第55話【魔王編】ゴンザレスついに捕まる裏話

 唐突に言うが、俺は詐欺師である。

 それもチンケな。


 決して、決して、国との外交の場に居ていい存在では……断じてない!!


 はーい!

 そういうことで、ここに居る主なメンバーをご紹介します。


 なお、補助のための使用人ぽいスタッフの方々は除外します。

 コルランもエストリアもそれなりにスタッフが居ると思ってくれればそれで良い。


 あ、ども、わたくし心の中のゴンザ……チンケな詐欺師のアレスと申します。


 まずコルラン国側。

 有能と噂のベテラン外相ターマハル。

 名も知らぬコルランの官僚2人。

 それに街中でわたくしに襲い掛かろうとした前科持ちの世界最強のお方、世界ランクNo.1ハムウェイ。


 そして、わたくしをひたすら睨んでおられるエストリア国外交官の方、お名前は存じ上げません。


 そして最後にこのわたくし!

 なんとなんとカストロ公爵アレス殿でーす!

 わー! やんややんや!


 ……なんでやねん。





 結局、俺が偽物のカストロ公爵アレスだとバレることなく、カストロ公爵アレスとしてお話を付けた。


 全てが終わった後。

 間借りしているバグ博士の部屋で、生まれて初めて両手で顔を覆い、自分が『やらかした』ことに反省した。


 具体的に会談の内容を思い出したくもないが……。

 コルラン国とエストリア国という二大国をチンケな詐欺師が脅してしまいました。


 やっちまった!!!

 やらかしてしまったぁぁあああ、こんちくしょぉぉおおおお!!!


 だって仕方ないじゃないか!

 爵位や領地がなんでチンケな詐欺師に必要なんだよ!

 要らないよ!

 カストロ公爵アレス本人に言えー!


 チクショォォオオオオ!!!

 分かってるよ、カストロ公爵アレスって俺だよ!!!!!!


 何がなんでこうなったか、なんとなく分かるけど!!!!!


 何がどうなってもチンケな詐欺師は普通、公爵様なんかにならないし、なれないからぁぁあああああ!!!


 なんで俺、公爵になってんの!?

 最初にあの小娘と一緒になって詐欺したからだぁぁああああああ!!!!


 俺はこの日、夜通し部屋の中をゴロゴロと転がることとなる。


 この時、俺はまだ、この出来事がほんの序の口に過ぎないことを知る由もなかった。

 チンケな詐欺師が魔王討伐に行くなんて誰が想像付くかぁぁあああああ!!!




 この日、ゴンザレスは確かにコルラン国との会談でやらかした。

 それはある意味で必然と言えたかもしれない。


 まず世界最強No.0として、コルランに至るまですでに幾つもの常識外を引き起こし、『事実』として認識されていた。


 一つ、世界ランクNo.8イリス・ウラハラの絶対の忠誠を得ている。


 一つ、異世界勇者として有名だったキョウ・クジョウを無手で倒した。


 一つ、万を越えるコルラン国の大軍を僅か500の兵で追い返し、コルランが誇る世界ランクNo.1に膝をつかせた。


 一つ、滅びかけた大国シュトナイダー帝国と殺されかけた世界ランクNo.2を魔王の魔の手から救った。


 一つ、商業連合をただ一度の会談で滅ぼした。


 一つ、これまた魔獣に滅ぼされかけたエール共和国を救った。


 そんな存在が『ただ1人』忽然とコルラン国に現れたのだ。


 しかもその情報が届けられたのは、コルランの情報部からではなく、世界ランクNo.1が夜会で偶然遭遇したためという理解し難い状況。


 コルラン国は世界最強No.0、またの名をカストロ公爵アレスの現在のコルランでの行動を即座に確認を行った。


 その結果、コルラン首脳部は愕然がくぜんとするしかなかった。

 一体、いつからコルランに入り込んでいたのか、まるで分からなかったのだ。


 それもコルランの技術の最高峰『狂気』のバグラッシュ伯爵に気に入られ、しかもコルランが進めている魔獣素材の新たな利用法の確立は、そのNo.0が提唱したものだったのだ。


 なんで、他国の公爵が隣の国で新素材の開発なんてコッソリやってるんだ!?

 これにはコルラン首脳部は大混乱。


 いつの間にか国に入り込まれていた件も相まって、責任の押し付け合いが始まったために落とし所が必要になった。


 故にコルラン国も世界最強No.0という『人外』だから仕方ないというこじつけをせざるを得なかった。


 そんな裏事情もあり、世界最強No.0つまりカストロ公爵アレスはコルラン、エストリアを相手取り、カストロ公爵領の地位を格上げさせたのだ。

 それこそがカストロ公爵アレスの真の目的だったのだと。


 この会談の結果は逆にコルラン首脳部はホッとさせた。

 どんな無茶苦茶なこじ付けであっても、理由さえつけば人はとりあえず安心してしまう生き物である。


 何故なら理由さえつけば、後はそれについて『どうするか』だけなのだから。


 そもそも今回の一連のカストロ公爵アレスの行動に、コルランは何ら不利益を被っていないのだ。

 それどころか最大の利益を提供された。

 その『事実』は非常に大きかった。


 ならばそれ相応にカストロ公爵アレスに対して応えてやれば、勝手に良い方向に転がるのみであった。


 そうと決まればコルランの行動は早かった。

 公式的にカストロ公爵領への支援をすれば良いだけである。


 しかも、魔獣素材の新たな利用法が確立された以上、魔獣素材を定期的に提供してくれるカストロ公爵領は最大の取引先でもある。

 これに乗らない理由は一つもなかった。


 同時にカストロ公爵アレス、いや世界最強No.0は誰よりも魔王に対抗するために行動しているという。


 だからコルランはカストロ公爵領と同時に、世界最強No.0を支援することを選んだ。

 魔王に世界を滅ぼさせるわけにはいかないのだから当然のことだった。


 結局、No.0が行った数々の偉業は人々から見れば、そう『見えてしまう』のだ。


 それこそがチンケな詐欺師が無意識に世界の人々に対して引き起こしてしまった、錯覚という名の『詐欺』であった。





 世界を救うために誰よりも魔王に対抗し、活動する世界最強ランクNo.0。

 だが、世界の叡智の塔には未だNo.0という番号は、ない。


 そして、とあるチンケな詐欺師は行き当たりばったりで行動してしまったことで、そんな立場になっていることなど全く気付いていなかった。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はそういう男である。

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