第47話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入るの裏話②

「どうしたの?

 いきなり変な声出して丁寧に話して?」

 クソババアは俺の反応にいぶかしげな顔をする。


「げっほごっほ。いや、なんでもない。

 あー、うん、カストロ公爵ね、カストロ公爵。

 高いよ? 何を聞きたい?」


 この反応には2人とも驚いた顔をする。


「お前、そんなにカストロ公爵の情報掴んでんのか!?」

「うん、まあ、多分」


 このクソ親父の反応で俺は兼ねてより疑問だったことの答えが出た。

 簡単に言うとカストロ公爵本人の情報が手回っていないのだ。


 こう見えてこのクソ親父、スラム民でありながら諜報活動に関しては1級品。

 俺も幼い頃にそのイロハを徹底して教わった。


 ま、そこまでしてスラムから抜けることが叶わないのだから、世界の闇は深いというものだ。


 実際のところ俺がこのスラムを抜けて、詐欺師として放浪出来ているのは運が良かっただけだ。


 おそらくだが、俺とこの両親に血の繋がりがあることが知られていたら、今も俺はこのスラムから抜け出せていなかっただろう。


 少なくとも、俺とこいつらの繋がりをビジネス以上だと知る存在は居ない。


 ま、そんな過ぎた過去の裏事情はどうでもいいとして。


 遺憾ながら俺の師ともいうべき、このクソ親父がスラム外から情報を得られないという条件があるにしても情報が出回らなさすぎなのだ。


 俺自身が調べても、カストロ公爵アレスという名は出て来るが、その正体については謎。


 せいぜい世界ランクNo.8を従えたカストロ公爵家の遺児ということ、最近になって元レイド皇国皇女を愛人にしているとか。


 カストロ公爵アレスが『やらかしたこと』について噂はあるが、その姿形がハッキリしていない。


 巨体の偉丈夫だとか、黒髪青髪黄髪、はては虹色に輝くとか、それは人か?


 帝国側からも、カストロ公爵領側からも、意図的に流された情報と統制されて隠された情報が入り混じり、まるでその正体が出てこない。


 まあ、だからこそ余計にカストロ公爵アレスは世界最強ランクNo.0なんじゃないか、なんて言われるわけだが。


 その変幻自在のカストロ公爵アレス様。

 果たしてカストロ公爵領に仕える人たちもどこまでカストロ公爵様の正体をご存知なのやら。


 だからこそ、ついこの間まで、俺がカストロ公爵様の私室に放り込まれても問題がなかったわけだな、ハハハ……。


 いや、問題ありまくりだろ。

 どうなってんのよ!?


「何か変な反応ね?

 とりあえず、そうねぇ……。

 カストロ公爵はコルランに『本当は』何をしに来る気かしら?」


 何しに?

 え? カストロ公爵来るの?

 俺は首を傾げる。


「……ちょっと知らないじゃない」

 無論、知らん。


 俺がカストロ公爵領から逃げ出す前に、カストロ公爵様を連れて領地の借用についての交渉に行くとかなんとか言ってた気がするが、そんなのは知らん!


 本物に相談してからの話だ!

 そうに違いない!!


 ……なので、俺は逆に尋ねる。

「カストロ公爵、コルラン来るの?」


「……なんでお前が聞いてくるんだよ?

 来るから俺らが情報集めてるんだが?」

「何しに?」

 俺は目をぱちぱちさせながら尋ねる。


「それを俺らが聞いてるんだろうが」


 そりゃそうだ。


 呆れ果てて2人は俺と同じ安酒を注文する。

「マジで知らねぇのかよ?

 らしくねぇな、お前はクズだがクズなりに情報の売買で嘘を付くなんてヘマをしたことねぇだろうが」


 クズ言うな、あんたらに似たんだよ。

 詐欺師であれど情報の売買において、嘘を付くのは基本的にあり得ない。


 それを1度でもすればそいつの情報が信用されることは2度とないし、情報に関わる全ての者から省かれる。

 その存在も、命も。


 まあ、だからこそ最強の武器にもなり得る訳だが、信用と命を代償に使う武器なのでまず割に合わない。


「本当にカストロ公爵が来るって連絡が……あっ」


 ふと思い至る。

 他国への連絡なら事前に通達するのが、当然だ。


 そして、今回の場合、俺が逃げ出す時にカストロ公爵本人は居なかった。

 まさか居ない状態で今から行きますとは言えまい。


 そうかと言って、領地借用によりお金に都合をつけるのは緊急課題だ。

 一時的には公爵様のポケットマネーで賄われたらしいが、長期的にはテコ入れが必要なのだ。


 だが、ここでカストロ公爵領の外交力の弱さと小娘が留守というバッドタイミング。

 外交について、即断即決が出来る奴が居なかった。


 それで連絡が遅れ、まだコルランにカストロ公爵が確実に来るかのような噂だけが先行して流れていると。


 おそらくカストロ公爵家のヤツらは俺を影武者として、コルランの交渉の矢面に立たせようと考えたのかもしれない。


 大変遺憾ながら、帝国の使いとして同じことをした実績がある。

 カストロ公爵アレスの姿形が不明だからこそ出来る裏技だ。


 いつかバレた時に大問題になるだろうけど。

 その時はその時というつもりか、それとも俺を人身御供にして切り抜ける策でもあるのかもしれない。


 詐欺師の俺を利用しようと考えるとはなんて奴らだ。


 だが残念だったな!

 逃げ切ったぞ!!

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