第34話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話⑥
通りをいくつか曲がり、1階に酒場が併設された2階の部屋に通される。
1階の酒場は例の合言葉を告げたバー形式の酒場だ。
彼女はこの酒場のオーナーでもある。
あまり店には出て来ないが。
1階のバーカウンターの酒場は落ち着いた雰囲気で、暴れ回るような酔っ払いは立ち入れない。
部屋にはローラの沢山の私物や服が並べてある。
「良いのかよ?」
プライベートの空間のはずだ。
余所者を入れて良い場所ではない。
それが詐欺師であるなら、尚更だ。
「……良いのよ、貴方は恩人だからね」
ガシガシとまとめていた髪を解きながら、さらに見たことのない油断した姿。
ここまでオープンにされると、詐欺師の俺の方が気を遣ってしまいそうになる。
……遣わないけど。
ローラはベッドに座り、俺は対面の椅子に座る。
美女を目の前にして、多少思うところはあるが、今回は『借り』の返却なので浮ついた気分は無しだ。
「それで? あの女は貴方の……何?」
対面でこれ見よがしに足を組み、疲れたようにため息を吐きながらローラは尋ねる。
聞かれ方が彼氏の浮気を問い詰めるみたいだな、と内心思ったのは秘密だ。
口に出せば、美女相手におこがましいと始末されてしまう。
「何でも無いな。
強いて言うなら……俺は運び屋ってところだ」
「これは対価よ?」
嘘付いたら許さねぇぞ、あぁ〜ん?
そんな声が聞こえて来そうだ。
ローラの睨みも場数をこなしているので、中々の威圧だが世界最強No.1ほどでは無い。
むしろ美女だからゴンザレス、別の意味でぞわぞわするかも。
情報を商品として扱う際、嘘や誤魔化しをしれはいけない。
それは詐欺師の俺ですら守るべき最低限だ。
威圧などしなくても嘘など付かない。
言わなくても分かっているはずなのに、なぜかローラは言外にそう言った。
俺を部屋に連れて来たりと今までのローラではあり得ぬ行動に俺は内心、首を傾げつつ。
「情報として正直に言うが、あいつは剣聖の担い手。
聖剣の場所を知っているし、勇者を鍛えるべく『生み出された』存在だ。
あと、想像上の伝説のエルフだ。
勇者キョウ・クジョウの元に連れて行っている最中だ」
剣聖の担い手の情報は知らなかったらしく簡単に説明してやる。
大前提の情報なのでサービスだ。
それを聞いてローラは、パクパクと口を閉じたり開いたりしている。
世界の命運を賭けた秘匿情報だからだ。
「……なんで貴方が?
そんなの国に任せておけば良いじゃない?」
それはまさしくその通り。
ただのチンケな詐欺師のやるべきことではない。
俺は頭をぽりぽりと掻く。
「大半は仕方なく、だな。
一昨日話した通り、魔王に世界が滅ぼされちゃ敵わないってことだ」
「そうじゃなくて……」
不安そうな顔で俺に言い募ろうとするローラ。
まるで俺を心底心配してくれているかのようだ。
……そうかもしれない。
結局のところ、ローラは今も娼婦仲間に慕われるほど情の深い女だ。
だがその心配を俺は。
「それ以上は提供出来ないネタだ」
彼女はこう言おうとしたのだろう。
国に伝えて動いて貰えば良い、と。
だが、伝えた相手が仮に『敵』だった場合、そいつはそれを利用して、俺にとって望まぬ世界を継続するかもしれない。
それは認められない。
全ては
だが、今の俺にはそれすら分からない。
だから、俺はそれをピシャリと言い止める。
対価として『払える』情報と『払えない』情報を明確に分ける。
それはローラにも分かっているはずだ。
なのに、彼女はとても悔しそうな顔をする。
「珍しいな、そんな顔するなんて?
何かあるのか?」
情報屋の彼女がそんな風な顔をするのは……高級娼婦から自らを身請けすることを彼女の執心してた男どもに阻まれようとした時以来。
つまり、素の時だけ。
案の定、彼女はそれを取り繕うように続ける。
「何でもないわ。
もう少し情報を貰うわ。
ウラハラ国の元王女を拾ったという噂は?」
「事実だ。
巻き込まれたに近いがな。
追加で言うが、カストロ公爵アレスを名乗ったのも、その元王女の小娘と一緒にエストリア国を詐欺に掛けたからだ。
これは正直、バラされると痛い」
だが、それだけの対価を支払うだけの行動をしてもらったのだ。
詐欺師の身請けなど他にしてくれるやつのアテなどない。
「元王女が一緒の時点で厳密に詐欺とは言えないかもね。
……限りなくブラックに近いグレーだけど。
それを行ったのが、世界最強No.0だと言われてるけど?」
俺は両手を広げて肩をすくめる。
「それこそ誤解だね。
俺は世界最強のNo.0の居場所を知っている、かもとは言ったかもしれないがな」
ローラは自らの顎に手を当てて思案する。
これだけで彼女には、かなりの情報量を与えたことになる。
もしもローラが俺の『敵』と繋がりがあって、かつ、俺の『目的』に気付かれたらそこでお終いだろうな。
所詮、チンケな詐欺師。
吹けば飛ぶような存在だ。
「最後に。
貴方らしき人がエール共和国付近で、絶世の美女と一緒に居たそうだけど……本当?」
「事実だ」
メメちゃんだ。
そこでもまた、悔しそうにそれでいて何かを耐えるようにローラは目を閉じた。
やがて目を開くと彼女は言った。
「……情報を『貰い過ぎた』ようね。
過払い分はどれで返したらいい?」
それに俺は瞬きを何度もしてしまう。
ローラらしくないミスだ。
……まあ、夜に引っ張り出したのはこちらだ。
彼女も疲れていたのだろう。
だが!!!
悪いとは思うが、貰うものは貰うのが俺の主義である。
当然、これだけの美女相手に支払ってもらうのは『いつもの夜のご褒美』である。
俺払えないからね!?
美女からのご褒美なんて人生賭けないと貰えないからね?
過払い分の報酬代わりと言っても、美女からのご褒美である。
普通に考えれば大金を支払っても得られるものではない。
それでも俺は頂く。
たとえそれが罠であり、ケツ毛……やっぱりそれだけはダメだ。
そんな怯える俺にローラは王様になったら返してねと言った。
詐欺師が王になることは無いので、実質サービスということらしい。
ありがたや〜。
そう思ってたらたっぷり楽しんだご褒美後、休む間もなくカストロ公爵アレスの偽造居住権承認の偽造サインを朝まで書かされた。
もうわたくし、へろへろですわぁ〜。
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