第30話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話②

 そういう情報は得てんのね。

 そりゃそうか。


 もっともカストロ公爵と俺を結び付けられる情報屋はローラぐらいなもんだろうが。


 何より俺の存在って、そんなに認識されていない。

 所詮はチンケな詐欺師だからね。


 噂だけの世界最強No.0の存在の方が俺の存在より確かなぐらいだ。


 人を管理している人頭台帳など整備されているかどうかも国によりまちまちであるし、そもそも管理されていたとしても都市部の一部だけだ。


 スラムの人間は人として計上すらされていない。


 俺を必死に探って探ってアレスから名前がゴンザレスと突きとめたとしても、魔獣によって滅ぼされたエストリア国のど田舎にあったトッペン村のゴンザレスとしか情報はあがらない。


 当然、スラム街出身の俺はそのゴンザレスさんとは別人だ。


 ましてや国を超えて特定の一般庶民を認識するなんて出来ようはずもない。


 その国ごとところか、各領主たちでさえ個人を把握していないし、把握したとしてもタダでバラしたりなどしない。


 いいかい?

 とても大事なことを1つだけ教えよう。

 詐欺に遭わない1番の方法は認識されないことだ。

 個人情報が流出しなければ、詐欺師に認識されることもないのだ。


 だからこそ、帝国にはもう近づけねぇ。

 あそこの諜報部隊の隊長に手を出して、帝国の大事な大森林燃やしちゃったから……。


 田舎ならまだ潜伏出来るだろうが、間違っても帝都には近寄ってはいけない!

 いけないのだよ!!


「その噂消せない?」

 本来はこの一言も情報である。


 少なくともカストロ公爵と言われる人物である俺が、そう認めたと言えなくもないからだ。


「これ、噂じゃないじゃない。

 それが本当に貴方かどうかまでは情報屋としては気になるところね」


「『誤解』だ」

 ふ〜ん、とローラは言う。


 これ以上は何処から情報を取られるか分かったものではない。

 寝物語ならばそれも覚悟の上だが、今日は違う。


「情報の対価は今ので十分だけど、ほんとにそれが聞きたかった訳?」


 出来ればカストロ公爵ではないと信じてもらいたいが、信じる信じないは『情報』ではないので言っても無駄である。


 少なくともローラは俺が詐欺師であることは知っているのだ。

 そこにある齟齬そごに犯罪臭ぐらいは感じ取っているだろう。


 俺は肩をすくめる。

「メインは本当にそれだ。

 魔王なんかに怯えてると、おちおち『仕事』も出来ないからな」


「どうだか。

 貴方のことだからまた詐欺を口実に女を救ってるんじゃないの?

 ……私の時みたいに」


 ローラの時には正当にローラ自身が自分で金を払って身請けしてたじゃないか!


 それを口実にちょっとローラを引き続き高級娼婦に押し留めたい店とか、身請けしたい貴族のボンボンとかを、俺がついでに詐欺っただけで。


 それがきっかけで無事に身請け出来たとかなんとか言ってたが、世の中、そんなに都合良く行く訳がない!


 ……いかないよね?


 メメちゃんとかエルフ女とかローラとかS級美人なのに、俺に簡単に引っ掛かたりしてないよね?


 他にも細かなところで、対価として金と情報を組み合わせ欲しい情報を確認していく。

 情報は安くないから絞らねばならないが。


「貴方が本以外の情報を求めるなんて初めてじゃない?

 ま、良いわ。

 じゃあ、王様にでもなったら迎えに来て?」


 元々は何処かの国の大貴族のお姫様だったのよ?

 ローラはそんな寝物語をよく話してくれたっけ?


 これは俺たち独自の別れの言葉みたいなもんだ。


「おー、王様になったら迎えに行くからビックリするなよ〜」


 これから暫くのち、本当に迎えに来られてしまったローラは目を丸くしてしまうわけだが、それはまだもう少し先のお話。

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