ! 仕事しろ!

 詐欺師じゃなくなった途端にこれか!


 こういう時は、その、あれだ!


 浮かばねぇぇえええええ!!!!


 そりゃそうだ。

 俺は元々チンケな詐欺師。

 美女を挟んでこんな状況に陥ったことが……なかった、かなぁ?


「アレスさん、新しい女性ですかぁ?

 んー、メリッサさん知ってるんですか?」

「メリッサ?」

 ローラが額をピクリ。


 ふーひょー!


 今、ここでその名を出しますか!?

 あれ? なんだろ? 君らの中で正妻的な立場ってメリッサなの? どうなの?


 無理。

 やっぱり俺にハーレム的なの無理。

 すでに手遅れだけど。


「連絡しておきましょうか?

 それで王宮に入ってもらって……」

 心配そうな顔でツバメちゃんがそう言ってくれる。


 うん、君の親友チェイミー共々優しいね、だからこんな詐欺師に引っ掛かるのよ?

 今は王様らしいけど。


「王宮?」

 ローラは何故かいぶかしげな表情。


 ローラには今度改めて迎えに来ることを伝え、誠心誠意、道のど真ん中で土下座しながら謝った。


 ちらほら、俺らのやり取りを道行く人が興味深そうに見ていたので、

 ローラは大いに慌ててもう良いから、待ってるから、と止められた。


 そう? 詐欺師は詐欺のためなら土下座も平気よ?


 今は王様だけど。

 ……やっぱり俺が王様って無理くね?

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