第27話【魔王編】カストロ公爵再び裏話④
このままでは要求レベルが高過ぎて殺されてしまう!
そう思った俺はメメちゃんと離れる決断をした。
勇気ある俺。
そう決めた商業連合国から、俺とメメちゃんはずっと一緒に旅をし続けている。
逃げないの?
そう思った諸君。
なんでS級美女から逃げられると思った?
飯も食わしてくれて、時々だけどご褒美もくれて最高なんだぞ?
ヤバイ!
帝国精鋭第3諜報部隊長超ヤバイ!
商業連合国の時にも思ったけど、逃げられる気がしない!
チンケな詐欺師を逃げられないようにして何がしたいのか、さっぱり分からないけれど!
そんなこんなで共和国に到着して、そこでキョウちゃんに遭遇した。
後ろに美しいモデル体型の剣士とワガママボディを持つ聖女風の2人の美女も一緒。
……有名人だな。
冒険者としても有名なエストリア国の貴族令嬢だ。
2人とも伯爵令嬢だったな。
元々はハニートラップ要員だっただろうな。
あからさまにアプローチしていたと思うが、キョウちゃんは男の姿でも手を出さなかったらしい。
魔王討伐には彼女の勇者としての力がいると思うのだが、キョウちゃんはナンバーズほどの威圧感は感じない。
……俺、なんでナンバーズとか勇者の威圧を受ける経験積んでるんだろう、と疑問に思わなくはない。
「よろしいので?」
キョウちゃんから逃げた後、メメちゃんは何故か俺にそう尋ねた。
何が、でございましょう?
俺、キョウちゃんとはなんの関係もないよ?
それでもメメちゃんの反応を見るつもりで適当に返す。
メメちゃんが俺に付いて来ている意図が未だに読めないのだ。
「惜しいが今は仕方ない。刻を待とう」
「御意」
メメちゃんは高貴な者が高貴な者へ礼をする様にそう言った。
諜報部隊の隊長ってやっぱ凄いんだね?
本気で俺に忠誠誓ってるように見える。
……で、またしても共和国のトップと会談させられた。
本当に何がしたいの?
まあ、でもこれはちょっと分かるけどね。
この行動一つで、帝国とカストロ公爵アレスとの蜜月が分かる。
つまり間接的にだが、エストリア国とのパイプを繋ぐことになっている。
厄介な国の外交戦略に巻き込まれたなぁ、と内心はため息だ。
非常に惜しいがこの辺りで本格的にメメちゃんとは縁を切っておかないと、
俺が本当にカストロ公爵ならば、そういった国のあれやこれやに、どうにかこうにかぶつかるしかないかもしれないが。
残念だが、俺はただのチンケな詐欺師だ。
野心がない、というよりそんな野心すら許されない立場だ。
スラム上がりは元々やんごとない血の上でもない限り、そのような上位貴族になることはない。
それがあり得るとすれば、国を作り替えるほどの英雄か、はたまた……幻の世界最強ぐらいだろう。
エール共和国を抜けるためと言い訳して、山を抜けるフリをして山の地盤の悪い道を行く。
メメちゃんにはサヨナラの代わりに最後にこう告げる。
「俺、No.0じゃないぞ?」
メメちゃんは俺が言った『意図』が分からなかったらしく小首を傾げる。
だから、何?
そんな感じで最初から気にしていないかのように。
俺は内心、その可愛らしい反応を面白く、同時に少しだけ未練も感じる。
そんな素直な反応をしていると詐欺に騙されるよ?
散々に『ご褒美』を頂いた後なのだから手遅れかもしれないが。
まあ、この事で彼女がS級であるという価値が下がるものでもないしな、と俺は思う。
俺はメメに言葉を発しようとした『フリをして』一歩踏み出し……そのまま足を滑らすように山から滑り落ち、彼女から逃げた。
バイバイ、メメちゃん。
落ちながら、彼女の本気で心配するような顔が印象的だった。
予定通り随分、下まで落ちてふと気付く。
あれ? 俺、なんか濡れてる?
よく見ると、持ってた小瓶の一つが割れている。
あー、あの時、泉で作った魔物を呼び寄せる薬かぁー。
あの時、コルランのところで冒険者を嵌めた時にも使ったけど、コレって意外と効果強かったんだよなぁ〜。
そろりと後ろを振り返る。
あら?
わたくしの視線の先に、魔獣の大群が。
凄いですわね?
こんなに大量の魔獣なんて見たことありませんわ?
山側のこっちからずっと街に近づいていたのかしら?
とにかく……。
俺は魔獣にクルッと背を向け、ダッシュ!!
「おー助けーーー!!!!!」
絶賛、魔獣の群れに追いかけられています。
激しい地響きと共に、背後の魔獣が追いかけて来るのが分かる。
「おーれーはー! 生きるぞぉぉおおおおおお!!!!」
この日、エール共和国を救うと同時に、帝国の情報網からカストロ公爵アレスは姿を消した。
その動き、まさに神出鬼没。
帝国は自らの判断が正しかったことを知った。
元々、商業連合国、エール共和国、いずれの会談も元レイド皇国皇女メリッサ・レイドの意思によるものであった。
メリッサ・レイドからすれば、彼が成功するにしろ失敗するにしろ。
帝国にも当然、利のあることである。
ゴンザレスの意図した通り、『エストリア国の貴族』と表立って交流があることを示せるからである。
ただいずれの思惑にしろ、とある詐欺師は彼女らの思惑の遥か上を行ってしまった。
誰がたった一回の会談で国を奪えるか、誰がたった一回の会談の後に国を救ってしまえるか。
国を救うこともあれば、滅ぼすことも可能であることを示した世界最強ランクNo.0。
だが、世界の叡智の塔には、未だNo.0という番号は、ない。
なお、とある詐欺師はまたしても、自分のやらかしたことにも気付いていなければ、とある元皇女に本気で惚れられていることにも……やっぱり気付かず逃げ出した。
世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。
彼はそういう男である。
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