第51話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入るの裏話⑥

 今日も朝から本を読み、論文を執筆し、研究室に入り、過ごしているとバグ博士が突然、こんなことを言った。

「アレスよ、お主、惚れ薬とか作れるらしいではないか?」


 パーミットちゃん話したね?

 しかも、詐欺部分は言わずに。

 パーミットちゃんを見るとわざとらしく、つーんとそっぽを向く。


 ぼさぼさ頭に丸メガネに野暮ったい格好だが、横から見えるお顔はまつ毛も長く美しい。

 つーんとした顔なのに、それがまた可愛く見える。


 ゴ、ゴンザレス騙されないからね!

 でも可愛いから許す。


「惚れ薬〜?

 ま、まさかバグ博士がお使いに!?」

 このオッサン、別の屋敷に嫁子供居なかったか?

 流石、貴族! 愛人か?

 愛人を囲ってるのか?

 クッソ羨ましい!


「私ではない。

 ベルノ男爵にちょいと頼まれてしまってな。

 困ったものだがベルノ男爵の子息がな、意中の相手がおるらしい、それの手助けをして欲しいということだ。

 彼には私の研究への理解も示してくれていて、支援しても良いとまで言ってくれているのでな、無碍むげには出来ないのだ」


 ベルノ男爵は最高級下着のデザインで大儲けしたつぶらな瞳のデブチョビ髭だったな。

 ならば、俺にも報酬はたっぷり期待出来るな。


「分かりました」

「え!?」

「そうか!」


 パーミットちゃんとバグ博士は同時に反応する。


「一度ベルノ男爵の御子息にお会いすることは可能ですか?」

「可能だ。連絡しておくのでそのまま訪問してもらって大丈夫だ」

「わ、私も行きます!」


 パーミットちゃんがハイハイ!と手を挙げる。

 え〜、くるのぉー?

 いいよ〜。

 まあ、パーミットちゃん美人だしね、野暮ったい格好してるけど。


 ベルノ男爵邸に向かう途上、パーミットちゃんが食ってかかる。

「ア、アレスさん! 騙しましたね!?」

「騙してないよ?」


 騙していいの?

 騙して一晩お相手してもらおうかしら?


 何故かしら?

 そう考えると毎回、ゴンザレスの危険レーダーがビンビン反応するの。

 歴戦の勇士が戦場で感じる第6感みたいなアレ。


 何故か、それを実行した瞬間、確実に死んでしまう気がするの?

 何故かしら?

 何故かしら?


 この娘、そういう呪いをお持ちなのかしら?

 だって野暮ったい格好して怪しいもの。

 わたくし命の危険に関してはとんでもなく敏感でしてよ?


「惚れ薬作れるんじゃないですか!」

「作れないなんて言ってないよ?」


 そうですけど〜と言いながら、プク〜っと頬を膨らませるパーミットちゃん。

 可愛い花には死の匂いがある。

 なんてサスペンス。

 そんな娘が隣に。


 美人が隣にいてもゴンザレス、逃げたくなってきたわよ?

 そうこうするうちにベルノ男爵邸に到着。


「ごめんくださ〜い」

 貴族家は本来は先触れ……要するに遣いをやってアポイントを取って訪問しなくてはならない。


 だがコルランの風土か、バグ博士の立場がそういうフランクを許してもらえる立場なのか、両方な気もするが。


「流石、上り調子の男爵家ですね。

 伯爵家の私の家と同じぐらい大きな屋敷ですね」

「そうなんだ……」


 なかなかに大きな屋敷ではある。

 それでも訪れた男爵家の屋敷はカストロ公爵の屋敷より、ずっとずっと小さいのは……何故かしら?


 当たり前ね!

 あちらは公爵様だものね!

 そんな偉大な方のお部屋に詐欺師を寝泊まりさせてはいけませんことよ!

 メッ!


 ……カストロ公爵領の奴等、ほんとなんで詐欺師あの部屋に泊めさしたの?


 俺はぼ〜っとここ最近、自分に起こった不思議な出来事を思い浮かべる。

 凄い美女とお近付きになったりカストロ公爵の館で養われたり。


 これが世界最強No.0を騙った効果なのだろうか?

 頭をボリボリと掻く。

 隣でパーミットちゃんが嫌そうな顔で距離を取る。


 可愛いけど死の危険の漂う美女はご遠慮よ!

 ゴンザレス、脈が無ければ切り替え早いの!

 だって注ぎ込めるお金は無限じゃないの!


 今は娼館でレイナーちゃんという高級娼婦で、それなりに可愛いBランク娘に全給料を注ぎ込み中!


 流石、レイナーちゃん!

 お安い女じゃなくてよ!

 なかなかというか手強い!

 なんとしても店外デートに誘わねば!

 勝負はそれからだ!

 俺はやるぜ!


 そのために俺は金が要る。

 俺は意思が灯る目で屋敷を見た。


 程なく出て来た案内人の執事に連れられ、お部屋に。


 通された応接間には、年若いヘタレそうで陰気な感じの若い男とつぶらな瞳のデブチョビ髭のオッサン。


 お話を聞く。

 ふむふむ、格上の子爵令嬢にご執心と。

 しかし、ただでさえ格上の立場の相手に対して、交際を申し込む子息自身がヘタレで陰気。

 そこに付け加えジョニーと同様、薬物に頼ってどうこうって致命的だよね!!!


 ……どうしろと!?

 ああ、だから惚れ薬に頼ろうと!


 バグ博士! なんて厄介な頼み事を!


「お礼は如何様にでも弾ませて頂きますぞ!」

 つぶらな瞳のデブチョビ髭のオッサンが、裏声みたいに高い声でそう言った。


 こら! パーミットちゃん笑うな!

 君、何しに来たの!?

 邪魔しに来たの!?


 若いヘタレそうで陰気でクズ息子はボソボソと何か言ってるが聞こえない!

 声小さいよ!?

 せめて普通の声で話して!?


 こ、ここは魔界かぁぁああああ!!??

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