第41話【魔王編】ゴンザレス、連れていかれる(?)裏話①
俺を見るなり、元気よくキョウちゃんが両手を挙げて声を張り上げる。
「来たぞー! No.0!!」
元気ねぇ〜。
今日も今日とて本片手にソファーで
しかもキョウちゃんを囲むようにして。
結構、物々しいなぁ、セボンやエイブラハムまでいる。
キョウちゃん警戒されているのねぇ……。
キョウちゃん自身は気付いてなさそうだけど。
この娘意外とポンコツだよね?
警戒されるのは当然だろう。
戦場における勇者という言葉は、単に勇気ある者のことを指すが、魔王出現の時の勇者は簡単に言うと暗殺者だ。
如何に相手に気付かれずに大将首を取るか、それに懸かっている。
こちらからキョウちゃんを呼んだんだが、それでもエストリア国上層部が、勢力を増すカストロ公爵を暗殺しようとしてもおかしくはないのだ。
それが貴族社会、いや、権力世界である。
そもそも暗殺対象って俺になるの?
わたくし、カストロ公爵様ではございませんことよ?
本物はどこかしら?
早く出ておいでー、来ないとわたくしが暗殺されてしまいますわ〜?
なお、キョウちゃんの俺への気やすい声掛けが納得いかなかったらしく、案内して来たメイドと衛兵たちが一斉にギッとキョウちゃんの物言いに対し睨んで。
「ひっ!?」
キョウちゃんが怯えた表情。
この娘自体は性格に多少、難があっても純真な娘である。
単純だし。
睨まないでやって?
俺が異世界にでも飛ばされたみたいで怖いから。
貴方たちの忠誠、まさか、チンケな詐欺師のわたくしに向けられてませんこと?
……だとすれば貴方たち。
「勇者殿。公爵閣下への物言いとして、少々無礼ではございませんか?」
エイブラハムがハッキリと口に出して、そうキョウちゃんに釘を刺す。
俺は辺りをキョロキョロと見回す。
「あんたのことじゃないの?」
いつの間に来たのか、エルフ女が動揺する俺に声を掛ける。
ぶんぶんと首を横に振る。
わたくし、公爵様知らない、知らないのよ。
「と、とりあえず、もう良いんじゃないかな?
いいから下がって……?」
「しかし……」
スラハリがちろっとキョウちゃんを見る。
何が悪かったのか分かっていない怯えた表情をしたままのキョウちゃん。
可愛ええのぉう〜、いじめたくなるなぁ、ベッドで。
「ああ、この娘なら大丈夫。
こういう娘だから」
何か言いたげな面々だが、少し渋ってメイドたち以外立ち去る。
立ち去り際にスラハリがお館様に何かあったら声を上げ身体で止めるようにと告げ、覚悟を決めた顔でメイド全員が頷いている。
ねぇ? ナニコレ?
ゴンザレス怖いんだけど、このパラレルワールド。
目が覚めるとチンケな詐欺師は、公爵閣下!?
勘違いされてしまい処刑される物語!!
……そんなの嫌よ?
俺がこの現状に恐怖していると何かに思い至ってエルフ女は口を開く。
「ねえ? アレス、あんたもしかして……」
「さ! キョウちゃん良く来たね!
今日からこのエルフ女がキョウちゃんのお師匠だ!!」
俺は咄嗟にエルフ女の言葉を
言わせん!!
認めん! 認めんぞ!
お、俺は詐欺師だ。
詐欺師は公爵なんてなれないからな!?
「初めまして、勇者。
私は剣聖の担い手。
見ての通りのエルフ、それと勇者の師匠になる役目を負ってるわ。
よろしくね?」
エルフ女は慈愛の笑みを浮かべキョウちゃんに語りかける。
ええのぉ〜、ゴンザレスにも慈愛の笑みを下さい。
チンケな詐欺師を見るような目じゃなくて。
……はい、妥当ですね。
「ほえー、エルフだー、美人だ〜。
『たける』に言ったら喜ぶだろうなぁ。
帰ったら教えよ」
きゅぴーん。
ほうほう、たける、とな?
響き的に男だな?
しかしまあ、キョウちゃん帰れるつもりだったんだね……。
俺は思わずホロリ……。
キョウ・クジョウは偶然、迷い込んだ移転者であるというのがエストリア国の公式発表だが、事実は違う。
異世界召喚は幾つかの条件が必要だが、それは偶発的に起こり得る可能性は不可能と言い切って良いほどに低い。
エストリア国はそれを可能とする条件が揃っているだけではなく、その秘術を得る機会があった。
かつて勇者召喚の禁忌の秘術はレイド皇国に秘匿されていた。
そのレイド皇国を滅ぼしたのは、他ならぬエストリア国。
一説には勇者召喚と世界の叡智の塔に関わる秘術を求め、レイド皇国を滅ぼしたとも噂されている。
ここまでの条件がありながら、エストリア国に『偶然』勇者が転移してくるなど、信じる方が馬鹿馬鹿しい。
エストリア国は当然のように帰すつもりなんてなかっただろうな。
だが、前回の俺とケーリー侯爵とのやりとりが効いたのか、キョウちゃんへのハニートラップ要員が外されている。
それはつまり、居ないはずのNo.0への配慮もしくはカストロ公爵アレスへの配慮の証とも言える。
どちらにしても詐欺師の俺が会談している以上、詐欺でしかないんだが。
キョウちゃんが無事、魔王を倒してエストリア国が帰してくれるかは五分五分だろうな。
結局、最後にモノを言うのは権力を含めた力ということになる。
彼女が魔王討伐までに他の権力者の庇護を受けれる関係になるか、それに懸かっているだろう。
残念だが、これ以上は俺が出来ることなどない。
俺がキョウちゃんの境遇にいくら同情したところで、チンケな詐欺師に出来ることなどたかがしれているわけで。
ここまでのお膳立てが出来たことが奇跡なのである。
「らしくなく浮かない顔ね?」
エルフ女が俺の顔を覗き込む。
うるさいな、近付くとキスするぞ!
エルフ女の言葉に乗っかるようにキョウちゃんも口を開く。
「そうだぞ! No.0!
世界最強なのに悩むことなんてないだろうに!」
キョウちゃんは世界最強に何を求めてるんだ?
「俺はNo.0じゃないぞ〜。そんなこと言うとキスするぞ!」
「じょ、冗談じゃない!
男となんて気持ち悪くてそんなこと出来るか!」
俺を避けてエルフ女の後ろに隠れる。
簡単にエルフ女に懐いたな!?
「『たける』とやらもか?」
帰りたいならあちらとの繋がりが必要である。
それは場所であったり、人であったり、大切な何かだ。
果たして、キョウちゃんにはそれがあるかな?
俺が気にすることじゃないけどな。
「なんで『たける』のことを知ってるんだ!
『たける』は親友だから別枠だ!」
うん? 別枠ってキス出来るってことか?
まあ、どうでもいいか。
「自分で『たける』って呟いてたじゃ〜ん」
俺はニヤニヤしながらキョウちゃんを揶揄う。
可愛い娘を揶揄うって楽しいよね!
ぎゃあぎゃあ、
結果、キョウちゃんはエルフ女にさらに懐いた。
その後にキョウちゃんは、乗り越えた勇者がいないという『究極最強勇者トレーニングコース』という地獄をエルフ女に見せられ、断末魔の叫びを上げることになる。
俺は震えながら、エルフ女を詐欺に掛けて究極最強勇者トレーニングコースを避けた自分を心より褒めた。
良かった!
俺が勇者じゃなくて、本当に良かった!!
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