第31話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話③

 ローラと別れた後、安い雑貨屋で手のひらサイズの薄ぼけた銅貨10枚の壺を買った。


 そして次の日、同じ酒場に居た。


 薄ぼけた銅貨10枚の壺をテーブルに置きニヤニヤしながら、酒を飲んで景気の良さをアピール。


「いやぁ、イイ壺を買えたよ〜。

 今日は人生最良の日だな!」

 そう言いながら、上機嫌に酒を掲げながら隣のオッサンに話しかける。


「そんな壺がなんだって言うんだ?」

 オッサンは不思議そうな顔をする。


 このオッサンはとある職人の親方。

 最近、美味い商いがあったらしく今は懐が温かいのだとか。


「聞いて驚け!

 なんとこの壺は幸運の壺と言うんだ。

 この壺を買ってすぐに美人からのお誘いがあって、そのままゲットよ!」


 これには、酔っ払いのオッサンも酒を飲みながら、ガハハ!

 そんなことあるわけない、と。


「いやいや、そう思うだろ?

 まさに俺も買う前はそう思ったさ!

 でもな?

 男たる者、S級美女とはねんごろになりたいのは当然のこと!

 その夢が叶えられるなら賭けるのが男ってもんだろ?」


 そうして、俺は壺を購入した経緯、その後すぐに起きた俺の美女との出会いを興奮しながら話す。


 もちろん壺購入の経緯は誇張200%ぐらいで。

 S級美女との出会いだけは半分ぐらいに抑えて……。


 その話振りにオッサンも次第に乗り気になっていくのが、手に取るように分かる。


「それがなんとこの壺、僅か金貨12枚だ!」

 当然、金貨12枚は暴利どころではない。

 これには流石のオッサンも少し引き気味にはなりつつも。


「しかしまあ……ふ〜む。いくらなんでも金貨12枚はなぁ〜」

 オッサンは酔いもあるせいでこの壺に未練タラタラだ。


「俺にはもう用が無いから誰かに譲ろうと思ってな。

 俺の地元では、『縁は繋いでいくモノ、いつまでも同じところにとどめるモノではない』という言葉があってな。

 ここであったのもなんかの縁だ。

 今なら金貨10枚でアンタに譲ろう」


 当然、地元はスラムなので、この後にだから金を出せ、という物騒な言葉が繋がるのは秘密だ。


 オッサンは酒の勢いもあって俺の話に悩みだす。


 普段なら金貨10枚も持ち歩いたりしないだろうが、このオッサンは腕が良く丁度貴族に商品を卸して来たばかり。

 サイフがそれなりに厚くなっている。


 昨日、酒場で酒に酔いながら酒場の姉ちゃんにオッサン、そう言ってたし。


「ま、チャンスはここだ!

 そう思った時に勝負を賭けないと訪れないぜ?

 アンタも心当たりあるんじゃないか?」


 オッサンはハッと顔を上げる。

 貴族からの注文自体がそんな偶然によるものだったらしい。

 背中をそっと押すように、それを思い出させてあげる。


 繰り返すが、昨日、酔ったオッサンが自分で言ってた訳だが。


 そのタイミングで。


「アレス〜?

 まだ〜?

 待ちくたびれたんだけど?」

 超絶美女のエルフ女が俺を迎えに来た。


 酒場の近くで待たせておいて、手頃なところで迎えに来るように言っておいたのだ。


 これにはオッサンのみならず他の客もビックリ。

 どう見ても俺みたいな男には、不釣り合いな美女である。


「悪かったよ、エルフィーナお詫びはベッドで、な?」

 俺はエルフ女の肩を親しげに抱く。


 エルフ女は文句ありそうなジト目で俺を睨むが手を払ったりはしない。

 そんな些細なエルフ女の様子がリアリティを生む。


「……さてと、縁が無かったかな?

 じゃあ、俺は行くぜ?」


 エルフ女の肩を抱き、後ろ手にこれでおしまいというように壺を持っている手を軽く挙げる。


「ま、待ってくれ!

 買う! 買わせてくれ!!」


 オッサンから俺は金貨10枚を受け取り、手に持っていた元手銅貨10枚の壺を売り払った。


 毎度あり!!

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