第16話【序章の詐欺】No.1とゴンザレス裏話③

 そして、次の日、何食わぬ顔で塔の下に来た。


 顔は見られていない、はず。

 こういうのはオドオドしてはいけない。


 やましいことがあると、思わず人は警邏の者をジーっと見てしまう。

 視線には力があり、その心の隙をヤツら警邏の者は見抜くのである。


 目の前で詐欺をしても、わたくし、詐欺なんて致しませんことよ?

 そんなふうに堂々と言い切らなければならない。


 例えば、浮気した時の旦那の言い訳は、

 知らん、それは俺じゃないの一択である。

 それがどれほどの証拠を揃えられても、だ。


 そう! 何故か世界ランクNo.1光のハムウェイ、世界最強の男に凝視されようともだ!!


 なんでだぁぁあああああ!!!

 なんでそんな危険人物に凝視されねばならんのだ!!!


 目を合わせてはいけない。気をつけよう。


 ……目を合わしてないんだから、ニコニコ笑顔で近づいてこないで?

 俺がなにをしたぁぁあああ!!!


 今、魔王の検知から逃れられるようにしてあげたところなんだ!

 わざわざ! そう、わざわざよ!


「何してるんだい?

 君、この国で重犯罪人って理解してる?」


 ヒィイ!?

 しょ、職務質問かけられたぁぁあああ!!!


 ほっといてくれよ!

 俺、あんたになんもしてないじゃん!

 内心、涙目になりながらどうにか答える。


「なんのことだ? アンタは誰だ?」


 もう帰って下さい!!


 ……僅かな沈黙。


 そして突然、狂ったように笑い出す世界最強No.1。

 こ、怖い……。

 逃げたいが、怖くて足が動かない。



「……ははは、あくまで僕は眼中にないということかい?

 ははは……随分、バカにされたもんだなぁああああ!!!!」


 烈風が吹き荒れ辺りの物が飛ばされる。

 いっそ俺も吹き飛ばせぇぇえええ!!!


 何故、よりによって俺だけ吹き飛ばさずに残すんだぁぁあああああ!!

 逃げらんないじゃねぇええかぁぁあああ!!!


 ガクッとNo.1が本当に『何故か』膝を付く。

 俺はその瞬間、迷わず逃げた!!


 最後に敵ではないことを伝え、ただひたすらに逃げた。


 もういやぁぁあああ!!!

 なんで、こんな目に遭うのぉぉおおお!!






 この僅か数日後、世界の叡智の塔に異変が起き世界は魔王の出現を認識する。


 世界最強No.0は誰よりも早くその事に気付き防ごうと活動していたという。

 そうと思わせる行動と証言があった。


 また同時期、滅びる運命にあった部族がとある人物により救われた。

 その者は神の使徒の叡智により、その部族に命の水を与えた。


 だが、その者は自らの名を告げることもなければ、与えられた報酬を受け取る事もなく立ち去った。

 

 またさらに同時期、小さな村で病に苦しむ母娘が居た。

 その時、まだ4歳程度の娘がNo.0と名乗る人物に文字を教えて貰い、母を救ってもらったという。


 そしてコルラン国の世界ランクNo.1の前にNo.0が姿を見せ、真なる敵の存在を示唆しさしたという。


 やがて世界の人々は魔王の出現と共に、世界を守る世界最強No.0の存在を強く意識せざるを得なくなった。


 何故なら、魔王出現で世界ランクナンバーズが次々と殺される中、No.0と思わしき人物と接触したナンバーズのみ、その難を逃れることが出来たのだ。


 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、ランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 静かに庶民の間だけに広がっていたその噂は、世界の最大の危機にその名を世界に轟かすことになる。


 それが、世界最強ランクNo.0。


 世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。




 なお、これだけの出来事を引き起こしておきながら、とある詐欺師はやっぱり自分のやらかしたことについて気付いてはいない。


 そして、これからやらかしてしまう様々な『詐欺』も。

 世界最強No.0『かもしれない』、詐欺師ゴンザレス。

 彼はそういう男である。

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