真相編女神陥落

第1話わたくし、ゴンザレス、大国の王なの

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 その伝説は数多く、生まれも公爵様だとか、生まれながらの救世主だとか、魔王を指先一つで討伐したとか、大国の王となったとか数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて誰も真実を知らない。


 それが、世界最強ランクNo.0


 ……それについて、とある元詐欺師はかたる。

 俺、違うからねと。







「なぁ、爺さん頼むよ〜。

 丞相になってくれよ〜」

「なんで、ワシを宰相どころか丞相にするんだ!

 常識で考えろ! 常識で!!」


 俺は牢屋の中の元エストリア王国宰相グローリーにそう頼み込むが、グローリーは怒りながら断ってくる。


 なお、丞相とは宰相の上位職とも言える地位で、王以外での事実上のトップの地位であり、とびっきり優秀な人が成る地位だ。

 歴史上でも数は多くない。


「もう良いじゃん。

 常識なんか死んでるんだからよ〜。」


 あ、どうも、アレスです。

 昔はゴンザレスなんて呼ばれたり、今もちょくちょく呼ばれたりしてます。

 もうどっちでもいいです。


 チンケな詐欺師……でした。

 今は大国エストリア王国とゲシュタルト連邦王国を合わせた超大国の王様ですのよ?


 知ってる〜、奥様〜?

 スラム上がりのチンケな詐欺師って、大国の王様になれるんですって!

 あらヤダァ〜、オホホホ……。


 どうしてこうなった?




 そんな俺は豪勢な貴賓用の牢屋の前で、元エストリア国宰相グローリーを説得中です。

 彼に名誉職になっていた宰相の上の地位である丞相になって頂いて、その辣腕らつわんを奮って頂こうと企んでいた。


「良いじゃんかよー!

 エストリアの倍の国の丞相だぞ?

 そのまま国を奪っても良いからさぁ。

 爺さん、国を奪ろうとしたんじゃないのかよ!

 もっと、熱くなれよぉおお!」

「それを邪魔したのが貴様だろうがぁぁあああ!!!」


 俺が邪魔した訳ではない。

 俺も巻き込まれて連れてこられただけだ。


 グローリー宰相は世界の叡智の塔の力を利用して、エストリア王国で反乱を起こした。


 しかし、エストリア王国の姫セレンを保護したカストロ公爵アレスと。

 そのアレスを支援する帝国とコルランと冒険者の国エール共和国と情熱の国バーミリオンとの連合によって、その野望は阻まれた。


 エストリア国半分VS全世界。

 酷い戦いだった。

 なお、グローリー反乱軍には俺がローラの力を借りて娼館で悪い噂を流しまくったから、士気もボロボロ、内部は分裂状態。


 それらを全て主導したのは、現エストリア・ゲシュタルト連邦王国皇王アレス・カストロだそうですよ、奥様!


 はっはっは……、俺だよ。


「まあまあ、アレス様もお祖父様もそれぐらいになさったら如何ですか?」

 金の長い髪に青い目、THEお姫様な風貌の清楚な白いドレスの娘がグローリーの食事を持って姿を見せた。

 グローリー宰相の孫娘だ。


「そうだぞ〜、エルミナちゃんもこう言ってるんだ。

 大体、ほら、半分になったエストリア王国獲っても後が大変だっただろ?

 結果的には王ではないかもしれないが、権力のトップになるんだぞ?

 結果オーライじゃないか!!

 そのまま国を奪ってくれれば、尚よし!!」


 俺は実に魅力的な提案をしているつもりだ。

 エストリア王国の半分どころか、元のエストリア王国の倍の大国の権力のトップである、やりたい放題だ。


 当然、仕事も責任も倍以上になるから、俺なら2000%断るが。


 エルミナちゃんも鍵の掛かってない牢屋の扉を開け、グローリーの食事を並べながら、一緒に説得してくれる。


「そうですよ、お祖父様。

 早く良いお返事をして下さい。

 そうすれば、私がこの大国の王妃になって、ウヒウヒ……おっと、ウフフ」


 うん、この娘可愛いけど怖いからゴンザレスご遠慮するね。

 もう、嫁は沢山居るし。

 それでも美女が居たら口説くけど。


「ところで爺さん、そろそろ家帰ったら?

 なんでいつまでここに居んの?」


 一応、反乱を企てたということで爺さんを守る意味でも、牢屋に入れたが形だけだ。

 俺からすれば、そのままこの国を統治してもらいたいぐらいなのだから。


「貴様がここに放り込んだんだろうが……。

 もういい……分かった。

 明日、王宮に顔を出すからもうそれで」


 爺さんは諦めたようにため息を吐いて、丞相就任を了解してくれた。

 俺は笑顔で手を振り、エルミナちゃんに後を任せて牢屋から立ち去る。


「あ〜、アレスさん。もう良かったんですか?」

「おー、ツバメちゃん。

 もう良いよ〜、お疲れ」


 今までチンケな詐欺師として1人で世界を旅して回った俺だ。

 だが自分が納得しようがしまいが、立場というものがついて回るようで誰かが護衛に付いている。


 ツバメちゃんは帝国の近衛を辞めて、俺の専属の護衛兼嫁となっている。


 嫁が護衛なのも変な感じだが、ツバメちゃんは可愛い容姿でありながら、世界ランク……何位だっけ?

 とにかく圧倒的な強者だ。


 ……俺の嫁の大半が世界ランクに載る化け物級の強者だけど。


 他の衛兵に後を任せて、ツバメちゃんの肩を抱き王宮の自分の部屋(超豪華)に戻る。

 部屋に入るとベッドを椅子にして、2人で並んで座る。


 ツバメちゃんを自然な感じに、部屋に連れ込みに成功しましたぞ!


「宰相さんって、敵だったあのお爺さんですよね?」


 足をぶらぶらさせながら、警戒した様子もないツバメちゃん。

 そりゃ、抵抗されたら絶対逃げられます、というか俺が潰されます。

 どんなに可愛くとも、世界ランクナンバーズの化け物だもの。


「敵……だったかなぁ?

 あの爺さん有能だから任せれば楽出来るんだよ」


 肩を引き寄せる……抵抗なし!


「あんな凄い力を持ってる相手だったのに、敵ですらないなんて流石です!!」


 うん、そういう意味じゃなくて、あの爺さんが国を奪ろうが獲るまいがどうでもよかっただけで……。

 相変わらずの勘違いなんだけど……。


 ツバメちゃんが純真な顔で目をキラキラ。

 ああ、うん、まあいいや。


 俺の頭の中はピンク色。


 いけ! いけ! 押し倒せー!!

 心の中のゴンザレスが大合唱。


 はい、ツバメちゃんをベッドで美味しく頂きました。


 わたくし、ゴンザレス。

 チンケな元詐欺師。

 王様になっちゃったみたい。





 そして、次の日、王の執務室の上に一枚の手紙が残されていた。

 グローリー『丞相』に全部任せるので、後は宜しく、と。


 激怒する就任初日のグローリー丞相。


 それを見た女性陣一同。

 ああ、またかと呟くに留めた。

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