第15話【序章の詐欺】No.1とゴンザレス裏話②
世界の叡智の塔の周りは、特になんの警備もしておらず、せいぜい観光客の整理のための囲いがしてあるぐらい。
訪れた者は思い思いに塔を眺めて触ったりしている。
落書きについては流石に罰則があり、見つかれば憲兵にしょっ引かれる。
詐欺師ゴンザレス、当然、そんな危ない橋は渡らない……と言いたいんだがなぁ〜。
入り口も窓もないこの塔。
全てが謎だらけ、ただ世界ランクを表示するのみ。
本来の目的は来るべき魔王復活のための対抗策のため。
もう一つあるらしいが、今はまだ俺も全てを掴めていない。
1000年前、世界は滅びかけた。
まあ、その辺りの歴史も失伝しているのでウロウロしながら探し中。
歴史ってのは最高の物語だからねぇ。
気になる記述を見つけたのは、あの小娘と出会う少し前。
あの小娘と出会った地域一帯は、元々エストリア国に滅ぼされたレイド皇国の土地で、レイド皇国は帝国と親戚筋で仲が良かった。
だからあの街の反抗勢力と帝国が結びつきやすく、帝国の拠点も作りやすかったという訳。
その反対に帝国からの逃亡者も入り込みやすいというわけで、小娘があの街に流されて来たのもある種の必然と言えた。
んで、あの街で何を見つけたかと言えば、魔王復活の前兆について。
魔獣の増加と魔王は切っても切れない関係であり、旅をしていると徐々にではあるけど、魔獣被害が増えて来ているとか、暗黒の暴龍の封印が解けかけてるとか色々聞こえてきた。
本当なら姫巫女の生贄の儀はもう何年か先だったのだ。
でなくばあの女A、女Bも悠長に冒険者などして遊んだりはしなかっただろう。
噂に聞き及ぶ今代の姫巫女(おそらく女A)も決して役目から逃げるタイプではない。
だがその暗黒の暴龍は今代姫巫女を喰らおうと動き出し、例の寄生虫も現れた。
世界の叡智の塔にまだ反応はないが、魔王が復活するのかもしれないということだ。
ジョーダンじゃない!!!
そんなことになれば、
そんなことになれば、魔王退治のための人類の団結をお題目に、犯罪者たちへの取り締まりが強化される。
平和ボケしてサイフの紐もゆるゆるの都合の良いカモも、おのぼりで世間知らずの美味しいお嬢ちゃんたちも全て居なくなってしまう!!
反対に荒んだ心で、へへへ、有り金とケツ毛置いて行けやとナイフの刃を舐める強盗や悪党が増えることになる。
そして余裕がないから、犯罪者は悪即斬で俺みたいなチンケな詐欺師は真っ先に始末される!
つまり大戦争が
これはなんとかせねばなるまい!!
俺のために!
本当ならば俺は動きたくない。
しかし、ここまで本を読み世界を旅して様々な情報を集めているのは、どう考えても世界で俺しか居ない。
誰か偉い人にでも伝えて動いてもらえば良いのかもしれないが……誰が信じるよ?
俺なら信じない。
信じた時点で終わってる。
何故なら!!!!
何故なら俺は、詐欺師だからだぁぁあああ!!!
あああああ!!!
俺は詐欺師だぁぁぁあああ!
誰が何と言おうとぉぉおお!!!
仕方ないだろぉぉぉおおおお!!
スラムじゃ仕事がないんだものぉぉおおお!!
誰か、誰か俺にマトモな仕事をくれぇぇえええ!!
あー……、カストロ公爵領とかいう領地で古本屋出来ないかなぁ、あそこ噂で聞く分には上手くいってるみたいだし。
仕事斡旋してくんないかなぁ……。
でも俺、実質戦争の時に逃げ出した逃亡兵だからなぁ、下手したら逃亡罪で処刑……。
うう……。
ま、それはそれとして。
細かいことを気にしてたら詐欺師なんてやってられないのさ。
そもそも偉い人は俺の味方とは限らないしね。
むしろ敵だろう。
そんなこんなで俺は夜半を待ち、再度、塔の下へ。
タイミングを合わせれば1時間は猶予がある。
イレギュラーの可能性は常にあるが、最悪も想定して最低ライン行うべきところをチェックしてから現場に臨む。
世界の叡智の塔には機動紋を描き、発動したら条件キーから順番に指定条件を入力、そこから想定パターンと演算による式を描いて、指定配分からの魔導パターンでもって、条件設定と仮定条件、発動プログラムに公式設定、エラー時の配分条件の指定がががが……。
それら条件設定を終えたら、目的の指定項目を指示して各個別設定、と。
認識しているナンバーズの認識パターンを描いていく。
ソーニャちゃん、魔力検知から外す。
女Aって、ツバメって名前だったのか。
No.9になっとるやんけ。
魔力検知から外す。
No.8……まあ、可愛い女だしな、死んだら寝覚め悪いし、外しておこう。
というか、No.1と戦ってたけど、やっぱり生きてるんだな?
魔力検知から外す。
No.1は……イケメン死ね!
……と言いたいが、魔王を倒して貰わないといけないし。
魔力検知から外す。
1000年前、魔王は勇者になり得る存在を魔力検知により奇襲をかけて殺していったそうだ。
かつての勇者召喚はその魔王の魔力検知にかからない強者を呼び出すための苦肉の策であった。
何故か異世界からの勇者は魔力検知されないからだ。
これは諸説あり、存在自体が違うとか魔力を持たないとか『スキルなるもの』が検知を防ぐからだとか、色々言われたが世界の叡智の塔の機能の一つに、その魔王の魔力検知を誤魔化す機能が付いている。
その機能を使用するには、魔力検知から外す対象の魔力自体の質やらパターンやらを理解しておかなければならないので、本来は容易では無いけどね。
そんな作業を1時間で終えられたのは奇跡かもしんない。
警邏の魔法の光に照らされないように、壁伝いにそろりそろりと移動。
「誰か居るのか!?」
ヤバい!!
確認はまた明日だ!!
飛ぶように俺は逃げた。
待てー、と背後から聞こえるが待つわけがない。
チクショー!!
なんで俺がこんな苦労を!
仕方ない、仕方ないんだ。
誰が仕掛けたか分からないが、世界の人から世界の叡智の塔に対する認識が『変えられた』のだ。
それはつまり、絶対厄介ごとである。
俺が誰か権力者にこのことを伝えれば、闇から闇へ
それを仕掛けた『敵』は絶対に権力者だ。
その辺に居る人間に操作出来るもんじゃないからだ。
俺? 俺は超イケメンで天才だから例外だ!
俺も知ったのはたまたまだけど、さ。
ほんと、なんで俺はこんな苦労してるんだ!?
泣きそうだよ!!
俺は涙を拭きもせず、跳ねるようにピョーンとコルランの夜の街を駆け抜けた。
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