第45話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入ってすぐの裏話③
「だって、アレス兄様。また僕を置いていくでしょ?」
置いていきます。
ロープが外されたら、即座に逃げます。
男の娘はまた目を狂気に見開き、にじり、にじり。
「だ、か、ら、
ダメェ〜、やめてー、ゴンザレスは男の娘からの証なんていらないのー!
その時、俺の脳裏に光る星が昇った。
彡☆な感じに。
「待て!!!
こんな話は聞いたことあるか?
男は30歳まで不姦を貫くと、魔法使いになれると」
男の娘は動きを止めた。
心にヒットするものがあったらしく、一度俯き上目遣いで俺を見てくる。
瑞々しい唇が美味しそうだ。
ヤベェ、むしゃぶりつきてぇ……。
「……僕の叔父様がもうじき魔法使いになってしまうと泣いてたことがあるの。
僕に『いっそ一晩をお願いしようかなぁ、はぁはぁ』と言ってたから、トレア姉様に鉄拳制裁されてた」
何やってんの?
ナリアちゃんの叔父様。
いや、この場合は男を自然と魅了してしまう男の娘を恐ろしいと言うべきか。
俺もギリギリのところで踏ん張っている。
縛られていなければナリアちゃんに飛びついていたかも知れないほど、ナリアちゃんの魅力は危険水域にある。
その前に逃げるけど。
「と、とにかく! それだ!
TS薬とは薬の力だけで身体を変化させる訳じゃない!
己の内なる魔力を他者と一度も交わらせずに、魔力を高めた者だけが変化出来るのだ。
身体を作り変えるんだ!
そう簡単に変えられるはずがない……、そうだろ?」
「……確かに、そんな簡単に身体を作り変えられるなら苦労はしないよね」
うむ、と頷く。
無論、嘘だ。
TS薬、つまり性転換薬はその存在自体が秘宝級だ。
おいそれと作れる物でもなければ手に入る物でもない。
魔力云々関係なく、身体を作り変える秘薬中の秘薬だ。
超大物貴族のケーリー侯爵が手に入れるのもかなり危ない橋を渡っているし、そんな存在を隠し切れなかったために、その情報を得た俺に使われてしまった訳だ。
この男の娘がTS薬を手に入れるのは、それほどに困難だ。
だが知らん!
俺は今、逃げ切れればそれで良いのだ!!
「……なら、もう手遅れだよ。僕はアレス様に奪われたから」
再度にじり寄る。
顔が近い。
「心配するな! キスはノーカンだ!!」
「え?」
「そもそもキスをしても交わるとは言わない! だから安心しろ」
誰だよ、コイツをこんなに純粋培養に育てたの。
元王女の小娘より純粋培養じゃねぇか。
俺は子供が出来る方法を説明した。
おしめと雌しべのことである!
せっかく見た目美少女なので詳しく説明してあげた。
どう聞いてもセクハラである!
男の娘は呆然とする。
「だから部族の皆もキスをした後、部屋に閉じこもってたんだ……」
そうだね、キスの後の行為で子供が出来ていたのだよ。
「だから無事にTS薬が手に入るその時まで耐えてくれ」
TS薬が手に入ったら、頂きます。
ご予約させて頂きます。
是非喜んで!
……こうして、俺は史上最大の危機を脱したのだ。
解放された宿の入り口の前にてナリアちゃんに伝える。
「エストリア国王都にローラという酒場のオーナーが居る。
そこで女としての手管を学ぶと良い。
……それと男として生きる気になったら、俺のことは気にすることはない。
幸せになるのだ」
「いいえ、いいえ!
僕は貴方を想い続けます。
ですから……」
男の娘は自らの両手を強く握りそう告げる。
俺はフッと笑って男の娘に背を向け片手を挙げる。
「さよならは言わない。
さらばだ」
さらばとさよならは同じ意味だが、指摘するなよ?
こうしてドキドキしながら、俺は男の娘の前から立ち去った。
追いかけてくるなよ!?
あーばよー!
エストリア王都だな?
ぜっったいにぃぃ、行かないからなぁぁあああ!!!
こうして俺は男の娘から逃げ出し、一路コルランを目指す。
この日、特に世界に何かどうとかは一切ない。
世界最強No.0もこの件には全く関係がない。
しかし……これから暫く後の話。
大国の王が誕生しその世界最強の王の妻たちの中に、長い茶色の髪に鳥の羽飾りを髪にさした年の功なら10代後半頃。
美しさと可愛いさの両方を兼ね備えた人物が居たという。
それが誰であるのか……今、この段階では誰も知る由がない。
当然、世界の叡智の塔にNo.0の名が刻まれることも、ない。
そんな未来も知ることもなく、とある詐欺師は行く。
世界最強No.0かもしれない、詐欺師ゴンザレス。
彼はやっぱりこんな感じの男である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます