第56話一つだけ誤解を解こう

 馬車は行くよ〜、ゴトゴトと〜♪

 わたくし、馬車の窓からの景色をアンニュイな気分で眺めるの。


 囚われの午後。

 皆様如何お過ごしでしょうか?


 詐欺師のアレスです。

 かつてはゴンザレスとも呼ばれました。


 はい、わたくし。

 ついに捕まってしまいました。


 あら? またかよ、と誰かおっしゃいました?

 わたくしそんなに……捕まってるね。


 今回はカストロ公爵アレス様の奥方候補に捕まりました。

 結構な美女なのよ?


 元王女らしいですわよ?

 カストロ公爵アレス様をよく慕ってらして、領地ではいつもお留守のカストロ公爵アレス様の代わりに頑張ってるらしいわぁ〜。

 いじらしいわぁ〜。


 寝取っちゃった、てへっ☆


 まあ、俺がよく知る元王女の小娘イリスなんだけどよ?

 逃げまくってたのに、ついに関係持っちゃったよ。

 だって可愛いし。


 寝取ったとか言ったけど俺からするとよー、

 その方がマシだったんじゃないかなぁとか思う訳よ?


 公爵様の奥方候補寝取ったら、そりゃあ殺されるよ?

 殺されるのはヤダから必死に逃げる訳だけどさぁ〜……。


 でもさぁ、カストロ公爵アレスって……多分、俺なのよね……。


 つまりよー。

 俺はエストリア王国で1番と言われるぐらいの大領主のカストロ公爵アレスで。

 元王女で世界ランクNo.8でS級美女の小娘が、チンケな詐欺師の俺の奥方候補筆頭だってさ。


 ……何が起きたらそうなるの?


 それは置いといて!

 置いておけないけど置いといて!!!!

 わたくし、このままでは殺されてしまいます!!


 そこ! またかよ、と言わない!

 そりゃ、いつも危ない目に遭ってるけどさあ!!!


 それでイリスとエルフ女とキョウちゃんの3人と俺、何処に行ってると思う?

 魔王討伐だ。


 ハハハ(゚∀゚)


 死ぬわぁぁあああああああああ!!!!


 チンケな詐欺師がどう逆立ちしたら、魔王討伐なんて出来るんだ!?

 この世は奇想天外摩訶不思議ってか!?

 無理なもんは無理なの!!


 お願い! 常識で考えて!?






 コルラン国のゴンザレスの元に突撃して来た世界ランクNo.8イリスの手により、ゴンザレスは魔王討伐のための旅に巻き込まれていくことになる。


 イリス当人も決して狙ってそうした訳ではないが、結果で言うなら高度(?)な美人局つつもたせみたいなものである。


 ゴンザレスもS級美女なイリスと関係を持ってしまったが故に、ずるずると事態に引き込まれる典型的なダメ男パターンをかましてしまったのだ。


 どうにも刷り込まれたヒヨコのように、チンケな詐欺師をしたう哀れなS級美女の小娘に対して。

 クズ男のくせに情らしきものを感じてしまったせいだが、それでも隙あらば逃げようとするあたりクズは何も変わらない。


 こうしてチンケな詐欺師は世界の命運を賭けた戦いに、無理矢理巻き込まれていく。

 ……そして、指先一つで魔王を倒すこととなる。


 さて、ここで一つだけ『誤解』を解いておこう。


 彼は決して認めようとしないが、アレスが何故、伝説の世界最強のNo.0と誰もが認めてしまうのか。


 仮に世界ランクNo.1ハムウェイがアレスと同じように、世界を旅して回ろうとしたとしても世界最強No.0はアレス以外ではなり得なかった。


 世界一強いから?

 違う。

 必ず勝利する指揮官だから?

 違う。

 誰よりも類い稀なる頭脳を持つから?

