第26話【魔王編】カストロ公爵再び裏話③

 仕方なく地図を書いてメメちゃんに丁寧に説明。

 なお、地図の元は『僕のカッコいい地図名鑑』という書物からである。


 著者は描かれた地図に興奮する変態で、最終ページは僕は地図になると、魚拓ならぬ顔拓があるらしい。

 残念ながら、俺が読んだ時には、既に失われたページであった。


 帝国の隣に元大森林の絵、そこから大きなセントラル川、エース高原とユーフラテス山脈の位置関係も示す。

 そして最後に今居る商業連合国首都。


 そこに大森林焼失の影響を書き込んでいく。

 森から逃げた魔獣の移動進路はユーフラテス山脈へ。

 その事によるユーフラテス山脈への商業連合国の兵の移動と難民の発生。


 セントラル川を経由した帝都からの移動の利便性、セントラル川河口部の港の設置位置、そこから海洋への移動と各国に対する影響。


 大森林焼失跡地の一大農園の設置。

 農園は帝国直轄とし難民を受け入れる形。


 港設置に商業連合国の商人からの資金提供を促す。そうする事で帝国に組み入れる商人を選別。


 同時に経済でも軍事でも商業連合国の喉元にナイフを突きつける。

 セントラル川を帝国に渡し、かつユーフラテス山脈を奪ってしまった以上、商業連合国に未来は無い。


 ついでに、商業連合国は元レイド皇国の土地を手放さなかった。

 これは悪手も悪手。

 エース高原の土地問題で揉めてる理由を全く理解出来ていない。


 領土問題だよ?

 揉めてる地域なんて抱えるなんて百害あって一利なしというやつだ。

 そのエース高原について、想像を遥かに越えて『上手くいった気がする』からだろうな。


 あれもこれも商業連合国代表が強権を得てしまったが故にの弊害である。


 独裁者のジレンマというやつである。

 忠告してくれる知恵者が居ない。

 だから帝国の正式(?)な使者にあんな『無礼』な威圧をかけるのだ。


 ばっかじゃないの?


 その話を聞いたメメちゃんは何故か、唖然として持ってたフォークを取り落とし、片手で自らの顔を抑える。


「慣れるのよ、メリッサ……。

 この男はきっと、こんな奴なんだから……」


 酷い言われようである。

 俺、君のご主人様なんじゃないの?


 この後、メメちゃんはまたご褒美をくれた。

 当然、ご褒美は昨夜と同じ!


 全俺が大歓喜したらメメちゃんに不思議がられた。

 S級美女以上のご褒美って……なく無い?


 なお、これでメメちゃんがそれなりの権力を帝国に有したままである事は把握。


 そりゃそうか、元レイド皇国皇女なのは変わりようがないし、第3諜報部隊長を辞めますと言っても簡単にはいかないよね?


 タイミングを見て逃げる事にしよう。

 帝国の紐付きの詐欺師なんて、どう考えても使い捨ての道具にしか思えん。


 とーってもとーっても惜しいけれど、命有っての物種。






 この後、僅か数ヶ月も経たず、商業連合国は帝国に併合される。

 それは武力を用いた戦争によるものではなかったが、経済戦争と呼べるものであった。


 ……いや、仕掛けられたと商業連合国が気付いた時には、何もかもが終わっていたので、やはり戦争とは呼べないかもしれない。


 飢えた帝国の商人たちは、一時のこの世の春を謳歌していた商業連合国の商人の喉元に容赦なく噛み付き、商業連合国商人の有能な者は生き残りをかけ、帝国になびいた。


 商業連合国は呆気なく内外から崩壊した。


 その事に誰よりも戦慄したのは、もっとも利を得た帝国である。

 当たり前である。


 これは帝国国民ですら無いただの1人の手により、ただの一度の会談で行われた事であったのだから。


 しかも、だ。

 その人物は交渉や外交の専門家ではない。


 むしろ、そういう名の知れた者ならば、商業連合国代表ベルファレスも騙されることはなかったはずなのだ。


 その人物がそれを仕掛けられる知識や状況をどうやって整えることが出来たのか、誰にも分からなかったし想像がつくはずも無かった。


 そして、その者は帝国と帝国皇女を救った時と同様に、『帝国から』なんの褒美も受け取る事なく姿を消した。


 それは同時に帝国に対し、その者はなんの借りもないどころか貸しのみを残した事になる。


 故に、帝国は覇道を……他国への侵攻を辞めざるを得なかった。

 覇道の先に立つふさがるエストリア国には、その男の領土があるためである。


 そこには2つの意味がある。

 No.0であると目されるカストロ公爵アレスに対し恩があるということと。

 そして、帝国を救う力があるということは、滅ぼす力も同様にあるということ。

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