第38話【魔王編】ゴンザレス領地(?)に帰る裏話②

 俺が本片手に何故かエルフ女と一緒にふかふかソファーの上で、不可思議ワールドに囚われていると。


「お館様ー、ご相談があります」

 書類を腕に抱えて、ルカちゃんが近寄って来た。

「あ、奥方様。こんにちは」

 エルフ女にちょこんと頭を下げる。


「奥方じゃないわよ?

 この男の奥方なんて大変よ〜?

 ルカ、頑張りなさい?」

「はい! 頑張ります!」


 エルフ女は慈愛の満ちた妖精のような微笑みで、ルカちゃんの頭を撫でる。

 そうしていると、ふわっと包み込むようなお姉ちゃんエルフっぽいね。


 それからエルフ女は手をふりふりしながら、その場を立ち去る。

 ……俺を捕まえに来ただけなのね?


 んで、ルカちゃん?

 君、詐欺師の奥方になりたいの?

 ウェルカムだけど、それって人としてどうなの?


 ルカちゃんは以前、帝国で奴隷になった時に一緒にいたあの美少女だったらしい。

 な、なんだってー!?

 分かってたよ?


 でも、俺のお陰で奴隷から解放されたらしいよ?

 へ〜……、なんで?


 詳しく聞きたいような聞きたくないような……要するに、俺が騙したことがバレるから聞けないの。


 ルカちゃんは可愛らしくキリッとした顔で、俺に向き直り。

「お館様! ご判断願います」

 うん、可愛いね。

 飢えてたら我慢出来なくなってベッドに連れ込むぐらいに可愛い。


「うむ」

 わざとらしくそう言って書類を受け取る。


 だけど俺さあ〜、どういう立場でこの書類を受け取るの?


 ア、アドバイザーかな?

 カストロ公爵領に到着してすぐの会議でも色々アイデア出したしね、うん。


 ……カ、カストロ公爵アレスとかいう偉い人は、俺は知らないよ?

 うん、知らない。

 会ったことないし。


 書類の内容は……他の土地から流れてくる人の配置分けについてか。


 以前は奴隷や難民であっても、出来立てで信用のないカストロ公爵領なんて場所に来る人はそこまでは多くなかった。


 どちらかと言うと、縁故えんこによる紹介が主流だったから、縁故による紹介者がそのまま取りまとめする人として、人を配置分けしていた。


 自分たちの派閥を作りたければ作ればいい、その代わり紹介した者は責任をしっかり持つようにと。


 この領の人数が少ない内はそれでも良かった。


 だが、現在この領は国1番と言われるほど豊かになりつつある。

 つまり放っておいても人が来る。


 そのやって来る人を無計画に受け入れては簡単にスラムが出来る。

 仕事があってもそれが振り分けられないからだ。


 内政官のスラハリたちは自分たちの所属する部下は選べても、同格の地位の者を任命する権限はない。


 俺からしたら勝手に誰かやったら〜?

 そんなふうに思わなくもないが。


 総責任者の小娘は外出中でまだ帰って来ていない。


 責任者が何してるの?

 そんなに長いこと留守にしちゃダメでしょ!


 ……小娘が領主『代行』という地位とか、俺は知らないし、知ったこっちゃないよ!?

 関係ないからね!!


 とにかく早急に人の配置分けが得意な人事権を持った人物が必要、と。


「ルカちゃんで良くない?」

「え!? 私ですか!?」

 うん、サポートは必要だけど。


 この娘、意外に論理的思考や情に流されずに、冷徹な判断も出来る面を持つ。


 それは武に生き、忠義に生き、志に生きる元ユーロ王国の意思が彼女の中に息づいている証拠だ。


 エイブラハムたちという直属の部下も有能だし、この機会に立場を引き上げた方が良いと『アドバイス』した。


 それを伝えてあげると、ルカちゃんは感極まり抱きついて来た。

 とっても可愛くて柔らかい。

 うん、食べていい?


 しかし、そう言ってルカちゃんは俺が両腕でホールドする前に、サッと離れて笑顔で手を振り駆け出す。


「ありがとうございます!

 お館様!」


 ああ、うん。

 それと俺……お館様じゃないからね?


 そしてその日から、俺の提案は即実行された。


 ハハハ……(゚∀゚)

 カ、カストロ公爵様のご意見か、それかイリス様のご意見聞かなくていいの?

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