第44話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入ってすぐの裏話②

 へい! ゴンザレス最大の危機をここに迎えております。


 何処かのお部屋のベッドで、両手両足をロープで縛られておパンツ一丁でございます。

 な、何が起きたんだ!?


 刺されたはずの背中は痛みはない。

 睡眠薬を塗ったナイフか何かで刺された……のか?


 ベッドの足元、浮かび上がる人影。

 も、もしや、これは……?


「アレス兄様……。僕を捨てたのですね?」

 そこに居たのは俺を刺した男の娘!


 ギィィイイイイヤァァアアアアアア!!!


 オドロオドロシイ雰囲気と共に、一歩一歩近づいて来る男の娘ナリア!


 現状を認めたくないが、認めねばなるまい!

 とりあえず誰か助けて!


 だが、殺風景なベッドだけの部屋には2人の男と男。

 られる!

 いや、すでにられたのか!?


 男の娘はじわりじわりと近づき、ついにはギシリとベッドに乗ってきた。


「……さあ、心ゆくまで交わりましょう」

 ヤられる!

 いや、すでにヤられたのか!?


 いや、まだだ!

 まだ手遅れじゃない、はず。

 俺は男の娘に説得を試みる。


「や、止めるんだ、ナリアちゃん。

 今ならまだ間に合う!」

 止めろ! 俺の貞操のために!!


 ギシリ。


 そんなベッドの音が恐怖を倍化させる。


「もう遅い、僕らの子供がもうじき出来るのです。

 それなのに僕の大事なモノを奪っておいて、アレス兄様は僕を捨てたのでしょう?」

 どうやっても子供は出来ないし、奪えないから逃げたのでごわすが?


 長い茶色の髪に、鳥の羽飾りを髪にさした年の頃なら10代後半。美しさと可愛いさの両方を兼ね備えた美少女……のような男の娘。


 瞬き一つせずに、大きく琥珀の綺麗な瞳を見開いて、俺に近づいて来る。


「う、奪ってないぞ!

 ナリアちゃんの勘違いだ!」


「奪ったではないですか!

 僕の唇を熱く! 激しく!!

 もうじき、僕とあなたとの子供が産まれるはずです。

 さあ、責任をお取り下さい」


 産まれません。

 キスで子供は産まれません。

 キスでなくても、男の娘のナリアちゃんとは子供は産まれません!


 や、止めろぉぉおおお!

 近づくなぁぁあああ!


 ただでさえ綺麗な顔だ、禁断の扉を開いてしまいそうになるんだぁぁあああ!!


 ゴンザレスはまだ普通の男の子でいたいのぉぉおおおお!!


 その時、俺の頭の中に光る星が輝いた。


「ナリアちゃん、誤解だ」

「……何が?」

 ナリアちゃんは止まらない。

 俺の足元から這い寄るように登って来る。


 見た目には完璧美少女にしか見えず、匂いもとても良い匂い。

 ゴンザレスの嗅覚もナリアちゃんを女の子と反応する。

 でも、男の娘なの!

 ナリアちゃんは男なの!


 如何に鋼鉄(?)の意志を持つ俺とて、我慢に我慢を重ねているこの時期に、S級に至りそうな見た目美少女に近寄られると、いっそ男の娘でも良いんじゃない?


 そんなふうに、ちっちゃな心の悪魔ゴンザレスがささやくの。


 ダメよ! ゴンザレス、諦めちゃダメ!

 メメちゃんやエルフ女、S級美女との夢の時間を思い出して!

 もう男の娘にしか反応しなくなったら切ないわよ!


 そうだ。

 諦めるな、ゴンザレス!

 現状を変えろ! 奇跡を起こすんだ!!


「誤解だ。ナリアちゃん。

 キスでは子供は出来ない」

「!!??」

 ナリアちゃんは知らなかったのか、ショックを受けた顔で動きを止める。


 詐欺師極意! その1。

 相手から冷静さを奪え。

 如何なる相手も冷静さを欠けばそこに勝機が生まれる。


 反対に冷静であれば、『あれ、これ詐欺じゃね?』と簡単に気付かれる。

 ゆえに! 畳みかけろ!


「馬鹿だなぁ、それで妊娠したのに捨てられたと誤解して焦って追いかけてきたのか?

 そんな訳ないだろ?」

 ナリアちゃんがハッとした顔で俺を見つめる。


 詐欺師極意! その2。

 相手に『自分が悪かったのかも?』と思わせろ。

 相手は自分が正しいと思うからこそ、強気になれる。

 反対に自分が正しくないと思えば、とことんまで弱くなる。


 ゆえに押せ! 押し切れ!!


「TS薬。

 その話、しただろ?

 あれを探してるんだ、ナリアちゃんのために」

 ハッと何かを思い出し、期待と不安が入り混じる表情で俺を見てくる。


 詐欺師極意!! その3!!!

 相手の思考の裏をつけぃいい!!


 もうここまで来れば、勝ったも同然!(負けることもあるので注意)

 相手の思考の裏を突くことで、この人はそこまで考えていたんだ!

 この人は私より凄い人だ!

 そんな人が騙すわけがない!

 そんなふうにそう思ってしまうのだ。


 フハハハ(゚∀゚)


「さ、ロープを外してくれるかい?」

 俺はナリアちゃんに優しくささやきかける。


 ナリアちゃんは俺をぽ〜っと見ながら、一言。


「嫌」


 何故だぁぁあああああああああ!!!!!

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