第29話【魔王編】ゴンザレスとエール共和国再び裏話①

「んで、何処行ってんの〜?」

「エール共和国だが、先にエストリア国の王都に行くぞ〜」


 そのままの格好で居ると、エルフのことを知っている人も居るかもしれない。

 面倒事は嫌なので、耳を隠せる深めの帽子を買ってやる。


 ちなみにこのエルフ女。

 当然のことながら、金がない。


 普通ならもてあそんで、奴隷商人に高値で売り払うのが良いだろうが。

 勇者を育てて魔王を倒してもらわねば、おちおち詐欺もしてられない。


 あと良い女過ぎて売るのが勿体ないのもある。


「エストリア国って何があるの?」

「なんでもあるぞ〜」


 金さえ有ればな。

 とにかく旅に限らず、生きるのに金が掛かる。

 情熱の国バーミリオンで金貨100枚手に入ったから金に余裕はまだある。


 だが旅をするなら情報収集も欠かせないし、良い本が有れば入手して読まねばならない。


 娼館は行かなくなったなぁ……。

 あそこが1番情報が手に入るが、どうにも身体が受け付けなくなった。


 S級美女クラスの女にしか食指しょくしが動かないという、有難くも恐ろしい呪いにかかってしまったのだ!!


 冗談みたいなことだが、情報収集にはこれは大きな痛手だ。


 俺は娼館中心で流しの女は拾わないが、いずれにしてもその手の女は情報屋も兼務していることがある。


 肌を重ねると男は口が緩くなるだけではなく、女同士愚痴も溜まり情報を共有しそれを誰かに言いたくなる。


 滅多に出会えないし見つけるのは砂漠の中で宝石を見つけるようなものだが、凄腕の情報屋も居る。


 俺も1人だけ知っている。


 国クラスの情報はそのレベルの情報屋でないと確度、要するに情報の正確度が低かったたりする。


 普通のチンケな詐欺師はそこまでの情報を求めないものだが本は高価で、王侯貴族しか読むことが出来ない本も多数あるのだ。


「あんたの本好きも大概よね?」


 そう言いながらも、エルフ女は俺が本を読んでいるときは特に邪魔するでもなく、安宿で安いワインを傾けるだけでご機嫌だ。


「本も読まずに退屈じゃないのか?」

「別に〜?

 お酒を味わうだけでも新鮮だしね。

 それに本ならあんたが持ってる本をちょくちょく読んでるわよ?

 あんたが読む量が異常に多いだけよ」


 とまあ、そんな感じだから湯水の如く金を使う訳ではないがそもそも本が高い。

 借りるだけでもそれなりなのに購入となれば金貨数枚だ。

 詐欺で手に入れても追いつかない。


「そういうことで情報を手に入れてくる!」


「何がそう言うことなのよ?

 突然、何言い出すのよ」

 エルフ女がワインを傾け呆れながら反応する。


 確かに唐突ではあるが、エストリア国には凄腕の情報屋がいるのだ。

「とにかくエルフ女よ、今から情報を仕入れてくる!」

「エルフィーナだって。

 まあ、いいわ。

 いってらっしゃ〜い」


 エルフ女を置いて夜の街へ。

 今更ではあるが、エルフ女は見た目にも良い女だから変に人目につくと大惨事になる。


 ローブを着させて連れて来ることも考えたが宿に置いて来た。


 ちなみにまともな嗅覚が働く一般人なら、全身ローブで姿を隠した女には声はかけない。

 そんな女に声を掛けるのは突然、切りつけられる覚悟のあるやつだけだ。


『へっへっへ、イイ女だなぁ〜、ちょっとこっちへ、ふぎゃー!(真っ二つに切られる男)』

『アレス〜マダー?(血塗れの顔で表情一つ変えずに俺を呼ぶエルフ女』

 そのマダーは殺人という意味のmurder(マーダー)でしょうか?


 とまあ、こんなかんじになる。

 ローブを目深に被った女に声を掛ける際は気を付けよう!


 そんな事態になること間違いなし!

 ゴンザレス、小娘の時に学習した。


 それはともかく俺は周りに出来るだけ人が居ないのを確認して、特定のルートを使い小さな裏通りの酒場で目的の人物に声を掛ける。


「ツボ屋、壺を売ってくれ」

「誰がツボ屋よ?

 ……随分久しぶりじゃない。

 何? 今日も私を連れ込む気?」


 声をかけた相手は流しの娼婦兼情報屋だ。

 それも凄腕。


 青くも見える黒の縮れ髪が色っぽく前にかかり、これ見よがしに胸を見せつける服にタバコをふかす。


 口元のホクロがセクシー。

 だが、付けボクロだ。

 妖艶な大人の女の雰囲気だが、化粧でそう見せているだけで、本当はもう少し若く綺麗系だ。

 美女なのは変わりがない。


 流しと言っても普段から街角に立っている訳ではない。

 特定の店などで決められた合図で接触出来る。


 その辺に居れば会えるとかいう訳ではない。

 この通りに来るまでにある路地のバー形式の酒場で、一杯の酒とキーワード『そこのツボは良いツボかな?』と伝えてある。


 するとこの情報屋に会える訳だ。

 情報をもらう時にはそこからさらに酒場の奥の個室に入る。


「そうしたいんだがな……今日はツレが居るんでな、情報だけだ」


 基本情報屋は情報を『商品』として扱う専門家だ。


 だから、いつもはこちらが各地で得た知識などを『商品』としてこの女、ローラに提供し一晩の夢を見させてもらっている。


 つまり俺が情報を売る側だったりする。

 俺ほど世界各地を飛び回って情報を得るやつもそうそういないからだ。


 なお、情報の対価としてローラの身体を頂戴するのは俺ぐらいらしい。


 だって正規ルートでローラと一晩って、すっごくすごく高いんだもん。

 とあるエストリア国最高級娼婦だと一晩で小さな家ぐらい建つぐらい高い。


 その元最高級娼婦がどうなったかは不明って事で。


 まあ今、目の前に居るがそんぐらい良い女って事。


 ツレと言ったところで、ローラはピクッと反応するがすぐに平素の顔になる。


「貴方がツレを連れているなんて珍し……初めてじゃない?

 で、どんな情報が欲しいわけ?」


 女はタバコをくゆらせれて流し目。

 その魅惑的な表情に、自然とゴクリと俺の喉が動く。


「各国の魔王対策上手くいってるのかな、というか魔王なんとかなりそう?」


「……貴方にしては今までにない質問ね?

 気付いてるからの質問でしょ?


 知っての通りよ。

 いくつかの国は滅びるんじゃないの?

 後は私も分かんないわよ。

 これぐらいしか『情報』はないわよ?」


 ローラはため息を吐く。


「今までと違いツレを連れていたり、変わった質問したり……目的は何?

 情報屋をあんまり揶揄からかわないでよ?

 カストロ公爵様?」

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