第42話【魔王編】ゴンザレス、連れていかれる(?)裏話②

「ねぇ〜、あんたなんで逃げようとしてんの?

 本ならここに取り寄せて貰えば良いんじゃないの?」


 俺がいそいそとソファーの後ろで脱出用の荷物をまとめていると、エルフ女に気付かれてしまった。


「や、やあ、エルフ女さん。

 今日もいい天気だなぁ?」

「雨よ?」


 雨だったようだ。


「雨だから訓練は休みなのか?」

「ううん?

 キョウがダウンしたから1日だけ休み」


 キョウちゃん、さっき廊下をスキップしながら元気に食堂に向かってたので、俺はそっと密告してあげた。


 鬼の形相で食堂の方へ走って行くエルフ女。

 上がるキョウちゃんの叫び声。


「ぎゃあー!! No.0!!

 この恨み忘れないからなぁぁあああ!!!

 この詐欺師ー!!

 ……すみませんすみません、違います、カストロ公爵様のことじゃありません、だから、全員でそんなに睨まないで、ほんと許して?」


 色々な意味で食堂の方に怖くて行けない……。


 へ、へぇ……、カストロ公爵様って慕われているのね?

 ゴンザレスもカストロ公爵様にご挨拶しなくちゃ。

 お世話になってるもの……。


 あら、やだ、公爵様が何処にいらっしゃるか分からないわ?

 神出鬼没なのね?

 正体不明の世界最強のNo.0だって噂まであるものね?

 ゴンザレスみたいなチンケな詐欺師が会えるお方じゃないわよね?


 仕方ない、仕方ない、ゴンザレスもう行かなくちゃ。


「アレス様〜、そんなに大きな荷物持ってどうしたんですか〜?

 ちょっとこの人事のことでご判断頂けないかと」


 あら? ルカちゃん。

 わたくしごときの意見なんて必要かしら?

 いいえ、必要でないわ?

 良きに計らえよ!


「この人なんですが……」

 美少女のいい匂いをさせながら近寄って来たので、ゴンザレス座り直す。


「ふむ、見てみようじゃないか。

 もっと近うよれい」

 さらに身を寄せ合う感じに接近してくれる。

 あら? 素直ね?

 エイブラハムがハンカチを目に当てて、何度も頷いてるのは何故かしら?


 貴方達のお姫様の隣に居るのは、詐欺師よ?

 公爵様じゃないから騙されては駄目よ?

 メッ!


 んで、資料を見る。

「あ〜、こいつケーリー侯爵からのスパイだ。

 一族の顔を見たことあるし、貴族の次男だがあまり表には出て来てないからな。

 有能なら使っても良いが……そうだな。

 ケーリー侯爵にお伺い立てておいてくれ。


 スパイを指摘するのではなく、アバレッジ男爵家の次男殿が我が領に士官を求めておられるが、ケーリー侯爵様のご判断に委ねたいと思う。

 我が領においては、あまり余裕がない故に働いてもらう場合、然るべき配置をさせて頂きたく、とね。


 ウェンブリーの情報は確認した?

 してないなら、怪しい人物は優先的に確認するようにね?」


「そこまで気付かれてはケーリー侯爵も以後、余計な真似はしないことでしょう。

 ……凄いです」

 ルカちゃんは素直に感心してくれた。

 うむ! 麿まろは良き気分じゃ。


 ヨシヨシと頭を撫でると小動物のように引っ付いてきた。

 ぐへへへ……、頂いて良いかな?


「お館様!

 スラハリ殿から至急でご判断頂きたい内容があるとのこと!

 お時間を頂戴出来れば!」

 エイブラハムがいつのまにか、ずずいと接近。

 顔近いよ?

 俺、その趣味ないから。


 あとやっぱり美人局つつもたせ


「仕方ありませんね!

 イリス様を娶った後に私も娶って下さいね!

 エイブラハム行くよ!」

「ははー! 今すぐ!

 では、お館様、これにて!」


 元気良く2人は駆けて行く。

 なお、全力で走っても余裕の広さ、カストロ公爵様のお屋敷。


 ……さて、逃げようか。


「ご準備お済みでしたか、お館様。

 流石です」

 何が流石なのかな?

 凄腕内政官スラハリ殿?

 僕ちん、これからバイバイの時間なの、逃して?


 もうこんな魔界恐ろしいの。

 ゴンザレス、本で見たことあるの。

 常識が逆転した世界のお話。

 ある日、目覚めると突然、公爵様になったりする話よ?


 1000年前にはそんな多種多様な物語も多く、俺はそんな様々な物語に憧れた。

 今となっては現存している物はかなり少数だが。


 ただし、現実と物語を同一視することはなく、物語と現実を同一視するのは3歳で卒業した。


 だから、わたくしが公爵様になれるはずがなくてよ?

 そうではないとスラムでは生き残れないからな。


 世界は止まってしまった。

 1000年前から。

 新たな文化は生まれず本は贅沢品となった。


 そんな風に世界を止めてしまった存在が、この世界には確かに存在する。

 それこそが、俺の『敵』だ。


 ……もっとも戦うことすら出来ないほど俺はちっぽけで。

 その『敵』は未だ何処に存在しているかも分からない。


 ただ一つ言えるのは、今、この瞬間すらも世界は止まったままということは、『敵』は世界に影響を及ぼせるほど巨大だということ。


 その相手をするのに巨大な権力に思えた公爵なんて地位さえもちっぽけで、吹けば飛ぶ存在だろう。


 生きるためにはそれを受け入れるべきなのだ。

 他の多くの普通の人のように。


 だけどさぁ〜、いいや、だからさ。

 逆に本好きのチンケな詐欺師はあらがう訳よ。


 どうせ、人を騙してしか生きられない俺だから。

 真っ当な世界に染まるってことは出来ない訳よ?


 だから、世界最強世界ランクNo.0もかたり切って見せようじゃないか。


 ま、それさえも所詮チンケな詐欺師。

 何処かでアラが出て力尽きるかもしれねぇけどよ。


 それでも生き抜いて見せるけどさ!!






 この数日後、コルラン国に旅立ったはずのカストロ公爵アレス、またの名を世界最強No.0は忽然こつぜんと皆の前から姿を消す。


 カストロ公爵領の者たちは誰もが知っている。

 彼には成すべきことがあることを。


 それが何かまでは誰も分からない。


 カストロ公爵領の者たちは、カストロ公爵アレスが伝説の世界最強No.0であることを知りながらもくし、ただ彼に忠誠を誓うのみ。

 この後、カストロ公爵領は更なる大きな飛躍を遂げる。


 だが、皆が知っている。

 それら全てはカストロ公爵アレスが仕掛けたこと。

 かの者が大いなるうねりとなり世界を救うだろうことは。


 その名は世界最強No.0。

 だが、世界の叡智の塔には未だNo.0という番号は、ない。


 なお、とある詐欺師はまたしても、自分のやらかしたことを気付いていなければ、本気で全員に慕われていることも認めない。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はそういう男である。

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