第22話【魔王編】ゴンザレスとグレーターデーモン裏話②
まさに生きた心地がしないとはこのことだ。
見渡す限りの火、火、火である。
熱い! 熱すぎる!
俺はなんて熱い男だ!!
いや、冗談言っている場合じゃない。
早く森から出ないと焼け死んでしまう!
あれ? 俺なんでこんな大火事の中を走って逃げてるんだっけ?
思い出した。
S級美女に手を出したからだ。
思えば美女に手を出すとロクな目に遭っていない。
国際テロに巻き込まれたり、国際詐欺に巻き込まれたり、国家犯罪に巻き込まれたり、最後は国家存亡の危機に巻き込まれたり……。
無理よ〜、俺はただの本好きのチンケな詐欺師よ〜!
こんなの無理無理!
メメちゃん可愛かったけど、こんなの命がいくつあっても足りないわ!!
そうして……俺はどうにか川に出ることが出来た。
サラサラと流れる小川からやがて大きな川に合流、この先に進めば海に辿り着く。
優しくも雄大な景色がそこに広がっていた。
川には
此処で取れる川魚は絶品だそうだ。
……ああ、俺が土地を貰えるならこういう土地が欲しいな。
戦乱の多いよく分からない現カストロ公爵領とかいう土地ではなく。
この川をセントラル川という。
かつて、ウラハラ国カストロ公爵領のあった地である。
とにもかくにも早々に帝国領を離れなければ。
森を大火というのは、何処の国であれ一族郎党処刑の重犯罪である。
しかも有名な帝都側のダレム大森林。
燃やすことで全てを消滅させ、国にとんでもない被害を及ぼした。
なんとか川向こうに渡り、さらに逃げなければならない。
しかし、川を渡る渡し賃はアコギなもので金貨1枚ぐらいでかなり高価だ。
どうしたものかと川辺に降たところで、舟をつけている桟橋で何やら男女が言い合っている。
どうやら女が向こうに渡りたいが、金がないらしい。
金がないなら乗せることは出来ないと男は言っている。
まあ、もっともだ。
仕方なく、女は別の船乗りの方に話をしに行くようだ。
ふむ?
断った男に話を聞くと、女は同じ村の者で向こう岸の村の男に逢いに行きたいのだそうだ。
どうやら舟に女を乗せるのを断った男は、女が向こう岸の男に逢うのが嫌なようだ。
要するに嫉妬だ。
その
古来より、あの手の舟屋は舟の置き場と同時に、男女の蜜事を行う小屋としても有名である。
あー……。
嫉妬男の方はその女と別の舟乗りの行動に気付かなかったようだ。
ちなみに俺はとてもとても目が良い。
これちょっと自慢。
カレン姫が迷子になったところに行くのも、この目が役に立った。
さらに読唇術も出来る。
詐欺師は色々出来るのだ。
詐欺に使えるかなぁ、と覚えたけど使い所はあまりなかった。
そこで色々と気付いていない嫉妬男に提案。
少しばかりの金はあるが、タダで俺を向こう岸に連れて行ってくれたら、例の女と嫉妬男を結び付けてあげようと。
男は少し思案していたが、俺は自分の名を名乗る。
俺は実はNo.0である、と。
噂にある通り知恵には自信がある。
上手くいけば、女も手に入り、この話が酒の肴にもなる。
しかも、あんたのリスクはほぼなしときた。どうだ、話に乗ってみないかと。
俺の小気味良い言い方が気に入ったらしく、嫉妬男は俺を連れて対岸へ。
嫉妬男と共に対岸の村を訪れる。
川の渡し賃が浮いたので、浮いた金で嫉妬男に銅貨2枚の安酒を飲ませている間に、別の舟乗りで身体で払って川を渡って来るであろう例の女の恋人を探し出す。
その恋人相手はすぐに見つかった。
俺はその恋人相手にある事実を伝えた。
そうして、数刻後……。
女が対岸からやって来たが、例の恋人相手と何やら言い争いをしている。
俺と嫉妬男はその様子を隠れて見学中。
どうやら女が浮気をして、そのことが相手の男にバレたとか。
声は聞こえないが、唇の動きを読んだ。
その恋人相手は怒りながら立ち去り、女は泣き崩れる。
俺は一緒に隠れていた例の嫉妬男に。
「とにかく自分は全て見て知っていると伝えろ、そうすればお前の愛は伝わる」
そう言って、真実の愛を女に伝えるように告げる。
嫉妬男は訳が分かっていないながらも素直に頷く。
そして未だ泣き崩れる女のところに嫉妬男は走っていき、告げた。
「俺は全て見ていた。
あんな男はお前には相応しくない。
俺ならお前を全て受け入れる。
俺と夫婦になってくれ!」
泣き崩れていた女は、立ち上がり嫉妬男の胸に飛び込んだ。
そうして、俺は少しの安酒だけで対岸に渡ることが出来た。
この地方には、No.0に関するある説話が残っているという。
ある女が対岸の村の彼氏に会いに行きたいが金がなく、舟乗りAに金が無いならダメだと断られる。
どうしても対岸に渡りたい女は舟乗りBに頼み込む。
すると舟乗りBは、身体で払うなら良いよと答える。
女は彼氏にどうしても会いたくて身体で払う。
そうして会いに行った彼氏は何故かそのことを知っており、女は振られ泣き崩れる。
そこに最初の舟乗りAが現れ、『俺は全て見て知っていた。
だけどお前を愛しているから、俺の胸に飛び込んでこい』と告げた。
女は男の胸に飛び込んだ。
そうして最後に問われる。
あなたが大切なものは、金か愛か性欲か倫理かと。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師とすら語られる世界最強No.0。
その逸話は数限りない。
だが、その最強の名が世界の叡智の塔に刻まれることは、ただの一度も、ない。
なお、とある詐欺師は自分のやらかしたことが、重犯罪ではなく帝国を滅亡の危機から救った事に気付いていない。
世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。
彼はそういう男である。
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