第35話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話⑦

「お帰り〜」

 エルフ女は俺が帰ると同時に目覚めたらしい。


 扉が開いてたから不用心な……と言いたいが、侵入者が居たらそいつは確実に命が無いだろう。


 このランクの強者は寝てても反射で動けるらしい。

 野宿の時、寝ていたエルフ女が寝たままで近付いた魔獣を一瞬で消しとばしていたから。


 恐ろしい……夜這いする時はちゃんと起こして夜這いしよう。


 それはともかく……。


「用は済んだから次行くぞ」

「次〜、どこへ〜?」

 エルフ女、お前は何しに密林から出て来たと思ってんだ?


 ……もう、コイツ置いていこうかなぁと思ったりしたが、心の中の小さな小さなゴンザレスが言うのである。


 ダメよ! ゴンザレス!!

 このままでは世界が滅びて、本に囲まれていつまでも暮らす夢が途絶えてしまうわ!


 あとコイツS級美女だし、勿体ない。


 あ〜……金持ちの大貴族とか良いよなぁ〜。

 図書館並みの蔵書とか手に入るんだろうなぁ〜。


 カストロ公爵とか本当になれたら……いやいや、権謀術数の魑魅魍魎ちみもうりょうの住まう貴族世界なんて冗談じゃない。


 大体、よっぽどの金持ち貴族じゃないと本も美女も手に入る訳がない。

 噂に聞くカストロ公爵とやらもそこまで金持ちではないはずだ。

 俺が行った時はコルランとの境目だから何もない土地だったしなぁ〜。


 ……まあ、ただのスラム上がりのチンケな詐欺師がそもそも、そんなものになれる訳もないので夢見るだけ無駄である。


 むしろ、今、美女のエルフ女と一緒に旅していられるだけ幸運を感謝すべきである!


 ……何故だろう?

 あまり感謝したくない気がするのは。


 荷物を纏めて宿を出るとローラが居た。


「世話になったな」

 俺は片手を上げ挨拶をして、そのまま歩き出す。


 後ろからローラが呼びかける。

「また、会えるかしら?」


 珍しいな?

 ……というより初めてだな、そんなこと聞かれるの。


 俺は背中越しに振り返る。

「またな。S級美女」


 そうして俺は再び歩き出す、振り返ることなく。


「チンケな詐欺師のくせに格好つけ過ぎじゃない?」

「い、良いんだよ!

 滅多にない、というか生まれて初めての憧れのシチュエーションなんだ!

 余韻よいんに浸らせろよ!」

「似合わないよ」


 うっせー!!

 後でベッドで復讐してやるからなぁ!!





 この日、世界最強No.0がエストリア国の王都に現れたかどうか、それは分からない。


 ただ、『元』娼婦の1人の女が王都である人物を見送った。

 その女は想像する。


 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0


 それが彼のことかもしれない、と。

 本人は決して認めることはないだろうけれど。


 何故なら彼女もまた絶望の中、彼に救われた1人だったから。


 彼女はやがて、エストリア国の内乱の際にカストロ公爵アレスが仕掛けた噂を広める大きな役割を担うことになるのだが、それはまだ先の話。


 この時、彼女が書かせたカストロ公爵アレスのサイン入りの居住権承認書は、苦界つまり、望まないまま娼館に落ち苦しむ多くの娼婦を救うことになる。


 その地への居住権承認書、それはまさに地獄からの救いの手に他ならない。


 娼婦たちが人間らしく生きられる理想の地。

 それこそが最近生まれたばかりのカストロ公爵領なのだから。


 なお、とある詐欺師はまたしても、自分のやらかしたことにも気付いていない上に。


 とある美女の元娼婦が既に娼婦ではなく、当然、情報の対価を身体で支払ったりもしないことも。

 その彼女に本気で惚れられていることにも。

 やっぱり気付いていなかった。


 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はそういう男である。

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