 近いが違う。


【彼だけが世界の『形』を知っていた】


 もしも神なる視点を持つ者が居たとすれば、逆に理解は出来なかったかもしれない。


 この世界、何処に何があって。

 そこにどういう人が居て。

 どんな風習を持っているか。

 そこに行くにはどの道が正しく、どれほどの時間が掛かるか。

 この世界の誰であろうと知っている者は居なかった。


 それだけ世界は未知数で、それだけ世界は未完成で、それだけ世界は未熟だった。


 地図という概念も未完で、街々の距離においても各国々で秘匿され、それすらも正確とは言えなかった。


 当然、情報においても他国の情報など、おいそれと知り得る訳ではない。

 ただでさえ国と国、領地と領地の間には抜け道はあるにしろ関所が置かれている。


 何千、何万という距離を一気に伝達する方法など有りはしないのだから。


 世界最強No.0の噂がこれほど世界に広まりながら、確定的な証拠を誰も提示出来ていないのはそういうことだ。


 そして経済というもの。

 名うての商人でもその概念自体は未成熟であった。

 商業連合国、カストロ公爵領、コルラン国でゴンザレスが仕掛けて見せた『経済戦争』とでも呼ぶべき仕掛け。


 それはこの世界にあって『異常』とも呼べる概念。


 何故なら発展すべき経済『論』は、『本』や『文化』同様、何者かにその進化を止められたままだったのだから。


 『それら』を世界で彼だけは人よりも多く知り得ていた。


 それは失われた『地図』を、『伝記』を、『本』を手に持ち、世界を歩いた彼だけが成し得たこと。


 彼は己の知的欲求を満たしたい。

 それだけを考えたに過ぎない。

 それでも彼だけが失われた『本』を片手に世界を自らの足で歩き、触れ、学び、知った。


 それこそが化け物と呼ばれた世界ランクナンバーズの半数を救い、多くの美女を救い、国を、人々を救った。


 その時々に彼が『偶然』、その場に現れるのは必然でもあったのだ。


 世界の『形』を知っていたから、相手のことを知っていたから、如何なる交渉も可能だった。

 どんな地形か風土か知っていたから、如何なる戦いも勝利出来た。

 世界の距離を土地を知っていたから、まるで神出鬼没に色んな場所に現れた。


 彼からすればただの『必然』である。


 まあ、もっとも当のチンケな詐欺師は、そんな自分のことに何一つ気付くことなく、いつの間にか毎度毎度『やらかして』しまう訳なのだが。


 それほどのものを知りながら、それを詐欺にしか活かすことしか考えられないのが、アレスのアレスたる所以ゆえんである。










 魔王討伐後、俺は何故か世界を救ったドリームチームのリーダーとして凱旋させられかけたが、エルフ女を魔王城で詐欺にかけ脱出の手引きをさせることに成功した。


 俺は今、生きている。

 この大自然あふれるゲフタルの地で。


 そこにエルフ女が迎えに来た。

 無理矢理引っ張って行こうとするエルフ女に俺は抵抗することを諦める。


「分ーかった!

 分かったから、荷物整理させる時間ぐらい待て!」


 無理矢理、連れて行かれそうになるのを制止して荷物をまとめる。

 エルフ女は早く早くと地団駄踏みながら俺を急かす。

 エルフ女のどこかウキウキしているようなそんな様子に、あの大森林から連れ出して良かったと思わなくもない。


「シュバイン世話になったな」

「……行くのか」


 シュバインはゲシュタルト連邦王国でも稀有けうなほど有能な人間だ。

 俺の目的の一部ぐらいは気付いているのかもしれない。


「邪神が出たって言うからねぇ〜」

「邪神?

 それで帝国が世界最強のNo.0を呼びに来た、と言うわけか」

 シュバインが腕を組み目を細め言うが、俺は敢えて何も答えない。


 ただ俺はそれを皮肉げに笑い、袋一個分の荷物を背負い片手を挙げてゲフタルの地を後にする。


 どうやら例の何者かは邪神を『かたる』ようだ。

 ま、分からないだろうね。

 世界最強No.0こそが1000年前、世界を滅ぼしかけた『邪神本人』のことなんだってことを。


 こうして、とある詐欺師は『何者か』に詐欺を仕掛けた。

 自ら虚構のNo.0であるかのように誘導しながら。


 全てを知りながら。






 幕間:ゴンザレスの本音   了

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