第37話【魔王編】ゴンザレス領地(?)に帰る裏話①

 ……そして楽しい旅は続いた。


 だが運命は俺を逃してくれなかった!!


 エール共和国で衛兵に捕まりそうになり逃げた。

 メメちゃんと一緒に国家元首を詐欺してしまったから仕方ない!


 なぜか侯爵に捕まり土地を押し付けられた。

 何故だ!?


 豪華な場所で何故かカストロ公爵領に連れて来られた。

 なんでだァァァアアアア!?


 そして時間は飛び現在、カストロ公爵アレス『様』の『私室』にて。


「ちょっとアレス。

 あんた強くなってみようとかないの?」

「ないなぁ〜」

 ベッドの隣で身体を起こしたエルフ女が、ぐったり寝そべったままの俺にそう言ってくる。


 エール共和国についたが、キョウちゃんとは入れ違い、その後、エストリアに戻ってケーリー侯爵領を通ったら、『何故か』カストロ公爵領が加増され、訳が分からないまま、俺は『何故か』カストロ公爵領に移送され、俺は『何故か』カストロ公爵アレスの私室とやらでエルフ女と一緒である。


 なあ……?

 カストロ公爵アレスの私室って……何?


 公爵様の私室になんでチンケな詐欺師と野良エルフ放り込んでんの?

 頭おかしいんじゃないの!?


 と、とにかく!

 キョウちゃんにこのエルフ女は引き渡して、俺は元の詐欺師生活に見事返り咲く。

 エルフ女は美女だから、こうした生活も惜しくはあるが命あっての物種だ。


 正直言って、俺はこの現状に理解がまるで追いついていない!!!


 幸い今は小娘、イリス・ウラハラが留守だ。

 差し詰め俺はイリス・ウラハラの情夫のくせに、宿主の居ない間に浮気相手(エルフ女)を連れ込んで、好き勝手しているクズ男ってところか?


 クズ男なのは認める。

 だが言い訳させてくれ!

 俺が来たくてこの領地に来た訳でもない。


 これ、イリス・ウラハラが帰って来る前に逃げないとなんかヤバそう。

 冤罪で修羅場とかに巻き込まれそう。


 でも何も言わずに逃げようとしたらエルフ女は付いてきそうだ。

 どうしよう?


 ……なあ、エルフ女。

 お前、自分の使命を見失ってない?

 詐欺師について来るのはお前の使命じゃないのよ?


「ちょっと?

 あんたまた逃げようとか考えてない?

 誰の屋敷かも分かんない場所で、いつまでも1人で待つとか嫌だし」

 とか言う。

 そりゃごもっとも。

 キョウちゃん早く来てー!?


 このエルフ女、その種族特性でもあるのか非常に勘が鋭いのだ。


 俺がソロ〜リソロリと屋敷から抜け出そうとすると。


「はーい、逃げださないよ〜」

 首根っこ掴まれ廊下にあるソファーに放り投げられる。


 そして、慣れた感じに屋敷のメイドに声を掛ける。

「コイツに何か本持って来て〜?」


 そんな日々が繰り返され、メイドも慣れたのかぺこりとだけ、頭を下げて本を取りに行ってくれる。


 そして本を読みながら、ソファーでゴロゴロする日々。

 な、なんて優雅な日々だ……。


 このままでは心の底から詐欺師ではなくなってしまう……。

 良いことじゃね?


「な、なぁ、エルフ女ぁ〜?

 お前は気になんない?

 なんで俺ら、こんな至れり尽くせりの待遇なんだ?

 俺……詐欺師よ?

 この後、何故か俺たち2人だけで長〜いテーブルで晩餐ばんさんとかあるんだよ?

 なんでだよ?」


 もはや俺は身体が勝手にふかふかソファーの住人と化して逃げる事は出来ない。


 ああ……俺は何故、詐欺師をしていたんだろう……?

 生活のためだったはずだ。

 生きるには金がいるのだ。


 ……あれ?

 今、この屋敷でタダ飯食わせてもらってるけど?

 詐欺師……する必要、ない?


 いやぁ〜、まっさかぁー。

 そんな美味い話、詐欺しかないよ?

 皆、騙されちゃダメだぞ?


 何もしてないのに、とんでもない才能をペイっと楽してもらうのは詐欺以外存在しないからね!


 ああ……、世間は世知辛い。


「私に分かる訳ないでしょ?

 この地方の風習じゃないの?」


「ふ、風習?

 こんな風習あったっけ?」


 エルフ女に縋り付くが、素気無すげなく振り払われる。


 冷たい! エルフ女冷たい!


 詐欺が横行しているとかなら分かる。

 元は荒れた土地だったカストロ公爵領。

 石を投げれば盗賊に当たるぐらいに荒れた世界だ。


 イイ目を見させて、美味しく頂こうなんてそうはいかねぇぞ!


 ……カストロ公爵領は極端に山賊盗賊が少ないけど。

 真面目に働くなら仕事はいくらでもあるし、山賊盗賊への取り締まりは徹底している。


 何故なら俺が街道を安全に旅するために山賊盗賊は迷惑だし、いつか詐欺師以外の仕事をする時に紹介してもらうためだ。


 ととと、遠い記憶でそんなことを提案したことがあったような……気のせいだ!

 チンケな詐欺師の戯言よ!

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