第21話【魔王編】ゴンザレスとグレーターデーモン裏話①

 グレーターデーモンさんは大きかったですわ……。


 あら? 貴方、とても大きいのね!

 そんな感じ。

 是非ともメメちゃんに言ってもらいたい言葉である。


 毒の沼地の向こうで、世界ランクNo.2カレン姫が戦闘を続けているのが見える。

 こんな時ではなければ、是非お相手願いたいほどの美女だ。


 魔力が強く洗練されている程、美人になる傾向がある。

 これは体内魔力と美容が相乗効果を生み出すため、と言われている。


 つまり美しい=超強いという図式が成り立つし、強くなれば美しくなっていくので、総じて女性は魔力が洗練されている。

 美に対する欲求は恐ろしいのである。


 その中で世界ランクNo.1はハムウェイという男なのだから、その強さは異常なほどだ。

 それを超えると呼ばれる世界最強No.0……一体何者なんだ。


 ま、まあ、その〜、存在しない。


 世界ランクNo.8の小娘には、何故か俺がNo.0だと誤解されるぐらいだし。

 まあ、かたったけどよ〜、あの一回で信じるなよなぁー?

 これだから純粋培養は。


 何回か詐欺をするのに世界最強No.0の名前を使っただけなのに。

 何度も言うが、詐欺はでっかい嘘の方がバレないものである。

 王族だとか公爵の御曹司とか。


 貴族がその辺に共も連れずにウロウロしてる訳ねぇだろ!

 しかし、人はそんな訳ねぇだろ?

 そう思うものだけに、それらしき証拠を見せたらあっさり信じたりする。


 疑うからこそ、自分でそうだと思い込めば簡単に転がる。


 俺がウラハラ国のカストロ公爵の御曹司を騙った時は、証拠というより証人が居た。

 世界ランクNo.8、本物のウラハラ国の遺児イリス・ウラハラ。


 滅びてはいるが事実上国のトップがそう認めたら、権力なんかはないが事実にはなる。

 否定する人が存在しないから。


 まったく酷い詐欺だ。


 通常ならば、だから?

 そんなふうに一笑にふされて終わりの出来事だ。


 だけど偶然にもそのタイミングで、何処ぞの誰かがエストリア国の勇者を可愛い女の子に変えて撃退しちゃったからさあ大変!


 まあ? 一体、何処のイケメンかしら?


 いや、それは今は。

 とにかく俺には関係ないことだ!


 それは永遠に置いといて、グレーターデーモンさんについて説明しよう!


 グレーターデーモンさんは魔王の四天王と呼ばれる魔獣で、本来なら魔王軍の側に控えている存在である。

 だからグレーターデーモンさんは4体居ると言われている。


 何が脅威かと言えば、奴ら魔獣を連れて移転してくるのだ。

 なんとズルい。


 そうは言いつつも当然、そんな力には制限がある。

 要するに移転するための目印が必要なのだ。

 無差別に何処にでも飛べる訳ではない。


 それがある特定の魔力だとされている。

 勇者たる素質のある強者のみ。


 まあ、つまり狙われるのは世界ランクナンバーズだけってこと。


 その結果、魔王出現以来、僅かな期間でNo.3〜7が殺されている。

 そんでもって今はNo.2カレン姫が大ピンチである。


 ざーんねんだなぁ〜。

 美人なんだけど、ありゃあ、もうダメだ。


 助ける?

 無理無理。

 近付いたら俺がグレーターデーモンに殺されちまう。


 帝国軍と連携して魔獣数十万以上とやり合いながら、ここまで奥に追い詰められたのだろう。

 彼女も早い段階で帝国軍を見捨てることが、出来ていれば逃げられただろうに。


 ああ、残念、残念。

 じゃあ、帰ろう。


 契約は果たしたよ?

 契約内容は『お助け頂ければ、メメちゃんは俺のものになる』、つまり、とは言ってない。


 最初にカレン姫を助けてと言ってたが、契約時には言ってないからそこは契約外だ。


 ここまで来る手助けをしたから、もうそれで十分だろ?

 迷子は見つけた。

 回収するのは帝国の役目。


 グレーターデーモンからの救出なんて不可能だからね、あとは頑張れ。


 そう理論武装したところでメメちゃんが何かに気付き駆け出した。


「カレン姫様!」


 あ、足はや〜い。

 あの娘も人外だったのね……。


 カレン姫は今まさにグレーターデーモンに跳ね飛ばされ、数十メートル飛んで何度もバウンドする。


 こちらに真っ直ぐ近付くように。


 ヤバッ!!!


 想定される最悪の事態を詐欺師の直感から即座に予測。

 すげぇぜ、俺!


 ……ボケてる暇がない。

 このまま何もしなければ間違いなく殺される!


 俺は駆け出し油の沼とグレーターデーモンが直線に並ぶ位置に移動。


 布の先端を僅かに油につけ、棒状の持ちやすい木の棒に急いで括り付ける。


 急げ急げ、俺は生きるんだ!

 こんなところで死んでたまるか!

 避難位置確認よし!!


 即席松明に即座に火を着けたかったが、そうする前に、メメちゃんがカレン姫を背負ってこっちに戻って来る。


「やめろ! コッチに来るな!!」

 俺は沼から離れる方向を指差す。


 爆発に巻き込まれたら確実に死ぬぞ!


 2人がこちらに来てもグレーターデーモンごと焼くしか俺が生きる方法が無くなる。


 超寝覚めの悪い究極の2択。

 しかも、そうしなければ確実に俺が死ぬという非道っぷりだ。


 そうでなくても、このままではグレーターデーモンが真っ直ぐ美女2人を狙いに行くから、どちらにしてもヤバいが。


 男と美女2人。

 うん、間違いなく俺なら美女2人を狙うね!


 でも、そんな考えも無用の話。

 メメは俺が叫ぶと同時に、大木を利用してグレーターデーモンの死角に入るようにカクッと……それは見事にカクッと曲がった。


 真っ直ぐグレーターデーモンの視界の直線上に俺だけが残る。


 俺と目が合ったグレーターデーモンは真っ直ぐ、如何なる生物も死んでしまう毒の沼をものともせず突っ込んで来る。


 遮るものの無くなったグレーターデーモンと俺の視線がバッチリ合う。

 俺、ニゲラレナイ。


 き、貴様ぁぁあああ、図ったなぁぁああ!!

 やられた! 流石はS級美女!

 男を(物理的に)落とすすべを心得ておったわ!!


 おのれ! 初心うぶなねんねと見せかけ……まあ、初めてでしたけど、とにかくはかられたわ!!


 そう思いつつも身体は素早く動き、数秒の間に火を付け、俺は目処を付けていた大木の木に隠れる。


 沼全てを刹那の間に火が上がると、すぐに激し過ぎる大爆発。

 その爆発は音を置き去りにして、いっそ全て静寂なのだとすら思わせる。


 この際に起きた大火は、ダレムの大森林の全てを、数十万の魔獣ごと焼き払った。

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