第33話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話⑤

「うう……、私はこの男に共犯にされただけなのよ……」


「まあ、お嬢さんもね。

 こんな悪い男に付き合ってないで、もっとイイ男見つけな?

 ほら、腹減ったろう?

 黒パンならあるぞ?」


 警邏隊の詰所で、現在、俺たちは取り調べ中だ。

 世界の叡智の塔で無事、落書きもとい世界ランクNo.2の魔力探査外しを行った。


 しかし撤退時にエルフ女が俺の足に引っ掛かり、2人一緒にけてしまい警邏にお縄となってしまったのだ。


「うう……、ありがとう……」


 わざとらしくそう言いながらエルフ女が口一杯にパンを頬張るのを、警邏けいらのおっさんたちがほっこりしながら眺める。


 エルフ女、出発前も一杯メシ食ってたよね?

 まだ食うんだ?


 いや、そもそもエルフ女!

 ナンバーズ並みに強いんじゃないのか!?

 なんで俺の足に引っ掛かって転けるぐらいどんくさいの!?


 ドジっ子!? エルフのドジっ子なの!?

 ……アリだな。


 それで捕まってれば世話無いけどな。


 やったことは落書きだが機動紋は世界の叡智の塔に反応した後は消えるから、落書きの証拠は残っていない。


 重要文化財に肝試しに近付いたカップルということで、しょっ引かれている。


 さりとて、さほど大事おおごとな雰囲気ではないのは、世界の叡智の塔の重要性が警備の厳重さの割に理解されていないからでもある。


 もっとも世界中を探してみても、その重要性を理解している者など少数だ。


 実際、コルランなんかはほぼ警備なし。

 警邏にしても通常の街の巡回のついでに確認する程度だった。


 つまりエストリア国の偉い人の誰かが、これの重要性を知っているということでもある。

 そんな訳で実は今、わりとピンチなのであった。


 なんと言っても不明と思われた世界の叡智の塔を、限定的とはいえ操作出来ることがバレたら国としても狙わない理由がない。


 操作しなければ良かったのかもしれないが、それで魔王に人が滅ぼされたらそれこそ本末転倒だ。


 何よりナンバーズの女はとっても可愛い!

 失うのは惜しい。

 手に入る存在じゃないけどさぁ〜。


 俺にエルフ女が口いっぱいに黒パンを詰め込み何かを言う。

「もごーふふぁお、ファレフ、ふふふぉふぁふぉふぉ、ふぁふぇふ?」


 うん、何言ってるかワカンねぇよ。

 エルフ女は、口の中の黒パンをゆっくり咀嚼そしゃくして再度。


「どうしたのよ、アレス。

 深刻そうな顔して。

 格好つけているんだったら、バカが目立つし似合わないからやめたら?

 黒パン食べる?」


 うん、どうしたのアレス、黒パン食べる?

 最初はそう言ったんだよね?

 バカが目立つ、とか今付け加えたよね?


「彼氏さんもね?

 世界の叡智の塔はエストリア国では警備対象だから。

 こうやって叱られるだけじゃなくて、即牢屋入りでもおかしくないからね?

 ……まあ、反省しているみたいだから、今回は厳重注意で済ますけど」


 真面目に考え込んでいたのを、反省している顔と判断してくれたらしくそんなことを言われた。


 ラッキー、うしし。


「ほら、2人とも迎えが来たよ?」

 そうして、警邏隊の詰所に迎えに来てくれたのはローラだった。


「姐さん!

 すみません、ご足労おかけしやす!」

 俺は即座に90度の最敬礼でローラにお礼を言う。


 ローラは額をピクッとだけさせたが、特に何も言わず。

 それからローラは警邏隊と少し話をして、俺たちは無罪放免となった。


 俺たちは旅の最中である。

 よって、その身元を確認する術もなければ、身元を保証してくれる人も居ない。

 叩けばホコリが出まくる身元ですが、何か?


 だから、エストリア国王都で唯一の知り合いと言って良いローラに身元引受人になってもらったのだ。


 当然、高くつくわよと脅された。


 ローラは急いで来てくれたらしく、口元の付けボクロさえ今は付けていない。

 髪も少し乱れて夜の大ボスの雰囲気が抜けている。

 そっちの姿の方が可愛くて好きだな〜。


 でもねぇ、スラム上がりのチンケな詐欺師で、しかも地元に根付いている訳でもない詐欺師に身元保証をしてくれる人なんて他にいる訳ないのよねぇ。


 これには俺も正直に。

「助かった。

 この件については言い値で払う。

 ……金無いけど」


 お金はない、当然ない!

 使い切った!


 そもそもで言えば、ローラは助けに来る義理は一切ない。

 むしろ変な旅人と知り合いと思われる方がリスクなのだ。


 ローラは仕方ないとため息を一つ。


 この面倒見の良さで彼女は今も娼婦たちから慕われているし、頼られている。


 娼婦たちからすれば、エストリア国王都で誰を頼るかと問われれば1番に名前が上がる。

 だからこそ自然と情報も集まる。


 さっきの警邏隊の中にもローラの世話した娼婦にご執心の男も居たはずで、だからこそ身元引受人としてこれ以上はない。


「エルフ女、先に宿に戻っておいて〜」

「あいよ〜」


 そう言ってエルフ女だけ先に宿に戻す。

 するとローラは目をパチクリして言った。


「彼女とかじゃないの?」

「彼女〜?

 冗談だろ〜?

 ……この情報が対価で良いか?」


 もう少し詳しく、そう言ってローラに何故か耳を引っ張られて移動した。


 なんか浮気した亭主みたいな扱いなのは……気のせい?

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