第43話【魔王編】ゴンザレス、コルランに入ってすぐの裏話①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0


 だが、とある詐欺師はかたる。

 元々そんなのいねぇよ、と。




 俺の名はアレス。

 詐欺師だ。


 カ、カストロ公爵アレス様じゃないよ?

 ゴンザレスでもないからね?


 俺はカストロ公爵領からコルランに入って、すぐの小さな村で合流したウェンブリーに隠れ里の棟梁たちの保護をお願いしている。


「じゃ、ウェンブリー頼んだよ?」


 魔獣から逃れるためとは言えダムを破壊したんだ、里は壊滅間違いなし。

 生きるには山を降りるしかない。


 棟梁たちならカストロ公爵領に行きさえすれば、働き口はいくらでもあるだろう。

 詐欺師の俺と違って。


 ちなみに俺があの里を訪れた理由は、隠れ里の一族が伝承していた秘伝書を頂戴するためである。


 それは現在、俺のふところだ。

 詐欺師というより怪盗のようです。

 美女も居れば盗んでやったでやんすがね!

 ゲヘヘ。


 でも、皆ガリガリだったからね。

 1番可愛い棟梁の娘もガリガリで、ちょっとゴンザレスの範囲外だったし。

 もう少しふっくらしなさい。


「はぁ、旦那。また旅に出るんですか?

 お嬢寂しがってましたよ?

 可哀想に。

 健気に旦那に認めてもらおうと一生懸命で……」


 お嬢……その正体は一体!?

 いや、本当に分かってないんだよ?


「お嬢って美人?」

「は!? 何言って……!?

 絶世の美女かと思いますが?」


 ウェンブリーに思いっきり変な顔された。

 しかし、そうか、ただの美女ではなく絶世の美女か。


 何を勘違いされたかは知らないが、是非!

 そう! 是非とも夜のお供に頂きたい!!


「それとな〜くバレないように、俺が会いたがってたと言ってくんない?

 俺、今からコルラン行くし。

 こそっと来れるなら、こそっと会いに来てって」


「へ!? いや、それこそ堂々と連れて行けば良いのでは?」

「何言ってんの!

 色々不味いの!

 良いね? 分かったね? 頼んだよ!

 よっ! 世界一の情報屋ウェンブリー!!」


 小娘イリス・ウラハラの情夫扱いの俺が、その『お嬢』に表立ってアプローチするのは、色々不味いのよ。


 そうしてウェンブリーと別れ、俺はコルランの首都へ向かう。


 なんでコルラン首都に?

 そう思う人もいるかも知れない。


 忘れてはいけない!

 今は魔王に脅かされて世界の危機なのである!


 よって、世界で1番安全だと思われる国。

 世界最強のNo.1様のおられる国で、キョウちゃんが魔王を倒す日まで待つのである。


 No.1に見つかると何故か襲って来るから、バレないようにしないといけないが。


 いつものように酒場で情報収集をして、酒を飲み、秘伝書も手に入り、怖〜いカストロ公爵領からも抜け出したし。


 解放された気分で夜の街を歩いていた。


 とんっ。


 軽い音がして、背中に熱い感覚が広がる。

 刺されたのだ。

 そう気付いて振り返ったその背後には。


 ……そう、予兆はあったはずだ。

 かつて、俺の尊敬する詐欺師シューバッハ氏は言った。

 真の詐欺師とは、相手に最期まで詐欺師だと気付かせないことである、と。


 そうして、彼は最期まで結婚詐欺で多くのお金と愛を巻き上げたが、本気になり過ぎた男の娘に、貴方を殺して僕も死ぬ!

 それで刺され……伝説となった。


 なお、その男の娘はその後、別の女性と結婚し幸せになったという。


 シューバッハ氏はこうも言っているのだ。

『どれほどの善行に見えようとも、詐欺とは何処まで言っても悪である』


 まったくもってその通りです。


 俺は油断していた。

 数々のS級美女との出会いに、間違いなく浮かれていたのだ。


 閉じゆく視界、そこに犯人の姿を見た。

 そう、そこに居たのは……。


「ナ、リア……ちゃん……」

「アレス兄様……、お慕いしております……」


 凄惨な笑みを浮かべた美少……年。

 男の娘ナリア君であった。


 くそっ……、ここまでか。

 こんなことならNo.8の小娘に手を出しておくんだった。

 俺が最期に思ったのは、そんなこと。

 そうして、俺は深い闇に落ちていった。


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