第14話【序章の詐欺】No.1とゴンザレス裏話①
……悲しい別れがあった。
ナリアちゃんは……ナリア君でした。
クッ……涙を拭くのよ、ゴンザレス!
貴方にはまだやるべきことがあるはずよ!
そんな訳でゴンザレス、いやいや、俺アレスはコルランに移動中。
もちろん、正式に入るには身分やらなんやら……色々と叩けばホコリが舞ってしまう戦争犯罪者詐欺師の俺には難しい。
そんな中、帝国とコルランの国境の田舎街の酒場の隅にてヒソヒソと話し合う、俺を含めた男5人。
「この薬が有れば目的の魔物を呼び寄せられると?」
「くひひ、その通りです。
しかし、それには少々条件がありましてなぁ」
怪しげなローブを着て、ガラの悪そうな男4人の冒険者パーティにこっそりと話を持ちかけている。
「片道だけでいいから森に連れてけ、だろ?
まあ、俺らからすればそれほど難しい条件じゃないしな。
良いぜ? その代わり……」
「ええ、効果が出なければお金も返しますし、その場で置いていって構いません。
あっしとしても自分の研究結果をみたい欲があるのですよ」
マッドサイエンティストの研究者のフリをした俺の提案をガラの悪い冒険者どもは飲むことにしたようだ。
「研究者というのはよく分からん生き物だな」
くくく……、智の探求者というのは馬鹿には理解出来ないってことさ。
魔獣寄せの薬は格安で提供。
どうせ元はタダだしな。
目的の魔獣を呼び寄せられるかは、運次第だがな。
魔獣寄せの薬は魔獣を『呼び寄せる』であり、『目的』の魔獣とは限らんからね。
どうでも良いことだ。
俺の目的はコルランに入ることだ。
そうして、俺は無事にコルランに入り込めた。
冒険者ども?
案の定、俺の言うことを聞かず辺り一面に過剰に薬をぶちまけて、魔獣の大群を呼び寄せてたよ。
本で学んでいれば、この手の童話なんていくらでもあるのにな。
俺は迷わず自分だけ『魔物避け』の薬を使ってその場から逃げたさ。
言葉でも物理でも、逃げ道だけは常に確保が詐欺師の基本だ。
男どもが死骸になった後、持っていた高そうな黒曜石のナイフをどさくさに紛れてゲットして、ホクホクとしながら現場を後にする。
男どもも悪い事ばかりしているとこうなるって話。
これも良くあるお話だよね。
ちなみにこの黒曜石のナイフだが、とある娘さんの兄から奪われた形見のナイフだそうな。
お礼はもちろん……夜のご褒美ってやつだ。
ま、それは帝国に帰ってからのお話、そのままの足で俺はコルラン首都バンフレッサに向かう。
コルランに入ってすぐに小さな村に立ち寄る。
入ってすぐに村の子供が地面に落書きをしていた。
よくある光景である。
この行動で人は絵を描いたり、自らのセンスを磨くのである。
ちょっと可愛い女の幼児だったので、一緒にしゃがんで文字を教えておいた。
世界でも共通の数字と本という言葉。
それにナンバーズの名前。
あとついでにNo.0。
No.0を書いた時に冗談で俺自身を指差す。
意味が分からないらしく、可愛く首を傾げる。
ちょっとほっこりとすると共に、こんな可愛い娘が居るならば母親はさぞかし麗しいことだろう。
言葉巧みに頂いてしまおうと案内してもらう。
……病気でガリガリだった。
両手両膝を地につき落ち込む俺。
流石にここまでガリガリだと食指が動かんぜよ。
しかぁぁああし! そこで諦める俺ではない。
今はそう、ガリガリかもしれない!
だがしかし、病から回復したら恩を感じて、俺に身体で恩返ししてくれるかもしれないのである。
まさに情けは人のため為らず、俺のためである。
聞き込み、触診から、口の中から。
もう少し健康的ならこのまま、診断のふりして頂くんだけどなぁ〜。
診断のフリって言っても何処かで必ずバレるけど。
んで、本で見たことある症状だった。
「栄養不足だなぁ。
いつか身体で礼をしてくれ」
冗談ぽく言うが、かなり本気だ。
ごまをひと瓶置いていく。
日に数回、これを食すべし。
栄養不足だが何の栄養が必要なのか分かってないと、こういった田舎の村では治療は難しい。
コレもまた本の知識よ。
諸君! 本を広めたまえ!!
完治には時間が掛かるから治るまでずっと滞在すると言うわけにもいかない。
シティーボーイの俺ちゃんからしたら、この村で農業して暮らしたくは無いのよ。
幼児の頭をなでなで、行きがけの駄賃に金目の物でも頂いて行こうかと思ったが……なんにも無いね。
この幼児の母親がもう少し元気である、もしくはこの幼児が後10歳……いや15歳ほど年を取ってれば、身体で報酬を払ってもらったんだが……。
俺はそうして、泣く泣く村を去った。
それから数日後、町の宿で一時的に旅の疲れを癒していると、こんな噂が流れて来た。
曰く、ふらりと旅の聖者が訪れて魔法の秘薬を置いていき、病で滅びかけていた村を救ったらしい。
そして、なんとその人物は名乗らずに去ったが、どうも噂では世界最強と言われるNo.0だったとか。
名乗らないでどうやって、No.0だと分かるんだよ、と俺は思う。
こういう庶民に流れる噂というのは、地域の権力者の情報操作が入らないため、実は権力者が発信する情報よりも正確なことが多い。
しかし同時に
どうせ、旅の医者が薬置いていって、劇的に治ったから村の説話として次世代に伝えるためにした話だろ?
そんなの良いから本を作れよな、本を。
そんなことを考えながら、俺は一路コルラン首都を目指すのだった。
このコルラン国首都バンフレッサは他の国の首都に比べ、異国情緒漂うというか独特の雰囲気だ。
新しい文化と古い文化が混在しており、貴族文化を残しながら、いち早く議会制も取り込んだ柔軟な文化だ。
研究も盛んで、面白そうな本もある。
いつかはこの国の図書館にも侵入したいものである。
その反対にスラムも広く、首都のスラムに至ってはその広さはすでに街一個分。
首都は公称よりも倍の広さがあるということだ。
つまりコルラン国は様々な文化を取り入れると共に、様々な文化も切り捨てた魔都とも言えるのであった。
そうして、俺はそんなコルラン国首都の世界の叡智の塔の下にやって来た。
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