第18話【魔王編】ゴンザレスとメリッサ裏話②

 まだ何も確定した情報は入ってきていない。

 帝国も作戦行動が始まったばかり……に見えなくもない。


 当然、俺は軍の関係者どころかこの国の関係者ですらない。

 よって得られる情報には限りがある訳で。


 後はもう詐欺師としての勘としか言いようがない。


 俺はあまりに気になってダレム大森林の地形のことや土地柄について、生まれて初めて金を払って図書館で調べた。


 もちろん、この時点で何かを考えていた訳ではない。


 ただ時間の経過と共に嫌な予感……今すぐ帝都から逃げ出すべきだという直感がうずくのだ。


 ……俺は直感に従うことにした。


 最後にメメちゃんの顔でも拝んで出立しようと第3諜報部の酒場に来て、帝都の『見納め』のつもりで水を頼む。


 そこにメメちゃんが顔を見せ、いきなり俺の目の前に土下座をかました。


「お願いします!

カレン姫様をお助け下さい!

何卒、この通りです!」


 はっきり言おう。


 この瞬間、この帝都で最も絶望していたのは俺だろう。


 だって帝国の最精鋭諜報部隊の隊長自らが、ただの箸にも棒にもかからぬチンケな詐欺師に土下座して、帝国最強の世界ランクNo.2を助けてくれと言うほど。


 ……帝国が『終わっている』という証拠なのだから。


 マジかよぉぉおおおおおおおお!!!


 それとも、俺に女を土下座させて喜ぶ趣味があったから幻覚でも見ているのかもしれない。

 そんな趣味あったかなぁ〜?

あったかもしれない!


 なんと言っても美女だ。

 それもそんじょそこらの美女じゃない。

 世界を代表出来るS級美女だ!


 首元までの茶色のサラサラのショートヘアに、全体的に小柄で可愛らしい。


 今は土下座をしているので、見えないが、クリっとした黒い目が宝石のよう。


 朗らかで温かい雰囲気の看板娘で街娘らしい素朴さも魅力だ。

 ……が、現在はその素朴さはなりを潜め超美女オーラが漂っている。


 ここ最近、この酒場に入り浸っているが、酒場で働いている時はここまでの美女オーラを放っていない。


 昼間なせいか?

そんなんで街娘が絶世の美女になると?


なるわけあるか!


つまりアレだ。

メメちゃんは今まで街娘に化粧などで偽装していて、余裕がなくなったせいか、本来の美女モードで俺の前で土下座しているというわけだ。


うん、訳わかんないよね。

俺にも分かんない。

誰か教えて?


 見るからに肌艶が良く、ちょっとその白く艶かしい肌を見るだけで生唾をごくんとしてしまう。


 俺はスラム出のチンケな詐欺師だ。


 詐欺師と言っても、国際手配される大物詐欺師ではなく、小銭を少しだけ頂戴するぐらいのささやかな善良な(?)詐欺師だ。


 ……前置きが随分長くなってしまった。

要するに現在のメメちゃんの美しさを語るのに、この程度では足りないぐらいだ。


 結論、何が言いたいかと言うと、俺は間違っても、こんなS級美女に助けを求められるような存在ではない。


「世界ランクNo.2を助けるとは、どう言う意味だ?」

 まさしくどういう意味だ、である。


 カレン姫とは、このシュトナイダー帝国の皇女である。

 世界ランクNo.2で実質世界で2番目に強いお方にござる。

 そんなお方がピンチにおじゃるか?


 ……誰がどうやって助けられるというのだろう?

 コルラン国の世界ランクNo.1を連れて来なさい。


「故意か?」

 例の作戦、やはり世界ランクNo.2を囮にして帝国が大森林に罠を張ったと言うことか。


 そりゃあ、悪手だよなぁ……。


 大森林には魔獣発生の魔力が溜まっている。

 ただでさえ、そんな土地に魔王の手下であるグレーターデーモンを他の魔獣ごと呼び寄せる。


 敵をパワーアップさせてどうする!?


 酒場の看板娘メメちゃんはそのお美しいお顔で俺を見つめる。

 看板娘姿とは違い今の状態は確かにお姫様に見えるほど美しい。


 いつもの街娘風な感じが一切ない。

 見事なり! 美しさは正義である!

俺、詐欺師。

悪党なので成敗されちゃうから逃げていい?


「カレン姫様が森で行方不明になられました……」


うん、それは分かったけど帝国で捜索隊出すのが普通じゃね?

 まあ、出した上で見つからず手段なしってことなんだろうけど。


 普通なら美人局の可能性120%、オモチャにされている可能性50%、何か他の詐欺30%、合計で200%罠だ!!!


 1番恐ろしい罠はもちろんケツ毛を抜かれることだ。


 そこで今、ケツ毛を抜かれるってなんだよ?

抜かれる訳ないだろ、と思った奴!!

 ……抜かれるんだよ?


 あれはそう俺がまだ駆け出しの純粋な詐欺師だった頃……。

 おっと、この話はまた今度な。


 とにかくケツ毛は抜ける!

 それだけ覚えていればそれで良い。


 そんな俺も今では、ベテランのチンケな詐欺師。

 ベテランでチンケな詐欺師って何、とか突っ込むなよ?


 とにかく立派になった。

 ここ1年ほどは世界ランクNo.0の名前をチョイと拝借して、小銭を巻き上げるのが俺的ブームだ。


 世界最強ランクNo.0。

 どうだ、言葉だけで怪しいだろ?


 ところがところが、この世界最強とかいう言葉は驚くほど周りは引っ掛かってくれる。


 大体、人間で世界最強ってなんだよって感じだよね!!!


 世界最強であるNo.1ですら人間である以上、飯も食うしクソもする。

 寝てる間は……噂では世界ランクナンバーズクラスの化け物は寝てても反射的に反撃するらしいので近寄らないように。


 いずれにしても絶対無敵ではない。

 その証拠に魔王出現以来、すでに世界ランクナンバーズはその半数が魔獣の不意打ちで殺されている。


 単純に数の暴力には勝てない訳だ。

 今も世界第2位の強さを持つ世界ランクNo.2カレン姫が大ピンチときた。


 ま、世界最強なんてそんなもんって訳だ。

 せいぜい物語でネタとして使われるのが関の山ってね。


 

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