第36話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話⑧
「わぁー! エ、エルフ女!
こっちこっち!!」
俺が魔獣に追いかけられ、飛び回るように次から次へと魔獣を薙ぎ倒していくエルフ女に助けを求める。
「わぁーっかってるって!!」
あ、どもアレスです。
詐欺師です。
昔はゴンザレスとも呼ばれましたが気のせいです。
今は何故か成り行きで美女のエルフ女を拾って、勇者(美少女)にお届けするところです。
エルフ女が美女じゃなければ、捨てます。
今、どうしてるって?
魔獣に囲まれてるんだよ!
エール共和国へ移動中の商人のキャラバンに同行させてもらった。
無論、詐欺で。
我々は旅の薬師の夫婦です。
まあ、こんなのは自称だから完全に嘘とも言えないけど。
手持ちの薬草こそないが薬草の調合ぐらいなら出来る。
旅医者の代わりということで食事付きで同行を許された。
本で幾つか得た医術と薬の知識を
熱が出たら水分と栄養を摂って寝るのが、大事だよってレベルだけど。
このレベルでも、地方によっては歪んで伝えられたりしている。
熱を冷ますために、冷水を被り、タオルで擦り、熱いだけの湯を飲んで祈る、とか。
冗談抜きでそんなのも多い。
本だ! 貴様ら、本を読め!
そして、俺に本を読ませろ。
結局、医術も秘匿されてたり、一子相伝だったり弟子オンリーへの秘伝だったりするからだ。
だから田舎の方では治療と称してエロいことも可能だ。
バレたら、村総出で追われるけど。
あれはそう、俺が詐欺師として一皮剥けようかという時期のこと……。
おっと、現実逃避している場合じゃない。
エルフ女のカバーが入ったところで、俺はその場で全員に指示を出す。
「サイドから追い込め!
その魔獣は横からの反応が鈍い!
エルフ女、魔獣があっちの冒険者に視線を向けた瞬間は無防備になる!
狙え!!」
「あいよ!」
護衛の冒険者は6人。
3:3の2組の冒険者だ。
内、女性は1人、姐さん的なカラッとした切符の良い女だ。
当然で当然の如く最大戦力はエルフ女だ。
そして当然で当然の如く俺は逃げようとした。
しかしエルフ女が素早く駆け出して、苦戦する冒険者たちのところに突っ込んだ。
魔獣を一閃して見せたが、いかんせん数が多い。
囲まれ出してたから仕方なく、本当に仕方なく魔獣の特性を確認して、それぞれの冒険者に指示を出した。
初めは俺の指示に戸惑っていた冒険者たちだったが、エルフ女が真っ先にしかも迷いなくそれに従って効果をあげるので、次第に冒険者たちもその指示に従う。
後は1番でっかい魔獣をハメて、じわりじわり削り倒すだけ……って、隙を見せた魔獣をエルフ女が一閃しやがった。
すげぇな。
「……すげぇ」
俺の内心とリンクしたように誰かが、ポツリと呟く。
そうだな、おっと感心している場合じゃない。
他の人が安心する間に商談商談。
多少の危機感がある間の方がこういう成果はアピールしやすい。
特にエルフ女の活躍は目を見張るものがあるので尚更だ。
流石に戦闘中に交渉は出来なかったけどね。
怯えて成り行きを眺めていた商人たちに、魔獣の素材やら危険手当ての増額やらを交渉する。
しれっと護衛冒険者の仲間かのフリして。
個別での交渉より恨みを買いづらいし、交渉し易いからな。
それから夕方にはエール共和国の端の街に到着。
でっかい魔獣が運び込まれ、早速、素材が売り払われる。
エール共和国は冒険者の国だけあって、この手の魔獣素材の扱いについては優れている。
当然、中々の魔獣だということで豪遊できる程度の金が手に入る。
酒場は今回の護衛の冒険者を中心に大盛り上がり。
別のグループの冒険者たちも混ざり大宴会が始まる。
「いやぁ!
最初は何処かの詐欺師が紛れ込んだのか警戒してたんだけど、まさかこんな名指揮官だったとは!
疑って悪かったよ」
姐御肌の女性冒険者レミに抱き抱えられて、俺も満更でもなく鼻を伸ばす。
でへへ、もっと褒めて良いのよ?
そして、詐欺師と気付いていたのね?
見事な眼力でごわす!
ゴンザレスピンチだった……。
酔っ払った別の男冒険者がエルフ女を褒めるフリして、その白魚の手を触ろうとしたのでピシャリとどつかれて一撃で気絶した。
それも酔っ払いどもには笑いのネタ。
姐御冒険者レミとエルフ女を伴い、俺はエールの杯を手にいくつも持ち笑いながら、別グループであるその男どもの冒険者仲間に近づき、その肩を叩きエールを飲ませる。
「おいおい、しょうがねぇなぁ〜!
罰金だぞ罰金!
ここの支払い任せたぞ!
なあ、皆!!
この勇気ある冒険者たちに乾杯だ!!」
調子良くエールを掲げると、周りに居た酔っ払いが呼応する。
倒れた冒険者の仲間も調子乗りの冒険者も気も大きくなり、しょうがねぇな!
任せろとエールを掲げる。
女冒険者レミもノリ良く、奢りありがとねとエールを掲げる。
俺はそうしてさらに追加で、その冒険者どもにエールを飲ませ、冒険者どもがさらにガハハと笑う中、スッとカウンターまで移動。
「大将。持ち帰りでツマミと酒。
日持ちする食材ときっつーい酒、ビンある?
そう、それ。火酒?
オーケーオーケー、そういうの欲しかった。
あ、支払い全部あいつらね、よろしく〜」
明らかにその場で飲むわけではない量の酒やツマミを注文。
店の大将も金の払いが分かっていれば問題ないので、ささっと請求分に追加のメモをしている。
そう言って俺は目立たないように店の裏に周り、裏口から腕一杯の荷物を受け取りさっさと宿へ。
いつのまにかエルフ女も一緒に。
「良いのかよ?
一緒に盛り上がらなくて」
「引き際なんでしょ?
あんた、そういう嗅覚凄そうだもの」
最後まで残って楽しんだ奴は、豪遊のツケを払う宿命だ。
ま、その刹那的な生き方が冒険者というものだ。
俺には合わんが。
「じゃあ、半分持て。部屋で2次会だ」
「あいよ〜」
その後は2人で酒飲んで、記憶が飛ぶ。
気付いたら持ち帰った酒は全て空で、2人していつも通り同じベッドで寝転がっていた。
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