第40話【魔王編】ゴンザレス領地(?)に帰る裏話④

 何も言ってこないので、調子乗ってさらに本で得た知識を披露してしまう俺。


「あと前回の会議で話した未亡人への仕事の斡旋の件だが……。


 適正に分けて振り分けるのは当然として、配置はセリーヌが総責任者でメイドたちにもリーダーとして手伝わせろ。

 屋敷に上がったということは、優秀なんだろ?


 今後、セリーヌを監督者としてメイドたちにリーダーとしての経験を積ませるのは、今後大きな意味を持つ。

 有能な奴は過去がどうであれ、結果を出せば道が拓けることを示せるからな。

 領内にも話をよく広めろ。


 あと仕事の一つとして、未亡人たちとメイドたちに学校での教師の助手につけろ。

 そうすれば教育と仕事の両方が解決する。

 識字率は後の発展に大きく繋がる。

 怠るなよ?」


 俺も教えてもらえるなら女教師が良い。

 絶対、どこかでイタズラしてしまいそうだが。


 スラハリはやっぱり俺の言葉に素直に頷く。

「御意」


 あら? これも素直ね?

 わたくし現実から目を逸らしたいわ?


 詐欺って、こんなに簡単に引っ掛かるものだったかしら?

 何度も言いますけれど、わたくしはカストロ公爵様じゃないですわよ?

 そう心の中で唱えてるの。

 信じる者はスクワレルかしら?


「あと気になってたんだが、ここのカストロ公爵の個人資産なんだが……。


 予算全体の1/5を占めてる割に毎回使わずに積み重なってエライ金額なってるけど。

 使わないの?

 君らの給料問題一気に解決すると思うんだけど……」


 会議でスラハリ以下、カストロ公爵領の面々が薄給で仕事をしているという大問題だ。


 金も無しに働いてるんじゃねぇえ!

 薄給は人の心から余裕を奪い、時間を奪い、全てを奪う。

 放置していればカストロ公爵領の崩壊はすぐだろう。


 反対にお金があれば、本を買い、本を売り、本を作る余裕が出来る。

 さらに詐欺師の俺に騙されて金を注ぎ込んでくれる奴も増える。

 良いことづくめだ。


「そ、それは、カストロ公爵様の個人資産になりますので……」

「え?

 でも、最初っから一回も使ってないよ?

 公爵知らないんじゃない?」


 大体、薄給しかくれない奴にお金を残してやる必要なくない?

 そういう奴は滅びていいよ?


「は、はぁ……?

 間違いなくご存知ですが……?」


 スラハリはとてもとても戸惑った表情で俺を見る。

 俺はあえて、それを見ないふり。


「そう?

 一回も使ってないし残してても仕方ないから、カストロ公爵に事情話して全部使ったら?

 お金無いと不味いでしょ?」

「よ、よろしいので……?」


 信じられないモノを見るように、言わないで?

 カストロ公爵様に言って?


 詐欺師ゴンザレス、詐欺にかけられてる気がして内心涙目よ?

 貴方たちが忠誠を使うのは『カストロ公爵様』よ?


 わたくしじゃないわよ?


 エストリア国に限らず多くの国は、表向きは忠誠という耳障りの良い言葉で人々を酷使するが、人はやはりそれでは動かないのよ。


 だから、わたくしタダ働きするな!

 給料を貰えと言ったのよ?


 ……でもね、そもそも人事ひとごとだからそう言ったのよ?


「……良いんじゃない?」

 俺の金じゃねぇし……。


 そう言うと感極まったように、スラハリがまた男泣き。


「わ、私めは、真に使えるべき主人にぃぃいいいいいい!!!!!!」


 も、もういいから出てって?

 カストロ公爵様のところに行って許可貰ってきたら?


 その後、カストロ公爵の個人資産を大放出することで、カストロ公爵領内全員の給料が適切に支払われた。


 カストロ公爵様に一言お礼を言いたいという人たちが、に殺到した。


 だが俺は部屋に閉じこもり、さらにベッドにこもり、断固面会を拒否した。


「俺じゃない、俺じゃない!

 絶対に俺じゃないぃぃいいい!!!


 これじゃあ、まるで俺が『自分の』私財叩しざいはたいてーーー!!

 皆の給料をまかなったみたいじゃないかぁぁあああああああ!!!!!!!」


「どったの? アレス〜?

 ご飯の時間だよ? 行くよー?」

 そう言いながらエルフ女が俺をするが、この日ばかりは無視して部屋に篭り続けた。


 絶対に俺はカストロ公爵じゃない!!!

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