第48話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入るの裏話③

「ちょっと……何黙ってんの?

 何かあったってこと?」


 ふむ、ここは情報を勿体ぶるのが吉か。


「……ああ、だが未確定だ。

 まだ言える内容じゃないな」

「構わない不確定要素を判断するのは、こちらだ」


 クソ親父がそう言うのに合わせて、俺はため息を吐く。

 内心はニヤッとしながら。


「カストロ公爵は来ないかもしれない。

 事情は言えないがな」

「急な体調不良?

 それともエストリア国内で何かがあったか?」

 

 コルランに対しては今後のこともあるので、お詫びとして小娘なりがお土産持って訪問の必要があるだろうが……知らん。


 いや、俺にカストロ公爵領のことを気にかけてやる義理はないからね?


 今、あそこでは勇者と剣聖の担い手が修行中だ。

 余計なちょっかい掛けられると、魔王に世界が滅ぼされるかもしれねぇしなぁ。

 とりあえず。

「銀貨3枚」


 クソ親父は銀貨3枚を大人しく渡す。

 スラムの人間からしたら銀貨3枚は大金だ。

 今回、バックについたのは金払いの良い金持ちってことか。


「そもそもカストロ公爵領の連中はカストロ公爵の行先を把握していないようだ。

 ゆえにコルラン訪問の話が出たとしても、実際にカストロ公爵本人がやってくるかは不明ってわけだ。


 エストリア国が、というよりもカストロ公爵領が勝手に動いたということだろうな」


 未確定の情報でもクソ親父がごねずに、大人しく支払うのは情報というものの価値を分かっているからだ。

 ここでごねるようなら、以後、良い情報を得られることはないということをよく分かっているのだ。


「今度は逆に俺が聞きたいが、カストロ公爵がコルランに行くと言われて、エストリア国はコルランに対して何か動きがあったか?」


「銀貨1枚だ」

 俺はさっき貰った銀貨を1枚返す。

 憮然ぶぜんとしながらクソ親父は言う。


「外交官を送って来るようだ。

 まあ、当然だ。

 勝手な真似をするカストロ公爵への牽制だろうよ」


 そのぐらいの情報なら聞き込みすれば辿り着けなくもない情報だ。

 だから、俺の情報料の1/3なのだろう。


 だが、俺にとっては値千金という奴だ。

 これで形として、カストロ公爵が会談に不参加でも、エストリア国に配慮したためと言えるだろう。


 まあ、あくまでカストロ公爵アレス様の正体が、どこぞのチンケな詐欺師と仮定しての話だけどな。


 今度こそひょっこり本物が現れる可能性も無きにしも非ずってね。


「じゃあ、カストロ公爵は帝国の貴族という噂があるが本当か?」

「あー、事実だな」

 公式に商業連合国とエール共和国のそれぞれの代表と『帝国の使者』として会談しているんだ。

 公式に認められていると言って良い、か?


「いや、悪い。帝国の使者として活動こそしたが、正式に帝国貴族として叙爵じょしゃくされた訳ではない。


 それとカストロ公爵の目的についてだが、カストロ公爵は領内運営のための金が欲しいから領地を貸そうとしているようだ。

 それ以上の他意はない、だな」


 ほ〜、と感心したようにクソ親父。

「なるほどな……。

 内部事情だろうに、よく知ってるな。

 他に元レイド皇国の皇女を愛人にしているという噂があるが」

「黙秘で」


 俺は反射的にそう言ってしまった。


「黙秘?」

 2人は怪訝けげんな表情。


「あ、いや、うん、そんな噂もあるな」

「どうした? ゴンザレス?

 いつも変だが今のは特に変だぞ?」


 うるさいやい!

 いつも変なのは遺伝だ!


「あー、ならカストロ公爵が世界最強No.0だという噂が……」

 俺はクソ親父の言葉を遮り立ち上がる。


「誤解だ。

 何がなんでも誤解だ。

 絶対の絶対に誤解だ。

 話はここまでだ!

 いいな! 絶対の絶対にカストロ公爵はNo.0なんかじゃないからな!

 絶対だぞ!

 絶対誤解だからなぁぁああああ!!!!」


 呆然とする2人を残し、俺は店を飛び出し全力で駆け出した。


 絶対に絶対違うからなぁぁあああああ!!!!

 うわぁぁぁあああああん!!!!



 この日、特に世界に何かどうとかは一切ない。

 世界最強No.0もこの件には全く関係がない。


 しかし、これから暫く後の話。

 大国の王が誕生したある日、何処かの祝賀会において、世界最強の王とその両親が取っ組み合いの喧嘩をしたとか。

 真実は定かではない。


「ご、ご、ゴン!?

 これどういうことなの!?」

「お、お、お前、冗談だろ!?

 なんでお前が大国の王なんだ!?

 しかもエストリア国とゲシュタルト連邦王国!?」

「冗談じゃねぇから覚悟しやがれ!

 テメェらは大国の王の親だ! 諦めろ!」

「「諦められるかぁぁあああ!!!」」


 そんな会話があったなど……やはり定かではない。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はやっぱりこんな感じの男である。

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